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26 妖精……竜……?


 リオネルは寝たのかな。

 1Fから物音がしなくなった。


 私はベッドから身を起こし、姿見の前に立った。


 「妖精になった……?」


 見た目は変わってないと言われても、確認してしまう。

 しかし、鏡の中の私が首をかしげて眉間にシワをよせるだけだった。


 「本当に、どこも……変わったとこはないね」


 その時、リージョの身体がやんわりと光り、先程の――父の声がした。


 《額の石がすこし大きくなったよ。君の妖精としての在り方はその石に集約されていると思う》


「えっ」


 鏡を覗き込むと、確かに額の石が前より大きい。……ほんのすこしだけど。


「ほんとだ……」


《――濁りのない綺麗な石だね》


 私はベッドに戻り、腰掛けた。


「どうしてリージョから声が……」


《さっきイチョウの丘でも言ったけど。リージョは、僕の息吹(ブレス)から生まれた小妖精で、使い魔なんだ。》


 小妖精とは、人間で言えば小人みたいなニュアンスだったっけ。


 父の息吹ブレス……! そんなものも妖精の核になるの!? 

 ちょっとまってほしい。


 「ぶ……ブレス? ブレスってあのブレス? ドラゴンが火を吹いたりするやつ!?」


 話の最初から不穏すぎるワードが聞こえたわよ!?


《うん、そのブレス。僕はどうしても妖精界に帰らなければならなくなってね。リージョを君の母親の傍に置いていったんだ。僕がそちらに話しかけるための目当てに、リージョが必要なんだ。リージョの目を通して君の様子も視ることができるし》


「まさかの通信係だった!?」


 私は思わず、リージョをムニムニしてしまった。


「きゅ……きゅきゅう……」


 無邪気なリージョはくすぐったそうな声をあげた。


 《あはは。そんな感じだね。……さて、申し遅れたね。ボクの名前はグラナート。そして君の母親は人間でジュリアと言うよ》


「ぐ……グラナートお父様……初めまして。マルリースです」


《うん。初めまして。ずっと話しがしたかった、マルリース。リージョを通じて様子はちょくちょく見ていたよ》


「お父様が妖精だったんですね」


《そうだ。ジュリア(ツガイ)を得たことで妖精の概念の枠を超えて妖精竜になったけど》


 ――?


「妖精……竜……?」


《うん》


「そんなの妖精学の先生からも聞いたことないよ!?」


《妖精界でも今まで無かったことだからね。こうなるのはボクが最初で最後かもしれないし。ちなみにドラゴンとは違うからね。見た目がドラゴンっぽくなっちゃっただけで妖精は妖精だから》


「なるほど……。でもどうしてお母様と私を置いて妖精界に? ドラゴン狩りでもされそうになったんですか?」


《うーん、人間に見つかったところでボクを狩るのは不可能かもしれない……。ボクがそっちにいられなくなった理由はね。想像つきにくいとは思うけど、妖精としての規模と概念が大きくなりすぎて、そっちの世界に存在するだけで……ボクは世界を壊してしまうからなんだよ》


 規模……概念……確かに想像がつかない!!

 ……うーん?


「この世界より大きくなったってことです……?」


《ああ、良い理解だね。そんな感じでいいと思う。ボクは人間に変化できるが、妖精竜になってからは、自分を圧縮しても山のようなサイズになってしまう。妖精界ならば僕みたいなのも適応できるような世界の成り立ちだから、普通に暮らせるのだけど》


 水槽の魚が、水槽より大きくなったのを私は想像した。

 理解が合ってるのかはわからないけど。


 とりあえず、この世界に存在することが不可能になった、と思っておこう……。


 「逆に私とジュリアお母様を妖精界に連れて行く事はできなかったの?」


《そうだね。格の高い妖精に招待されれば、妖精界に対応できるギフトを与えられる。なければ入ることもできない。……だから、ボクも招待はできはするんだけど……》


 なんか歯切れ悪いな……。

 落ち込んでるような声だ。


「特別なギフト……ってジュリアお母様はツガイなのに妖精界に入れなかったの?」


《たしかに、ツガイが成立していれば、妖精界には入れる。だが、彼女が……ジュリアが嫌がったんだ……。自分は人間として生きていたいから、そんな知らない世界に行きたくない、と。ボクは人間にさえなれればこっちで暮らしたって全然構わないのに……》


 お父様がすこし嘆いた。

 なるほど……夫婦ですれ違いですか!!


 うーん……。グラナートお父様は悲しそうだが、気持ちは解る。

 たとえば外国の人と恋に落ちたとしても、その人の母国で暮らしたいか? と考えるとそれは違うなって場合もあるものね。


「あれ? でも待って。じゃあお母様は? 今どこにいるの?」


 それを聞いたらしばらく無言が続いた。


「グラナートお父様?」


《亡くなった……1人で逝ってしまったんだよ……》


 お父様の声がさらに憂いを帯びた。


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