「……そう、なんだ」
やっぱり。さっきからの話しだと薄々そうかな、とは思ったが。
言葉にされて確定すると、気分は沈んだ。
《彼女は君を産んだあと、身体が弱ってしまってね。死期を感じ、孤児院生まれで身よりもない彼女は君とリージョをなんとか孤児院に届けたあと、当時住んでいた家で亡くなった》
……それって私を産んだせいで……。
《そう思わないでくれ。大丈夫、絶対に彼女もそう思ってない》
「……うん」
私は近くにあったクッションを抱きしめた。
《そのあと、君を妖精界に連れて行かなかったのは、君がほぼ人間だったから。ジュリアと2人で話し合い、人間界で生きるほうが自然だろうという結論だった。ジュリアを失ったあとは、さすがにこちらへ連れて来るか悩んだけど、しばらく見守っていたら君は幸せな家庭に引き取られたから……》
「確かに色々ありますが、幸せに生きれてます。でも、あなたやジュリアお母様のことを教えてくれても良かったのでは?」
《ああ、知りたかったよね……すまない。ただ、幸せそうだったし、今までボクの助けなしでも生きていけてた。
それに、もし伝えて君が一言でも妖精界に来たいと言おうものなら、ボクは……君を返せなくなる気が……いや、きっと返せなかったと思う。だって君はジュリアの忘れ形見だ》
……ああ、そういう事だったのか。
ジュリアお母様との約束を果たし、そして私の幸せを考えて自分の気持ちを抑えてくれてたのか。
妖精界はひょっとしたら楽しいところかもしれないけれど、そっちで暮らせと言われたら、たしかに私も困っただろう。
《本当ならずっとボクの手元に置いておきたい。
そんなボクの我が儘を押し付け、君を悩ませたり困らせたりしたくなかった》
「そんな、我が儘だなんて」
でも困ったとしても、こんな寂しそうに喋るグラナートお父様と離れて暮らしてもいいのか? とも思ってしまったかも。
うん、確かに……悩むかも。
《今でも強く思うよ、ジュリアがツガイの儀式さえしてくれてたら。いつかジュリアだって妖精界に来てくれて……、そうしたらずっと3人で暮らせるかもって……。でも君とジュリアはやっぱりそっちで暮らすのが幸せなんだろうってことも……わかるんだ》
お、お父様の声がとても沈んでいる!!
わ、話題を変えたほうがいいかな!
「あ……えっと、それはそれで。私も幸せだったと思いますよ。……というか、ツガイの儀式ってなんです?」
《そんな事言ったら連れ去っちゃうよ? ああ、ツガイの儀式はね。ツガイに施す、特別な儀式。例えばジュリアが儀式をしてくれていれば……どんな病に罹ろうとも、事故に会おうとも治癒し、ボクが死ぬまで生きていた》
……は?
「え、死ぬ時まで一緒ってことですか」
《うん》
なにそれすごい!?
《でもそれは、ボクの寿命を削る。例えばジュリアが致命傷を負ったとするとボクの生命を削ってそれを回復させるからだ》
……。
「なかなか、尖っ……いや、深い愛を示す儀式ですね……」
《そうだろう。ボクの生命を削ることで、ジュリアが死ぬまで一緒とか幸せすぎる……もう、かなわないけど……》
お父様が妖精界で遠い目をしている気がする。
いや、でも。
一瞬、とても尖った儀式だな……と思ったけど、もしリオネルが致命傷とか負った場合、私が代われたら、とか絶対思うだろう。
なるほど……そう考えると私もリオネルに儀式してほしいとか思っちゃうな……。
《ああ……そうだ。ジュリアはイチョウの丘近くの共同墓地に眠っている。良ければ訪ねてやってくれ》
「あ……。ええ、折を見ていずれ、必ず行きます」
……しかし、そうか。
母が亡くなっていたこともショックだったが、両親に疎まれて捨てられたわけではないとわかって、そこは安堵した。
実は妖精の子でもなんでもなくて、額に石があるせいで不気味がられて捨てられたのかも……とか考えないでもなかったのだ。
この心の声がグラナートお父様には聞こえたのか、
《勿論そんな事はない……とても愛しているよ、マルリース。彼女だってずっと君が生まれてくるのを楽しみにしていた。今まで、見守ること、君のために幸せを願うことしかできなくて申し訳なかった》
私はリージョを包むようにして両手で包んだ。
「ううん、私を思って見守ってくれててありがとう。それにしても……妖精になったとか、何か変わった気がやはり全然しないなぁ……」
《特に違和感はないだろうね。君は妖精でもあるが、やはり人間でもあるんだよ。そんな不思議な二重(デュアル)形態だ。そして、その額のコアは君がボクの子である証》
私はリージョを片手に乗っけたまま、もう片方の手で額の石に触れた。
「これが……」
《それは僕と同じ石――妖精カーバンクルの象徴だ》
へ……。
カーバンクル!?
この私の額石、やっぱりカーバンクルの石だったんだ!?