「できた!」
『O're(オーレ)の嫁』、完成したぞ!!
波打つ美しいブロンドの髪に、色白、そして触り心地の良い柔肌。
そして、有料オプションで魔石によるひと肌温度の調節機能をつける!!
もう、意志のない人間と言っても過言ではない出来だ!!
よし! 予定通りマダム・グレンダに会いに行こう!!
◆
「どうでしょう! グレンダさん……!!」
娼館のオフィスに通された私は、テーブルをバン! と叩いて前のめりになった。
「……これは、とんでもないもの作ってきたわね。うーん、悪くないかも?」
さすがマダム・グレンダ!!
リオネルやノルベルトさんとは違う前向きな意見をくれる……!
「唇も触ってみて下さい。まるで詩で歌われる春の歌を口ずさむ乙女のような唇です……!」
「……そんな詩が実在するのか私は存じ上げないのだけれど、でも……ふむふむ。良い商品だわ。でもこれを私に見せてどうしたいの?」
「グレンダさん、これを貴族や金持ちの平民に流してみてほしいんです。テスターとして感想をいただきたいんです。そして、あわよくばお買い上げいただきたいの。できればその方たちのお子様の閨教育用に売れれば……と。」
「ふうーん……。まあ、閨教育注文じたいは困ってないのだけれど、そのなかで
「ただ、うまくいった場合、グレンダさんの閨教育の売上が落ちるかもしれませんが……そのかわり、マージンは相談の上でお渡しします!」
「うーん。やってみましょうか」
「やった! ありがとう、グレンダさん!」
「それにしても、あなた。よくこのパーツの部分とか……作れたわね」
「学院での読書の賜物です。人体に関する絵図はよく閲覧していましたし、医術科にお邪魔して実際の……その提供された既に冷たい人体の解剖の様子とかも」
良くぞ聞いてくれた、と思った私は、しっかり勉強したことを伝えて細かく説明しようとしたが。
「ああ、もう、いいわ。それ以上言わなくていいわ! (とんでもない方向へ思考が行ってしまうお嬢さんに閨教育のことを愚痴るとか失敗したな……。商品は良いと思うから一応この件は引き受けるが……。オレが男だとも、気づいてないようなウッカリ元・貴族令嬢にこんなもの作らせたという罪悪感がすごい……)」
うーん、さすがのマダム・グレンダもこういう話は苦手か。
「ところで……人形は数体持ってきたようだけれど、どれも同じ顔と髪色ね?」
「あ、はい。だいたいの男性の好みからハズレないだろう、というラインを狙って量産してみたのですが」
「うちにくるお客様はもちろん金髪好きだし、豊満な体つきが好みって方が多いのだけれど……。その逆もいるし、さらに、もっと年配好みの人もいるわ。もしも、人気が出たら別のデザインの人形を求められるかもしれないわねえ」
なるほど。勉強になるな。
しかし、そうなると私一人の考えでは、難しいな。
「うーん、そのあたりは、いろんな意見をいただくなどして、デザイン協力を仰ぎたいですね」
「それこそテスターさんからのご意見が必要ね。それじゃ協力してくれそうなお客様に声をかけてみて、アンケートも記入してもらうわね」
とても意義のある面談であった!
仕事してるって感じするわぁ!
「はい、ありがとうございます! テスターの方が欲しいと言われたら、テスト品はそのまま差し上げてください!」
「まあ……。衛生面的にも返されても困るわよね……」
そんな話をして、待つこと10日ほど。
◆
「よーし!」
グレンダさんの娼館で、我が『O're(オーレ)の嫁』の発売が決まった!!
回答が早かった!! つまりそれだけ気に入ってくれたことだと思う!
早速、グレンダさんが売り込みをしてくれたところ、需要が思ったよりもあった。
また、テスト品の人形たちは全員、ちゃんと引き取られた。
テストしてくださった方々が、大層気に入ってくださったようだった。
中には販売予定価格を聞いて、テスト品なのにその代金を支払ってくれた人もいた。
わーい、儲かった!!
そして。
意外と魔石でひと肌温度にできる子たちの注文が多かった。
そしてやはり、ひと肌は正義だった。ひと肌温度は人類の故郷。
価格は魔石も使うし結構するのに金持ち多いな!
それはともかく。
「……忙しいな!?」
グレンダさんの言っていた通り、まさしく「俺好み」の人形を何種類か作ることになり、私はその特殊オーダーによるデザイン、そして制作……と、睡眠時間が削れるほどの忙しさになった。
「あひょひゃほへ……」
一息ついて、製図台をテーブルのように平らに倒し、その上に突っ伏した。
人間の言葉が出てこない。
あれ、そういえば今日は何日だ。
そろそろリオネルと約束したイチョウ祭りが近いはず。
リオネルとお祭り行きたいから、ここ数日無理を押して頑張ってはいたけど……そろそろダレてきてしまったなあ……。
「おーい、マルリース。いるかー?」
この声はノルベルトさんだ。
カランカラン、とベルが鳴って、入ってくる足音がした。
「います~。工房ですよ~」
「うわ。なんだその体たらくは……てか、なんだこの工房の散らかり具合は!」
ノルベルトさんは工房に入ってくるなり、私の屍のような姿と散乱する人形パーツを見て、そう言った。
「ああ~すいません。にわかに多忙になってしまい……。聞いて下さい、以前言ってた人形、何体か注文入ったんですよ! だからとても忙しくて……いまちょっと垂れてました」
「にゅ、にゅ。きゅっ!」
頭の上で、リージョが起きろと言わんばかりに跳ねたり踊ったりしている。
「あー……あれか。しかし、中途半端にダレるより、きっちり休憩しろ。キッチン借りていいならコーヒーでも淹れてやるが?」
「あ、助かります。おねがいします。ついでに何か軽食を、お母さん……」
「お母さん言うな!」
ブツブツ言いつつも、ノルベルトさんは、キッチンに向かった。
ありがとう、ありがとう……!