《驚くよね。ボクも今とても……ドキドキしながら君に話しかけている》
しかし、何故このタイミングで話しかけられてるんだ私。
さっき、おめでとうとか言ってたけど、そのせい?
《うん。本来はこうやって話すこともないかなって思ってたんだけど……。君が妖精になることを選ぶとは思わなかったから》
はい!?
そんなの選んでませんが!?
《ああ、うん。無意識に選んだんだよ。そこにいる君のツガイに誘引されたんだろう。君は今まで、彼をツガイとして感じてはいたのだが、半妖精のためにツガイを感じ取ることに鈍感だったね》
鈍感……。ひょっとして恋愛音痴だからか。それとも半妖精のせいで恋愛音痴になってたのか……。
《それで君は妖精族になろうとしてた。……妖精にならなければ、ツガイとして彼が得られないのことを、どこかでわかっていたんだね》
え、私は妖精になったの!? 羽とか生えてないけど!? なにが変わったっていうの!?
さらに、ツガイとか……え。
「つ、つがい!?」
ツガイってあの、ツガイ!?
妖精とか魔物の書物を読むと良く出てくる、運命の
「え、なに?」
思わず口にしてしまい、リオネルが反応した。
慌てて自分の手で自分の口を塞ぐ。
「なんでもない……」
そう言いながら恐る恐るリオネルを見た。
「…………あう」
とてもドキドキして、またすぐ下を向いてしまった。
《なんの妖精って……君は、君のあるがままに妖精族になっただけ。ツガイが現れなければきっと君は妖精としては未熟なままだっただろう》
――あやふやだ!
額石がスッキリはした感覚は確かにあるけど、何か変わった気がしない!
《うーん。1番の基準としては、妖精界に招待なしで入れるようになったことだろうか。確かに見た目に変化がなかったりすると、わかりづらいよね。わかりやすく伝えるには……例えば火属性と水属性の2つもちだったのに、今までほとんど使えなかった火属性が急に使えるようになった……そんな感じって言えばピンとくる?》
「なるほど……」
「え、だからなに言ってるの? 大丈夫?」
「あ、なんか。ね、寝ぼけてる感じかも!?」
また口に出してしまった!
《ふふ。それでね、最近、額の石がおかしかったんじゃない?》
うん。
《……君はうまく妖精になることができなくて、君の妖精としての核……その額石にエネルギーがこもってしまってて。だから、ボクが妖精王に頼んで君の意識を妖精界に召喚してもらい、君の額石の中でもがいてるエネルギーを導き、引き出してもらったのさ。これで安定したはず》
あ、さっきの妙な映像!
そういうことだったの!?
《ボクが頼んだってところもあるから、結構特別扱いなんだけどね。引き出さなければすっと額石のなかでエネルギーが暴れてただろうから……》
なるほど、たまに頭痛してたのは額石がそういう状態だったのか……。
《これからもそういうことはあるかもしれないが、今までとは違って正常に動くはずだよ。気分もあと少ししたら落ち着くだろう》
そっか。じゃあやっぱりお医者さんいらないんだな。
リオネルを説得しないと。
《――さて、今は取り込んでいるだろうから、あとでまた話をしよう。都合が良くなったらリージョに話しかけてくれ》
そう言うと、声は聞こえなくなり、リージョの柔らかい光が消えていくのを見ていると、リオネルが私に視線を落とした。
「顔色がやっぱりよくない。もう少し人が少ないところへ出たら、風魔法でいっきに病院へ向かおう」
リオネルは、できるだけ私を揺らさないように、丘を降りている。
言葉も態度も、その気遣いが温かい。
「リオ……」
「姉上、丘を半分まで降りたよ。がんばって」
……あ。
マルリースから姉上に呼び方が戻った。
「……」
同時に、その声もたまに私を見下ろす視線も触れている体温も。全身を駆け巡るようだった。
◆
そのあと、リオネルとは少し口論になった。
医者に行くか行かないか、で。
イチョウ並木の中、横抱きにされたまま、リオネルと言い合いをする。
そんな状態で歩いていく若い男女は、やっぱり人目に付く。
でも、多分酔っ払いのカップルだと思われている。
祭りでよかった。
私達に釣られて、彼女を横抱きにするカップルを何組か目にする。
ノリがいいな! こっちの気も知らないでー!
口論の理由は、私がどうしても病院に行かない、と拒否ったことだ。
それを何度も言って説得しようとすると、リオネルは怒り出した。
「なんでそんなに
うわ、本気だ。
『剣聖』に至った者は、人間の領域を超える身体能力が半端ない。
おまけにリオネルは風属性だ。空を風で猛スピードで飛ぶこともできる。
おそらく本気になったら、私を抱えていても、うちの王都から馬車で5日かかる実家くらいの距離を数刻で連れて行かれる。
なんとか説得しないと。
だって本当に必要ないのだもの。
「ううん、わかるんだ。もう大丈夫だって。本当に。ねえ、リオネル。私が妖精……というか人間じゃない何かとの混血だって知ってるでしょ。今こじらせてるのは、その部分だってわかるの。だからきっと人間の医師には正確な診断できない」
「聖属性の医者のいるところに行く。僕が払うからお金は心配しなくていい」
聖属性とは、体の治癒を主に行う希少な属性で、魔法で一般的な体調不良は治してしまう。その治療費は高額だ。
いくらリオネルが払ってくれると言っても、これぐらいのことで頼るわけにはいかない。
「こういうこともあるから、錬金術師になったのよ。自分の秘密を守りつつ、自分で自分を診断できるように。いざという場合に、人間の医術ではどうにもならない場合の対処法を見つけるために。だから工房が一番良いの」
嘘ではない。
錬金術師になった理由の1つは自分で自分を医師よりも柔軟に診断するためでもあった。
それに先ほどの
「……わかったよ。工房へ帰ろう」
不満そうだ。
私が心配でたまらないのに……、という感情を感じる。
優しい子。
「ありがとう」
「と……当然です」
微笑んでお礼を言うと、照れてそっぽを向いた。
それを見たら、また胸が熱くなって、私もなんとなく下を向いた。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……。
実の父を名乗る声に言われた『ツガイ』という言葉。
それを聞いてしっくり来るものがあった。
気になってはいた。
私は誰にも恋したことがないし、ひょっとして妖精混じりなせいで、人間に恋出来ないのかも、とは思ってた。
「……」
イチョウが舞い落ちるなか、私を抱えて歩くリオネルを見上げると、胸が高鳴る。
――やっぱり、間違いないと思う。
彼は私の『ツガイ』なんだ。
……でも、それって――。