その後、私は本当だったらリオネルと一緒に通うはずだった郊外の学院へ通い始めた。
リオネルは既に通っていたのだけど、私は額石の件もあり、それまでは家庭教師だった。
リオネルの学院は王都にある。
王都は楽しいことがいっぱいありそう。
家出状態ではあるけど、楽しい場所に彼がいられるなら良かった。
私は学院で1年目に基礎教科をこなした後、2年生から取れる専科は錬金術を選んだ。
幼い頃からひそかに憧れていたのだ。
それに錬金術を選んでおけば、学院卒業後、幅広い活動が行える。
女生徒はあまり選ばない科目だが、どこかの家門に嫁として入るにしても、錬金術が使える嫁というのは、一目置かれるはずなのだ。
さすがに金を生み出す技術は現実にはないけれど、様々(さまざま)なアイテムを作り出す事ができるようになるため、嫁ぎ先でも地元の特産品を役立てて新しい商品開発を思考したり、資格はとれないが医術にも長けるため、家庭内の健康に気を配ることもできる。オールマイティに活躍する嫁となるのだ。
さらに錬金術科は、難関テストに合格しないと入れない。
つまり、錬金術科に入っただけでかなり優秀な生徒とも言えるのだ。
「すごいね、マルリース」
婚約者のクレマンは、私が錬金術科に入った時、とても褒めてくれた。
「ありがとう、一生懸命勉強して、あなたの領地へ嫁ぐときには、とっても役に立つ嫁になることを約束するわね!」
私はクレマンのことが、そこそこ好きだった。
その気持ちは、恋ではなかったと思うけど。
1つ年上のクレマンは、うちの領地とわりと近い男爵領地の一人息子だ。
容姿も優しげだし、私の話をよくウンウン、と聞いてくれた。
お父様も彼のそういう態度を見て、私の婚約者に決めたのだと思う。
また、彼の両親もおっとりとしていて、私が訪ねるといつもニコニコして私を迎えてくれた。
彼らのことも、好きだった。
新しい父母として、結婚後もやっていけると未来を信じて疑っていなかった。
結婚間近の17歳になるまでは。
◆
18歳になるクレマンの誕生日パーティに出席した私は、信じられないものを目にした。
彼が途中でパーティ会場からいなくなったため、探して庭園を歩いていたところ――。
「私だって、あなたの誕生日をお祝いしたいのに……私はパーティに参加できないのね」
「じゅうぶん祝ってくれてるよ。この世で一番、愛してるよ、バレーヌ」
「ああ、クレマン……!」
そんなセリフからの、ディープキス。
それを私は目の当たりにし、叫んだ。
「うそでしょ!?」
その声に気がついた二人とバッチリ目が合い向かい合った。
「ま、マルリース……!!」
「まあ……マルリース様」
クレマンの横には、知らない女性が大きなおなかの女性――バレーヌが寄り添っていた。
綺麗な金髪に、
なんでも、使用人の娘で、ずっと両思いだったらしい。
その後、居間で彼の両親と彼と彼女から私への説明が始まった。
「マルリース、黙っていたことを申し訳なく思う。でも……僕は彼女を愛していて、第二夫人になることを許してほしい」
「……はい?」
「マルリース様、お願いします。この通り、私のおなかには既に彼の子どもが……っ」
彼女が私を見て怯えた風になり、クレマンに抱きつく。
「そのように彼女を
別に、
さらに、クレマンの父が、爆弾を落とした。
「だが安心してほしいんだ。君に第一夫人として来てもらうのには変わりないからね、マルリース」
「はい?」
「マルリース、申し訳ないのだけれど、クレマンはあなたを女性として愛することはできないらしいの……既に真実の愛を見つけてしまっていたから……だから、許してやって。そしてバレーヌに、第二夫人として――跡継ぎを産む権利は、譲ってやってちょうだい」
クレマン母もとんでもない事を言った。
「え、まさかとは思いますけど。婚約を続けるおつもりで……? ついでに言うと、この国に一夫多妻制度はありませんけど? 第二夫人って
「やだ!
涙をポロポロ流すバレーヌ。
「なんてことを言うんだ、マルリース! いくら平民相手だからって……暴言が過ぎるぞ!」
眉間にしわ寄せて
「ずっと仲良くやってきたじゃないか。そこにバレーヌが加わるだけだ。 だいたい君は容姿も態度も人間味を感じられないんだよね。だから僕は君を愛せない。そして君にはこの領地でやれる役割がある。お互いの家門も婚約破棄しなくても済む。丸く収まるだろう?」
良い考えだ、と自分の意見を疑わないクレマンがバレーヌの肩を抱きながら言う。
「素敵。これでずっとクレマンと一緒にいられるのね」
「ああ、そうさ。そして家門が揺らぐこともない……僕たちの愛は永遠だ」
「クレマン……っ!」
そこでまたディープキスる二人。
そんな二人を微笑ましく見ている両親。おいおい。まじかよって吐き捨てたい。
「……」
クレマンは、婚約していた数年。
私を大事にしたいと言い、キスの1つもしようとしなかった。
優しい人なんだと思っていた。けど、こういうことだったんだね。
私は無言で立ち上がり、その幸せ
――そして、当然ながら、両親に全てを話した。
両親は激怒した。あんなに
父は裁判を起こし、破格の損害賠償をふっかけ、見事奪いとった。
さらに、私を騙して嫁がせるつもりがあったとして、契約違反と詐欺罪も訴えた。
父が婚約の際に出した条件の1つが、私を大事にし愛することが含まれていた。
彼らの大事にする、は我が家とはかなりズレていたようである。