「……。いや、ちょっと待って! 万が一、竜になったりしたら、添い遂げられなくなりません!? というか、お父様とお母様、離れ離れになってますよね!?」
「結果としてそうなってしまってるね。ボクは偉大な存在にはなったが、ツガイを失った傷はずっと残っていて……寂しくてとても悲しいよ」
あ……。
なんか、人間と感覚が違うわ……!!
ジュリアお母様が人間でいたい、と言った事、わかる気がした。
――愛していた人がドラゴンになってしまった。
お母様の方はきっと、ずっと人間体のお父様といられると、思ってたんだろうな。
悲しいすれ違いを想像してしまう。せつない。
……じゃあ、もしリオネルと思い合ったとしても、私が妖精竜になってしまったら。
「……」
なんだこれ、苦しい。
そんな可能性あるなら、好きだなんて、とても言えないじゃない……。
私が落ち込んでいる横で、グラナートお父様は話題を変えた。
「そうそう、君にもちゃんとカーバンクルの力がある。今までも発揮していたのを視た。例えばツガイである弟のために、いっぱい幸せを願ったよね。それはきっと効いていて――だから、彼は人間としての枠を突破して『剣聖』にまで至ったんだろう」
「それも、私のせい……?」
「そんな風に思わないで。この場合、相乗効果じゃないかな。彼も元々『剣聖』に到れる実力の持ち主なのは確かだったんだろう。それを発露させるか、させないか。もしくは、何年か先だったのが早まったか」
「なんだか危険な力のような気がする! バレたら間違いなく自分の身も危ない気がする! ……私、あまり人の幸せ願っちゃいけない?」
「それはない。ボクたちは確かに幸運を呼び寄せるけれど、幸運をつかめるかどうかは、相手次第だからね。ささやかなものだ。幸運のお守りみたいなものだ。でも、やはりこの力がバレたらそりゃ危ないよ。遥か昔、カーバンクルを捕まえようと人間界で流行ったことがある。その頃は仲間がかなり乱獲されたね」
「ら、乱獲!?」
「昔はボクと同種は結構いた。捕まったカーバンクル達は、そのまま人間の宝物庫に幽閉されたり、額の石を奪われて殺されたり……」
「額の石を失うと死ぬの!?」
「ボクたちを存在たらしめる核だもの。人間で言えば心臓みたいなものともいえる」
私は思わず額を隠した。怖い。
「ふふ。けど君は人間でもあるから、心臓が2つあるようなものだね。だからもし、事故にあって人として死んでも、石が無事ならその後、完全に妖精として復活するかもしれない」
「えっ」
「逆に、石が割れて妖精として死んだとしても、人間としては生き残れるかもしれないね」
なんか今ゾッとした。本能的なものだろうか。
「ふふ、核を失う話なんて、ゾッとするよね。ボクも今話をしながらブルブルしたよ」
苦笑してる。
そういうものなのか……。
「……あ、そうだ。ボクたちは自分のためには願えないからね。それも覚えておくといい」
「なるほど、それで私は、儲からないのか……くっ」
「あはは。商売、がんばってるね。今日はそろそろ通信を終わりにしよう。疲れただろう、寝たほうが良い」
「でも、まだ話したいことがたくさん……」
「もう繋がったから、いつでも話できる。今度はツガイ成立や儀式についてもっと詳しく教えてあげよう。また話に来るよ、愛してるよマルリース」
グラナートお父様がそういうと、リージョの光が消えた。
「にゅ……フッ!」
いつものリージョに戻り、そして私の手からぴょん、と自分のカゴベッドへ飛び潜り込んだ。
聞きたいことはまだまだあったけれど、確かにカーバンクルお父様の言う通り、たしかにつかれている。
というか、キャパシティが限界突破してる。
自分でも休んだほうがいいと感じる。寝よう。眠れるかわからないけど。
『O're(オーレ)』で作った枕にボフッと倒れ込む。
ふと、1階にリオネルがいるのだな、ということが頭に浮かぶ。
――だめだ、リオネルのことを考えるとさらに眠れなくなる。
彼に対する思いを持て余しているのに……もし、妖精竜になってしまったら、と思うと気持ちを伝えることも怖い。
「苦しい」
目に涙がにじんだ。
きっと私が純粋な妖精だったら。
昔、彼を振っていなければ。
迷わず彼に愛を伝えられるのだろう。
妖精の枠を超える、というのも、妖精にとってはきっと喜ばしいことだし、ツガイもそれを喜ぶと信じて疑わないのだろう。
でも、人間としての意識、常識が強い私にはハードルが高い……。
「……だめだ、今は答えが出ないことを考えても仕方がないよね」
そうだ、仕事のことを考えよう。
きっと近いうちにノルベルトさんが訪ねてくるだろうし。
夢中でやれる仕事を持っていて、よかった。貧乏だけど。