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14 新たなる『O're』商品の発想。

 眉間みけんにしわ寄せながらも、ノルベルトさんはコーヒー&サンドイッチを作って持ってきてくれた。


「ほら、しっかり食え。軽食だが」


「わ、リージョの分まで。ありがたい……!」


「きゅ、にゅ……!」


 リージョがサンドイッチの前でピョンピョンと跳ね、舞ってる。


「それにしても、ちょっとオーバーワークじゃないか? バイトでも雇ったほうが良いぞ。もう売れるのは確定なんだろう?」


 私の向かいに座ったノルベルトさんがコーヒーを口にしながら言った。


「人手は欲しいです。でも最初のこの注文だけは自分の手で仕上げないと。テスト品の引き取りで売上があったとはいえ、赤字は埋まってません。ここ数ヶ月の赤字は埋めたいんですよ」


「だが借金になってるわけじゃないだろう。雇える資金がまだあるなら、自分の健康を考えた仕事をしろ」


 心配してくれてる割に、呆れた目をされてる!


「うう。仰る通りではあります。しかしですね。納期を考えるとですね、雇用に使う時間がないんですよ。来てもらって何をしてもらったらいいか、とか」


「じゃあ、飯炊きやアイテム整理、店番でも頼めばどうだ。それだけでも時間が浮いて、それこそ余裕ができるだろ。販売が確定しているなら、赤字回収はそのあとにしとけ。気になるだろうがな」


「ふうむ……なるほど」


 言われてみればそうだ。

 しかしそれは、普段の私でも考えつきそうな事だった。


 ……つまり、私は相当疲れている。


「そういえば、仕事の効率も落ちている気がします」


「ほらみろ。こうやって休憩入れただけで自分の状態を把握できるだろ。しょうがないな。今日は少しオレが手伝ってやる。それは人形のデザインか」


「ん? はい。オーダーに合わせた人形の容姿を考えてました」


「オーダー見せてみろ。……桃色の髪に緑の瞳、胸は控えめ……なるほど」


 木炭を手にして、ノルベルトさんがサラサラと用紙に少女の絵を描き始めた。


「え! とても上手! そして速筆!!」


「仕事柄、絵の説明に頼ることもあるから、多少ではあるがたしなんでるんだよ。ほら、できたぞ。多分その客が求めてるのはこんな感じの人形じゃないのか」


 多少たしなむ、と言う割にはうますぎる。

 この人、やらせたら何でもできるんじゃないか……。


「……なんだろう、この『こういうのが良いんだろう?』感……。すごい! ノルベルトさんを雇いたいです」


「オレの稼ぎを超えられる給料が払えるなら雇われてやるがな」


「無理!!」


 ノルベルトさんの稼ぎが幾らか知らないし、匂わせないけどこの人絶対富豪だよ……。

 しかも商会長さんだもんな……雇える訳が無い。冗談ですよ!


「で、あと何体だ」


「とりあえず最初の納期ぶんは、7体です」


「……オレの予想だが、それを作り上げるのに一ヶ月以上かかるだろう。おまえ、納期の交渉はちゃんとしたのか?」


「え、えっと」


「してないな。納期は相手に言われるがままじゃなくて、ちゃんと自分の作成スピードを考えて交渉しろよ。そういえば、以前にも納期をギリギリにしてボロボロになってたな、お前」


「早く欲しいっていう気持ちに答えたくて……。それに何か交渉したら注文やめられたりしないかって」


「そのやり方はいつか倒れるぞ。それにその納期の交渉で注文を取りやめるようなやつは、逆に売らなくてもいいだろう。そういうヤツは、売った後も何かしらうるさい可能性が高い。再注文となったらまたそいつの言いなりの納期になるぞ。とりあえずデスクに突っ伏しでいいから、すこし休め」


「ではお言葉に甘えて……よいしょ」


 私はデスクの下のカゴにいれておいた、商品に使えない『O're(オーレ)』で作ったリージョの形の枕を取り出した。

 机に置いて、そこにボフッと頭を置く。頬にあたるそのプニップニした感触がたまらない。


「はわーん」


 自作とはいえ、極楽。


「おい、待てなんだそれは」


「え。人形に使うために削った『O're』の残りカスみたいなので作った枕ですよ。プニプニして心地よいんです。しかも汚してもサッと洗えますし」


「ちょっと貸してみろ」


「どうぞ?」


「ふむ……。不思議だが呼吸もできて、窒息しない。おまけに簡単に洗える……おまえ、どうしてこっちを商品化しなかったんだ」


「はい?」


「こっちのほうが、『O're』の消費量も少ないし、嫁人形に比べて作るのが楽だし大量生産しやすいだろう。ターゲット層も広いぞ」


「あ……」


「あ、そうか、先に思いついたのが人形だったから、思いつかなかったんだな……。先に人形ありき、の素材か」


「そうですよ、先回りして言われた!?」


「付き合いができて半年弱。オレはそろそろお前のことは見切っているぞ」


「ノルベルトさん怖い!!」


「うるさい! それより枕のほうに方向転換しろ。というか寝具方面に。簡単に洗い流せて、しかも綺麗に落ちるっていうなら寝具革命が起きるぞ! そしてうちの商店にも置いてやれる」


「う、うおおおおお!? し、しかし、すでに人形もプロジェクトが娼館とコラボで始まってて、今更やめれないよ!」


「その権利は売ってしまえ」


「ええ!?」


「仕事がない人形師に作って売る権利をくれてやれ。もしくは雇え。ただし、この『O're(オーレ)』部分は企業秘密にしてお前が担当し、その部分を人形師に素材として販売しろ。できるだけ押さえた価格でだが」


「……お、おお。ちょっとノルベルトさん、天才では?」


「天才ではない。頭脳が健康なだけだ」


 そんな謙遜の仕方初めて聞いた! でも。


「わーい! ノルベルトさんありがとうー!!」


 私は立ち上がってノルベルトさんの手を取り、感謝の握手をしようとした。


「あ」


 しかし、急に立ち上がったせいか、立ち眩みがして、そのまま前のめりに倒れ込みそうになった。


「おい、大丈夫か。急に立ち上がるから――」


 それをノルベルトさんが受け止めてくれた。


 そのタイミングで、店のドアがカランカランとベルを鳴らして開いた。


「姉上、近くまで来たから顔を見せに……」


「あ、リオネル、いらっしゃい」


「いらっしゃ……姉上? 身内か?」


 口をあんぐり開けて、リオネルが固まった。


「あ、姉上。その人は? ……どうして、抱き合って、いるのです、か……?」


 カクカクしながら、息絶え絶えに呼吸しながら話している。


 ん? 抱き合う??



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