イチョウ祭りの数日前。
今日はマダム・グレンダと人形師のことで面会する日だ。
ついでだから、私は注文品のうち出来上がったものを持って、向かった。
これ以降、制作は人形師にまかせる。
「あらあらあら! マルりん。納品日まで日にちあるわよ? って台車なんて引いちゃって……!」
怪しい荷物を載せた台車を引いた怪しげな女が外に! と通報され出てきたマダム・グレンダが目にしたのは、台車をひく貧乏錬金術師の私であった。
一応、布をかけて全貌は隠したのだけど、荷台からはみ出ているリアルな
たしかに怪しい!
「あ、そうなんですけど。一度に運ぶのも大変なので。テンプレの子達は、すぐに作れたので持ってきちゃったんですけど……ご迷惑でした?」
「いえ、それは全然大丈夫よ。やだぁ、言ってちょうだいよ~。今日は面会だけだと思ったから。納品してくれるなら、報せの手紙をくれたら誰かを取りに行かせたのに」
「いえいえ、販売側がお持ちするのは当然です! ところで、この人形の件なんですが――」
私はマダム・グレンダに人形師との提携の話をした。
「価格が何も変わらないなら、私は構わなくてよ」
「ありがとうございます。価格は変わりませんが、本業さんが人形を作るので私が作ったものよりクオリテイ上がると思います!」
「まあ、素敵ね。おそらく買ってくれる方は増えるわよ。ふふ、うちを販売ルートに絡めたのは正解ね、マルりん」
「わーい、ありがとうございます!」
しかし、そこでマダムの顔が少し曇った。
「でもねえ、早速クレームがあったのよ。……テスト品のほうで」
「はい!? テスト品に何か不備が!?」
「いえ……商品には優秀だったわ、けれど、優秀すぎたのよ」
「……それはどういう」
「購入者の奥様が……泣いて乗り込んで来たのよ……」
「はい!?」
◆
「……人形の方が良くなってしまった
衝撃の事実である。
「そのお客、うちへ足を運ぶ回数も減ったわね……」
「う、あー……」
「奥様には、『私の胸が貧相なのが悪いってモラハラを受けたわ! うわーん!』……とかって愚痴まじりに泣かれたわ……」
「ひどい!?」
聞けば、裕福な平民のご家庭で、跡取りが必要らしい。
子供はまだいないらしく、跡取り問題にまで発展しているらしい。
それはやばい……。
「だから、売る人を限定したいのよ。テスターから概ね好評頂いたから、このまま私も販売層広げようかしら、とは思っていたのだけれど……。やはり、最初に言っていた『閨教育』が必要な青少年のみ、としましょうか。残念だけれど、クオリティを下げつつ、価格も引き上げようかと。あまりクオリティが高すぎると、今度は若き青少年たちがあなたの人形に真実の愛を見つけてしまうかも……」
「ぐは……っ。わ、わかりました……。いい案だと思ったのにご迷惑をかけてしまいました」
「いえ、私の失敗でもあるわ。まさか人間の仕事や営みを人形が奪っていくとは考えが至らなかったわ。とは言え、もう走り出してしまった企画だから、修正案を考えていきましょう。ただ、そのうち良い解決策があったらぜひ販売層を広げましょうね」
うーむ、これは、予想外。
販売数が減ることを、ノルベルトさんに伝えて、人形師さんにも納得してもらわないと……。
商売って面倒だなあ……。
物創りだけしていたい!!
「はい。ではまず、購入するための条件書を年齢制限を設定して作りましょう。使用は閨教育に限る……と。人形師さんにもあまりクオリティを上げないように言っておきます……。あ」
「ん? どうしたの?」
――胸が小さいと嘆いた奥様のためにできること……。
「それにしても……胸のサイズでお悩みか……」
「まあ、サイズの悩みは、男性・女性どちらも割とよく聞くわね」
「男性も……? ふむ、そうなんだ……」
「……マルりん? (やばい、オレまた余計なことを言ったか!?)」
マダムが訝しげな顔をしはじめた。
「確か……女性の為の風俗もやってましたよね、グレンダさん……つまり女性客がやってくる……」
「……。マルリース、あなた、何を考えてるの……? 」
私は勢いよくドアへ向かい、開きながら挨拶した。
「これで、失礼します……!」
「え、ちょっと?! 待っ」
私は新しい発想が頭に浮かび、
「のるべるとさん……そうだ、のるべるとさんだ……」
そしてそのまま、ノルベルトさんのところへ行き、人形師さんに再度交渉の件と――とあるものを探してくれと依頼した。