――カーバンクル。
額に赤い宝石があり、狐や猫などに似た愛らしい小型の妖精。
彼らに愛された特定の人間は幸運を得るという。
「やっぱり元は、カーバンクルだったの……お父様」
なんと……私の家庭教師だったオスニエル先生の予想があたっていた。
「ちなみにボクは人間に
それも先生がそんな感じのことを言ってたよ!
優秀だな! 妖精学教授!
「じゃあ、お父様は普段はその……四つ足の獣姿なの?」
「ツガイが成立する前はそうだったね。カーバンクルは人間界の書物にだいたい書かれてるとおりだ。ボクらが認め幸せにしたいと思い願うことで、対象は幸運な運命を引き寄せる」
え、でもそれなら。
ジュリアお母様を死なない運命にできなかったのかな?
先ほどからのジュリアお母様への入れ込み具合を見ると、絶対やると思うんだけど。
「グラナートお父様はジュリアお母様の幸せを祈ってらっしゃったかと思いますが……それでも、お母様は亡くなりましたよね」
「万能ではないんだ。引き寄せはするけれど、叶うとは限らない。運命の糸は時として他人とも絡み合っているし、避けられないものだってある。ボクらが願ったからといって、その人が一生幸せでいられるほど幸運続きになるわけではないよ」
「なるほど……お母様の死は避けられない運命だったんですね」
「おそらくね。それにジュリア自身がきっと、難産で自分の命が危ういと思った時、自分より君が助かることを望んでいたんだと思う。だから、君を助けることにボクの力は働いたのかもしれない」
「……」
「そんな顔しないで。彼女は君を産み、少しの間だけでも共に暮らせて幸せだったと思う」
あ、いけない。表情沈んでたか。
「……うん。そうだね」
「生まれてからは僕は君の幸せも願っていたよ。ジュリアが孤児院に預けてからは、良い両親のところへ引き取られればいい、とかね」
そうか。だからあんな貴族にしては楽しく緩い雰囲気の家門に引き取られたのだな。
しかも実家の事業や領地経営は、上々だった。
お父様の祈りの影響もあったのかも。
「……とても良い両親に引き取られたよ、ありがとう、お父様」
《ううん、ボクが君のために祈るのは当然だ。でも、ボクもまさか自分の娘までツガイを得られるとは思わなかったよ。ツガイなんて伝説だろうって思うくらい見つからないものなのに》
「得られると決まったわけでは……ないですよね」
「確かに気持ちの確認は必要だ。それを確認し合えば、ツガイが成立するだろう。」
「ツガイが成立……? それって正式に恋人や夫婦になるってことですか?」
妖精の専門用語って難しい。
《まあ、似たようなものだな。違う点を挙げるとすれば――例えば君の場合、成立すればリオネルの体のどこかに、君にだけ見えるツガイの印が現れるだろう。おそらく君の石の形をしているはずだ。ジュリアもそうだったよ》
ツガイが成立したら、リオネルに私の印が……。
……なんか照れくさい!
「そ、そうなんだ」
《あ、そうだ。それと……僕らは永遠に相手を好きだけど、相手はそうとは限らない》
ぐはっ!?
「裏切りや片思いにもどることがあるかもってことですか!」
《うん。でもツガイが成立すると、僕らはとても強い力を手に入れる。僕らはツガイからとても大きな恩恵を得るんだよ。有り難く、素晴らしいことだ。ボクもそれによって妖精竜となったからね。》
――ん?
わ、ワンスモア(もういちど)。
ツガイが成立したら、妖精竜になったって……いま、言った??
……そうだよ、良く考えたら。
実の父が妖精竜になったのなら、私も確かにそうなる可能性が……ある。
私は血の気が引くのを感じた。
そしてグラナートお父様は、いま私が懸念していることを言葉にした。
「君も、ツガイに受け入れてもらえたら、ボクの子だから妖精竜になれるかも。混血だから、ボクも確かなことはいえないが」
「りゅ、竜……!?」
「うん、妖精竜。もし慣れたら君のツガイといっしょに妖精界の空を飛んでみたいな。ふふ」
いや、お父様……??
とても楽しそうに純粋な気持ちで夢を語っておられますが。
それ……大問題なんですけど!?