「えー、それじゃあ。また後日、さらに詳しくお話を伺いに参りますのでよろしくお願いします」
警備隊の騎士さんにはとりあえず要点を伝えた。
私が被害者で、氷漬けにされかけた影響でまだ顔色が悪かったのもあり、早めに切り上げてくれた。優しい。
その後、歩けると言っているのにも関わらず、リオネルに抱きかかえられ、病院に強制連行された。
「リオネル、ちょっと過保護すぎでは!? すこし温まれば大丈夫なのに」
「だめ。顔色悪いから」
リオネルは、高価な費用がかかる聖属性の先生に依頼して、私の水魔法のダメージを全て治してくれた。
「わー……。さすが聖属性。すっかり健康だ……ありがとう、リオネル」
「ううん。僕が治療してもらいたかったんだ。顔色も元に戻ったね」
「い、いくらかかった……?」
「それを聞くのはマナー違反じゃないかな? それより、お昼をだいぶん回ってしまったよ。どこかで外食するか、何か適当に市場で買って帰ろう。大丈夫? 食べられる?」
「ああ、そうかお昼……。病院も寄ってしまったし、何か買って帰るほうがいいかな。リージョ達もお腹減ってるかも」
「なるほど、そうだね。美味しいもの買って帰ろう」
市場でお昼ご飯を見繕ってるうちに、精神的にも落ち着いてきた。
買い物って気分転換になるね。
「わ、本当にたくさん買っちゃった」
「これは、晩ごはんにも回せそうだね」
二人で苦笑しながらの帰り道。
先程あった事件が嘘のように、幸せな日常だ。
ただ、ボニファースのことが少し気になったので、話しを聞いてみた。
「あのボニファース子爵令息って、学生よね。なぜあそこにいたのかしら」
警備隊でもないのに、ただの学生がなんであんなところに? と思ったのだ。
「ああ……。あいつ、ウィルフレド閣下のストーカーなんだよね。ファンで弟子になりたいみたいだ。でもウィルフレド閣下は多分……態度に出さないけど、アイツのこと嫌いだと思う。弟子になりたい割には訓練もしないし、ホントについて回って迷惑かけてるだけ……」
「……。そういえば態度も最悪だったね」
ストーカーか。有名人は大変だな。
「態度が悪かったのは僕がいたせいもあると思う。僕、ボニファースには、嫌われてるというか恨まれてるんだよね」
「え、 なんで」
「あいつがウィルフレッド閣下のファンだっていうのは、アイツの周りの学友は知ってる話でね。毎年、ウィルフレッド閣下が騎士の授業に来る時期になると、騒いでうるさかった」
「そういえば、次の剣聖を覚醒させるためのイベントがあったね」
「うん。剣聖に真剣勝負を挑むチャンスを貰えるんだ。だから、あいつは真剣勝負を申し込んで剣聖になるんだ! とか弟子にしてもらうんだ! とか、何日も騒いでてね……」
「あ~……」
なんか痛い話の流れになりそうだ。
「結果はね、挑戦者の枠にも入れなかったっていう。しかも憎んでた僕が
「ああ、それはすごく憎悪渦巻く嫉妬になりそうね……」
「クラスメイトが見つけて止めてくれたんだけど、僕の学校の教科書を破いたり捨てようとしたり、嫌な予感がして立ち止まったら、少し前方に水が落ちてきて、上を見たらアイツがバケツもって悔しそうな顔してたりとか……。令嬢たちとは違う意味で、ちょっと面倒な相手なんだよね」
良く避けられたな、と思ったけど。
剣聖にもなればそういう回避も、お手の物なんだろう。
「なあに、その悪役令嬢。男だけど」
「ふふ。何その例え。それに加えてさ。アイツ、うちの家のパーティは出禁になったけど、他のパーティじゃ顔合わせたじゃない? アイツ、姉上にまだ付きまとおうとしてたんだけど、僕が排除してた。あ、僕が家を出る前の話ね。だから嫌がらせしたくなるほど、僕が心底嫌いってわけ」
つまり、気に入ってるものを全部リオネルが持っていく、とか思ってるんだな。
「リオネルがいなくなったあとは? ボニファースには会わなかったけど」
「あいつも、僕と同じ全寮制に来てたから、なかなかパーティには行けなかったんじゃないかな。噂によると、素行が悪くて親からも、寮に入ってからは、パーティは禁止されてるそうだ」
「なんと……。それで今まで会わずに済んでたんだ。リオネル、ありがとう。気をまわしてくれてたんだね」
リオネル、そんなことしてくれてたんだ。
ちっとも知らなかった。
「お……弟として当然だよ」
微笑みを向けたらちょっと照れた模様。かわいい。
「でもあの様子だとまだ姉上のことにも固執してそうだ。オスニエルを見て思ったよ。姉上が平民になったと、もしも知ったらあいつ調子に乗りそうだ。……やっぱり引っ越して良かった」
リオネルは、私の髪をすこしかきあげ、こめかみにキスした。
とても大事にしてくれてるのを感じる。
数年会わなかったことが本当に嘘みたいだ。
「私のこと、一杯考えてくれてるんだね。リオネル」
「そりゃ、大事な……家族、だもの」
「シスコンだね」
「そんな言い方ないでしょー」
「うん。でも私もブラコンだ。ありがとう、リオネル。私もこれでもリオネルことはいつも心配してるし、気にかけてるよ」
背伸びしてリオネルの頬にキスを返した。
怖くて……感謝でも「大好き」とは、もう言えない。
遠回りでしか愛情を伝えられない。
それでも。
そんな会話でも、リオネルには何か伝わるものがあったようで、優しい笑みを返してくれた。
その後、二人とも無言で帰り道を歩いたけれど、ただ隣に彼がいるというだけで幸せな時間だ、と感じた。