眼前が一瞬真っ白になり――
「あ、あれ……」
私は膝から脱力しそうになった。
「あ……! 大丈夫? そんなにビックリした?」
「違うの、ごめん……ちょっと……急に体が……おかしくて」
私は支えてくれたリオネルに甘えさせてもらい、抱きついた。
フラフラして気持ち悪い。
「額の石が……急に熱くて」
「え、大丈夫? それなら話はまた元気になってからでいいや。病院へ行こう……あ」
「なに……?」
「サークレットから、光が――」
額の石がまた光ってるのか。
なんなんだろう、この石は――そう思った次の瞬間。
「あ……?!」
目を瞬きすると、一瞬閉じたその眼裏に、とてつもないスピートで流れる景色があった。
そこは森の中のようだったり野原のようだったりした。
目が回りそうなスピードで、私の意識が勝手に一直線にそこを駆け抜けていく。そんな視界に震えた。
「リオ……! 怖い……! 世界が、風景がおかしくて……!」
リオネルに抱きついた腕が震える。
身体は動いていないはずなのに、視界のスピードがあり、そのギャップに気が狂いそうだ。
「マルリース、大丈夫。しっかりして。目眩かな……」
――また、名前を呼ばれた。
リオネルに名前を呼ばれるたび、さらに胸の奥が熱くなる。
リオネルの声。
繰り返し名前を呼んでくれるリオネルの声だけを頼りに、その流れる景色に耐える。
そのうち、遠くに小さく何色といっていいのかわからない不思議な光が見えた。
少しずつ大きくなるその光が眼前に迫ってきて私の意識はそこへ飛び込んだ。
不思議な光の中は、広がる美しい虹色の風景だったり、太陽のない青空の下に広がる森林だったり。
人間の感覚ではまともな世界とは思えない世界。
彷徨う私の意識は、その中をゆっくり駆け抜けていき、小高い丘に出た。
そこに蝶の羽が生えた美しい人物が立っている。
――妖精?
その妖精と目が合うと、ニコリと笑って頷いた。
……?
その瞬間、額の宝石から何かが解き放たれた気がした。
「あ……っ?」
「マルリース!!」
その声に、私は呼び戻されて、目の前が現実と入れ替わる。
「リオネル……」
「姉上。額の光がさっき、強く光ったかと思ったら、消えた。大丈夫?」
「もう、大丈夫だと、思う……ありがとう」
私は自分の足で立とうとしたら、リオネルにヒョイ、と横抱きにされてしまった。
「姉上。まだ震えてるから。無理しないで頼って」
「うん、そうさせてもらう。……ありが」
ん……?
なんだろう。
「……」
私は、リオネルの顔をじーっと見た。
あれ……?
なんか、リオネルがリオネルじゃない気がする。
「マルリース……?」
再び彼の声が私の名前を口にすると、魂が震えるような衝動が身体全体を駆け抜け、鳥肌が立った。
「あ、あわ……」
「マルリース、顔が真っ赤だよ。熱いって言ってたし、熱が出てきたのかな?」
「だ、大丈夫……あ」
リオネルの顔を見ていられなくなって、首に手を回して抱きつき目を閉じた。
しかし、そうすることで、彼の匂いを吸い込むと、力が抜けた。
グラッと、リオネルの腕の中で脱力する。
うああ……??
「わっ 大丈夫!? 姉上、力抜いていいよ。僕がちゃんと責任もって病院まで運ぶから」
「びょ、病院、いかない。お、おうち、かえりたい」
とはいえ、なにこれ……。
症状はこの通り酷いけど、病気ではないと確信できる。けど、しんどい。
《――マルリース……》
その時、頭の中に男性の声が響いた。
気がつけば、うっすら光を帯びたリージョがリオネルの肩にいて、私を静かに見ている。
リオネルは私の体調に気を取られているのか、そのリージョの様子には気がついていないようだ。
「え……。リージョ?」
リージョからまた声が……。
《そうだよ。正確にはリージョを通じて妖精界から交信している。リージョは、ボクの使い魔。リージョが君の傍にいることで念(テレパシー)を飛ばす場所への見当がつけられるんだ》
リージョって使い魔だったんだ!?
というか、あなた誰!?
と、頭の中で喚いたら、回答が返ってきた。
……あ、そうか。
《あ、ごめん。そうだね、それをまず言わないとね。……初めまして、ボクは君の実の父親だよ》
「――」
……。
えっ。