でも、それって……と。
私はここで考えてしまう。
『運命のツガイ』というものに対して、以前から疑問を持っていた。
屁理屈かもしれないのだが。
運命ってなんなのよ、と。
私は今、たしかにリオネルに対する気持ちが高まっている。
でも、リオネルだから好きなのか。
それとも、リオネルがツガイだから好きなのか?
前者ならば問題ない。だが、後者の場合。
それは果たして本当に彼を愛してると言えるのだろうか、と。
多分こんな風に考えてしまうのは、私が今まで人間として生きてきたからだと思う。
純粋な妖精族であれば、迷わないし、当たり前だと思うのだろう。
迷わない人間だっているかもしれないけど、私は理解が及ばず悩んでしまう。
さらに……その自分の気持ちを受け入れたとして、どうすればいいのだろう。
好きっていえばいいの?
昔、振ったのに? 今更……?
散々、弟だと思ってきたのに、ツガイだとわかったとたん、いきなり恋愛対象として見るなんて、誠意のない気持ちのように感じてしまう。
「姉上。工房に着いたよ」
……やっぱり姉上に戻ってしまってる。
ちょっと気持ちがしょんぼりする。
名前で呼ばれることがとても心地良かったのだと、気がついてしまった。
「あ、ありがとう。もう大丈夫だから、下ろしてくれる?」
「だめだよ、2階まで運ぶよ」
「もう大丈夫だよ。歩ける。それに1階で顔洗ったりしたいから」
「……わかった。でも今日は、泊まるからね。この前みたいにソファを借りるよ」
「えっ。も、もう大丈夫だよ。ちゃんと寮に帰って、ちゃんとベッドで寝なさい」
帰ってくれないとリージョと話がしづらい……そう思ってなんとか帰らせようと思案していたら、リージョから声が聞こえた。
《――ツガイのしたいようにさせてあげなさい。君が心配なのだよ》
「……っ」
「ほら、また顔が赤くなった」
「いや、これは違うというかなんというか」
「病人の言う事は信じない」
そう言うと、また横抱きされ、ベッドまで連行された。
せめて、シャワーを浴びさせてほしい!
◆
「り、リオネル。あなたもシャワー浴びてきなさいよ?」
「姉上が寝たら、借りるよ」
リオネルをなんとか説得し、シャワーを浴びて夜着に着替えることはできた。
しかし、ヤツは私のベッドに腰掛け、私が眠るのを見張っている……。
「そんな風に見られてたら逆に寝れないわよー。大丈夫よ。ここは2階だし、抜け出してどっか行くってわけでもないから」
「……まあ、たしかにね。じゃあ、シャワー借りて僕は1階のソファで寝てるから、気分悪くなったりしたら呼んでよ?」
「過保護すぎるよ! もう大丈夫だったら。もしそんな時はちゃんと呼ぶよ!」
「わかったよ……」
リオネルは諦めた顔で頷くと私の額の髪をなで上げた。
や、やめてくれ。ツガイとわかった今、そういうのは、心臓にくる。
「ごめんね、姉上」
「え、なにが」
「僕が名前で呼びたいって言ったせいで、負担をかけてしまったのかなって」
「あ、いやそれは」
「この話は、一旦なかったことにして。今まで通り、当分姉上って呼ぶね……また折をみて相談させて」
「え」
え、ちょっと待って、それはそれで、ショックですよ?
言いたいことを言えず、口をパクパクしているうちに、額にキスされた。
うあああ!!
「じゃあ、おやすみ」
「お、おやすみ」
微笑んでお休みを言って、階下へ降りていくリオネル。
わ、私に負担かけたとか言いつつ、額にキスするとかやめてください。
弟から姉への親愛なるキスだとはわかるけれども!! 嬉しいけど……!!
――ツガイだとわかったリオネルからの、そ、そういうのは……威力が強すぎる!
寝れるか! いや、まだ寝ないんけども!