「そこに眠っている赤毛の少女がいるでしょう。その妖精はバンシー。私の最初の
「バンシー……? あの死期を報せにくるとかいう」
「ええ。私が13歳になる頃に、毎晩のように庭に泣きに来ましてねえ。それでなくても医者にもう長くないって言われてのを知っていたので――非常にむかつきました」
「む」
むかついた!? 怖かった、ではなく!?
普通そんなのが家の庭先に毎晩来たら、怒りじゃなくて恐怖で頭おかしくなるわ!
やっぱ、この人、感覚が普通じゃないわ!
「だから、ある夜に奴が油断したところ、殴り飛ばしました」
「不治の病の少年が!?」
「むしろ道連れにしてやろうと思って。力を振り絞りました。 その頃には秀才な私はアイスマジックを習得していたので、足元を凍らせて、何度も殴りましたよね。いやー死ぬかと思った」
怖い!!
そして死を覚悟して殴りかかりながら死ぬかと思ったって、どっちなのよ!?
「死ぬのなんかもうわかってるし、お前なんかが来る意味ないから、お前の存在意義ないし、鳴き声可愛くないし、叫び声もうぜえわ! このまま道連れにしてやろうか! とか暴言を浴びせたら、普通に泣き出しましたねー」
「バンシー弱っ!?」
バンシーって強そうなイメージを私は受けていたのだけど、怖いだけでか弱かったのかもしれない……。
「そうしたら私は私の存在意義を証明してやる、お前をツガイにして生かしてやる……とかいい出しましてね。というか私の顔見て赤面してたので惚れられたのかもしれません。まあ、私は美少年だったし、たまに庭に現れるピクシーにもハンサムねって良く言われてたから多分そうなんでしょう」
自分で美少年って言った……別にいいけど……。
「なんか……バカップルですね」
「照れますねー。……で、まあツガイの儀式をされたら、あら不思議。体中の痛みが引いてとても健康になりました」
「それは……おめでとうございます」
こないだお父様が言ってたまんまだ。
病を患っていても、事故にあっても生き続けるって。
すごいな、ツガイの儀式。
「でもねえ~。数年経った時に、バンシーに言われたんですよね。お前の病は不治だから、私の生命はそれを癒やし続けてそろそろ限界だと。私はその頃、青春まっさかり。それ聞いてお先真っ暗になりましたよね。そういうことは早く言えよってね」
「……あの、結局バンシーとは結婚は」
「するわけないでしょー。なぜ麗しい私が、あんなのと結婚しなくてはならないんですか」
色々酷いな!?
私が思うに、バンシーは先生に何故か惚れちゃって死なせたくなくなったんだろう。
そして、禁忌を犯してツガイでもない相手にツガイの儀式を施したんた。
ツガイ成立後ならきっと不治の病でもこんなに短命になることはなかっただろうに。
「ヤツはこうも言いましたね。私とお前は死を共にするのだ、まさにツガイ、と、フヒヒって笑われてねえ。きもかったなぁ」
「はあ……そうですか……」
なんか、どっちもどっちだな。
どっちも残念要素がすごすぎる……。
「さすがに私も慌てましてねー。なんとかする方法を色々考えたんですよ。だからそれを聞いてからは態度を改め、甘い言葉を囁いてバンシーから色々聞き出しましたよ。私を気持ちが通い合ったと思ったバンシーは知ってる限りのことを教えてくれましたよ。ふふ。……で、その結果がこの部屋ってわけです」
「……新しい妖精を脅して、ツガイ契約してもらったってことですか」
「正解でーす。でも、私の病はかなり重くてですね。すぐに死んじゃうんですよ。妖精たち。そこにいるケットシーなんかは伝承どおり非常に長寿だったようで、ピクシーたちよりは、もちましたね。ピクシーも長寿ではあるみたいなんですが、どうも生命力がか弱いみたいで、モチが悪いんですよねー」
「……」
私は絶句し、怒りがわいてきた。
ひどすぎる……。
「それでねえ。そろそろこのシステムを申告して、特許取りたいんですよねー」
「はい?」
「ツガイの儀式が公になれば、上流階級は生きながらえることができると思わないかね?」
「まさか……王族や貴族たちにこのシステムを教える気!?」
……あれ? 教える……?
この人ひょっとして、心臓の誓約印のこと知らない?
ツガイの儀式が発動したのなら、このことを喋れなくなる誓約印は刻まれているはずだ。
……黙ってよーっと。
いま喋れてるのは、きっと私が妖精だからだね。
喋ろうとして喋れなくなって恥かくといいわ。
「そうです。そしてオスニエルシステムと名付け、私の名前が歴史に残るという素晴らしい予定です。私は大勢の貴族に感謝されるでしょうね~」
「何がオスニエルシステムですか!? 単にツガイの秘密をバラして利用しようとしてるだけじゃないですか!」
「何を言うんですー? 発見し、僕自身で実験し、証明できたシステムですよ? 口の悪い子ですね~。そうそう、私ね、これを発表すれば、特別教授になれると思うんですよね~。引退後は名誉教授ですかねえ~」
「……ふーん、そうなんですねー」
バカバカしい茶番だ。
その時、ポケットに入れていた私の懐中時計からオルゴール音がした。
かわいいと思って、自分で改造したのだ。
それはともかく……オルゴール音がしたということは、昼だ。早く帰らないとリオネルが心配する。
「おや、素晴らしい。それ、今度、私の懐中時計も改造してくださいよ」
私はプイ、とそっぽを剥いた。
「おや~よろしくない態度ですね。マルリース」
「キモいおっさんと口利きたくないだけですよ」
「……やれやれ、平民に染まってしまいましたか? 君は貴族に愛し育てられた希少な半妖精だったのに。がっかりです」
「……」
もはやこいつは恩師でもなんでもない。
がっかりされようと、こっちはなんのダメージもないわ。
……それよりどうしようか。
「ふ~。あなたは、どうやら私の敵にしかなりえないようですね。残念ながら交渉は決裂みたいです。のでー。」
ふと、魔力が動いた気配がしたと思うと――。
パキ……。
急に足元が冷えた気がした。
見ると、足に霜がまとわりついている。
そして私の周りにはうっすら水色に光る魔法陣が展開している。
「え……」
「凍っちゃいましょうか、マルリース」
オスニエルはそう言うと、ニコリと笑った。