目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
42 カンタンに捕まった(涙


「お、オスニエル先生……」


「マルリース君。いくら僕が約束の時間に遅れたからといって、勝手に入ってくるのはどうかと思いますよ~」


 ……見つかってしまったものはしょうがない、が。


 あまりにもの状況で、思わずピクシーと話し込んでしまったことに少し自己嫌悪した。ピクシーにも、逃げろと警告されていたのに。

 こういう所が駄目なんだよね、私……。


 状況はわかってるはずなのに、興味をひかれやすく、夢中になりやすい……。

 きっと妖精の性質だ。ヨウセイなセイ。ウン。


 けれど、先生はいつも通りだ。……あまり怒ってないのかな?


「……すみません、リージョが勝手に入っていってしまったので」


「リージョが? なるほどね……」


「この部屋の異様さに、呼ばれたみたいなんですが、この部屋は……なんですか?」


 先生はふぁ、と欠伸をして頭をかいた。

 実につまらない会話だ、と思っているのが感じられる。


「見たままですよ。私は妖精学の教授ですよ? こんな部屋があっても不思議じゃないでしょう。あ、ちなみに彼らは私の妻達です」


「同意の上じゃないですよね!?」


「ははは♪ ハーレムってやつですかね。でももちろん、白い結婚ですよ、純愛です。いや~照れますね」


 先生のことは苦手だな、と思ってたけど、駄目だ。なんか吐き気してきた。

 お父様に事情を話して、もう二度と面会しなくていいようにお願いしよう。


「その割にはこのフェアリーは、羽を切られるようなひどい目にあってるようですが」


「ああ~。まったくハルシャは悪い子ですね。口が軽くて――私の悪口をいっぱい言ってしまったんですねー?」


 悪口ではなく事実では……?


 しかし、ハルシャと呼ばれたフェアリーは、びくっとすると青い顔になった。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」


「うんうん。大丈夫。許してあげるよ。なにせ、僕はいま気分が良い。ずっと狙っていた新しい妻がこの屋敷の中に入ってくれたのだから」


 オスニエルは、片眼鏡を懐からだして、装着すると、私を舐めるように見た。


 ゾクッ……。


「え、まさかその新しい妻って私じゃないですよね。私の自意識過剰だって言ってもらいたいんですけど先生」


「あははー。それが大当たりなんですよー。実は昨日のうちに、この屋敷に妖精封じの大きな魔法陣を仕込みましてね。あなたはもうこの屋敷からでれませんよ、マルリース。半妖精のあなたにも効くようにバッチリ強めの魔法陣を組みましたから、安心してください、出れません」


「は……?」


 嘘でしょ!?

 信用はしてなかったけど、師弟関係のようなものはあった。


 長年の付き合いのある相手に、また私は裏切られたの?

 先生の場合は、クレマンと違って心を許してなかったから、それほどショックではないけれども!


「まあ、それでは、最初のしつけをしましょうかね……?」


 先生はそう言うと、入口近くの壁にかけてある、鉄でできた首輪を手に取った。

 首輪についた鎖から、ジャラ……という音がした。


 一歩一歩、彼がこっちに近づいてくる。


「……っ」


 私は逃げ道を探したが――結論から言うと。


 対人に関しては、戦闘力皆無と言って良い私は、あっという間に彼に捕まり、この部屋にある牢に入れられ繋がれた。


 牢に繋がれた瞬間――私はなんで小さなガーゴイルの一体でも持ってこなかった? と自分を責めたが、いやいや。


 いくら嫌な感じがする人だからって、子供の頃からの一応恩師の屋敷に来るのに戦う準備なんてしてきませんからね!?



「いやあ~。昨日お土産にいただいた練り菓子美味しかったですよ」


「……結局全部自分で食べちゃったんですね」


「しかも、持って帰った日に食べました」

「糖分とりすぎでしょ!?」

「あはは~。頭を使う職業だから良いんですよ。糖分」


 こんな時に日常会話挟んでくるとか、この人はやっぱりどっかズレている。

 イラッとするわ……。


「ってそんな事はどうでも良いです。リオネルが待ってるんです、家に返して下さい。私が家に帰らなかったらまず一番に先生が疑われますよ!」


「へえ~そうなんですね。それは厄介ですね。彼は剣聖ですし」


「そうです、私を解放したほうがいいですよ。私はここにいる妖精たちと違って、子爵家の出身ですし人間の法律が適用されますよ」


「ん~。帰してあげても良いですよ」


「え。そんなあっさり!?」


「その代わり、僕にツガイの儀式をしてくれません?」


 あっさり帰すというわりに、この大層な鎖はなんだと思ったが、それが目的か!

 するわけないでしょ!


「誰があなたにするもんですか!」


「お、知ってるんですね? 自分の一族のツガイの儀式のやり方。良かった良かった。捕まえてもたまに知らない妖精いるんですよねえ」


「……ああ!?」


 なんてことよ……!!

 しまった!! 引っかかった!!


「……し、知りません!!」


「あは~。嘘が下手だね、マルリース。……ねえ、本当だよ。本当にツガイの儀式をしてくれて、さらにここのことを黙っていてくれると約束するなら帰してあげるよ……? まあできたら本当に結婚してくれると助かるけど。世間体的に。いいでしょ? マルリース君は婚約破棄されたし相手もいないでしょ? 行き遅れ確定さん」


 行き遅れ確定……!?


 うっせえわああああ……!!

 人がちょっとだけ……ちょっとだけだけど気にしていることをズケズケと……!!


 てか、約束しても絶対帰すつもりないくせに!!


「今はツガイの儀式してる奥さんがいるのになんで私が必要なんですか?」


「計算上、金髪の彼女があと数年で燃料いのち切れなんですよ。そこのストック(ハルシャ)を使おうかなーとか思ってたところで。そういえば、君という存在がいたことを思い出したんですよね。ピクシーより生命力強そうだし、ちょっと試してみたくて」


 なんか、気分の悪い言い方だな。

 私を妻に、と言いつつ、さっきまで忘れてた、みたいな……!

 失礼極まりない……!!


燃料いのち切れって……そもそも、なんでこんなに命を使い潰してるんですか? ツガイってこんなにすぐに命減るもんなんです!?」


「それは私がねえ、本来は不治の病だから、なんですよー」


「……なんですって」


「――私はね、本当なら10歳まで生きられなかったんですよねー。生まれた時から心臓が悪くてね」


「え……」


「ちなみに最初のいのちは、あそこで寝てます」


 彼は、部屋の中にある氷の標本の1つを指さした。


 中にはふわふわの赤毛で少し耳がとがった少女が眠っていた。


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?