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18 妖精の核

「おまえのヨメ人形の権利、引き取るっていう人形師見つけたぞ」


 なんと2日ほどでノルベルトさんが、仕事を引き受けてくれる人形師さんを紹介してくれた。早いッ!


 相手も乗り気でトントン拍子に話は進み、私の作業がガクンと減るのが予想できる。


「助かったあ……。ありがとう、ノルベルトさん。ここまで決まったなら取引先に伝えてるね。価格が変わらないようにしてあるから多分大丈夫だと思う」


「おう。良かったな。寝具のほうも人気がでたら生産は大変になるだろう。もし注文数が手に負えなくなったら言え。また考えてやる」


「わーい! ありがとう!」


 ノルベルトさん、まじ有能親切な商会長さんだ。

 ノルベルトさんの商店が、もっと繁盛するといいなぁ。

 そんな風に私は切に願った。


「ん……?」

「どうしました?」

「いや、お前の額が一瞬、光った気がしたから」


 私は慌ててサークレットを抑え、額を隠した。


「あ。サークレットの石が太陽に反射したかな?」


 実は、まれにあるのだ。

 そのたびに、サークレットの石の反射と言って誤魔化すと、納得はしてくれる。


 普段は意識しないんだけど、こういう時はたまに――私の実の父母の存在の正体が気になってしまう。


 彼らにとって私はどういう存在だったんだろう。

 仕方なく孤児院に預けたんだ、と思うようにはしている。


 でも、たまにはやはり考えてしまう。

 要らない子供だったのかな……とか。



 ◆



 12歳で学院に入るまで、私の家庭教師は専門が妖精学の先生だった。


 昔はどうして妖精学の先生が私の家庭教師に? と不思議に思ったことがないわけでもなかったが。


 両親によると、私が赤ちゃんの頃に色々話をうかがったらしく、その時の口止め料代わりに私の家庭教師をさせてくれってことだったらしい。


 今でもたまに面会するように言われてる。

 この口止め料っていつ払い終わるんですかね。

 そろそろお父様に頼んで、交渉してもらいたい。


 私と面会して得られる学術データって何かあるんだろうか。私にはわからない。謎い。


 その先生の名前はオスニエル。

 学院にもお勤めの学者さんだ。

 ちょっと影のある長い黒髪の紳士で、女生徒から人気が高かった。


 オスニエル先生によると、妖精には同じ種族であっても個性があり、見た目もさまざまらしい。


 というのも、妖精は基本的に何かから『発生』、そして『実体化』するものだからだ。


 例えば、花から発生し、花を『コア』にした妖精。

 焚き火から生まれた、火を『コア』にした妖精。


 『コア』なしの妖精もいるけど。

 リージョはおそらく、それだと思う。


 有名なエルフ達は交配で生まれているようだが、中には長寿の大木から生まれる者もいるらしい。

 人間と違って生まれ方が一定してないんだなぁ。


「その額石は、君の妖精としての『コア』なんだろうね。私としてはカーバンクルを思い浮かべるんだけれどね」


「カーバンクル??」


「一般的に――狐のような姿に君と同じような石が額にある妖精だよ」


「狐……私の片親は獣ってことですかね……」


「人間に変化へんげする者もいるからね。たとえば、ほら。魔物だが、マーメイドなんかも人間に化けてたまに街に紛れ込んだりしてるんだよ~」


「へえー」


 しかし、カーバンクルは、本によっては妖精だったり、魔族だったり、精霊だったり、ドラゴンだったり……と書物によって様々なんだよねぇ、とも言っていた。

 結局わからん! という事ですね。


 カーバンクルの宝石を手に入れた者は、富と名声など、様々な幸運を得る……とも彼は言っていた。

 私の額の石がカーバンクルの石ならば、私とっくにお金持ちじゃない? とか思ったりもする。


 考えても正解がでることはないから、いつも考えかけては、やめる。


 ――孤児院に預けられていた私。


 一体、本当の両親はどうしてしまったのだろう。

 たまに思い出しては、一瞬気にする。一瞬だけど。


 お父様も、私の実の両親を探しては、くれたようだけど。


 孤児院の前にリージョとセットで捨てられていた私。


 リージョなんてとても特徴ある生物が傍にいるにも関わらず、それは糸口にならなかったようで。


 ――やはり見つかることはなかった。





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