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04 闇オクで売られていた私だった。


「実はお前は、赤ん坊の時に闇オークションで売られていたんだよ。マルリース」


「えっ」←私

「えっ!!!」←弟


 言葉がかぶると、私と弟の間には殺気が流れる。


「ハッピープリン!!」←私

「……っ! は、ハッピーぷ……くそっ!!」←弟


 重大かつ、真面目な話をしているのに習慣とは恐ろしいものである。


 言葉が被った時に、先に『ハッピープリン』と叫んだほうが、プリンを譲るという遊びを当時リオネルとやっていたのである。

 その時は、珍しく勝てた。だいたい、いつも負けてる。


「あらあら、二人共。お父様の大事なお話の最中よ?」


 注意しながらクスクスと笑うお母様。


「すみません。……で。衝撃の事実が聞こえたような……」


 プリンを口に流し込みながら会話を続ける私。

 プリンは飲み物。


 衝撃的ではあったが、私に緊張感はなかった。

 それだけ家族と信頼関係が築けていた。


「……(姉上が姉上じゃないという事実に気を取られて僕とした事が、遅れをとってしまった……!)」


 一方、プリンを失った弟のほうが、緊迫した表情でクッキーを頬張ってた。


「……今更、そんな事言われても……ってとこがある」


「いや、本当だよね! 黙っていてすまないね。マルリース。実はいるのが当たり前過ぎて、もっと早くに言うはずが……忘れていた。今回、婚約の書類書いていて……思い出したんだ」


「もうっ! あなたったなら!」

「でもそれ、母上も忘れてたってことですよね」


 とても不機嫌そうな顔を見せて、母に突っ込む弟。

 うちの子爵家は、家門内では、ノリが軽い。

 外ではちゃんとしてます。


「あらやだ! 私ったら!!」

「まさかとは思いますが、今まで育てた恩を返すために……とか言って何か要求されるんですか」

「実は……」

 急に声を落とす父。


「ま……まさか!?」

「なーんて言うと思った!? ざんねーん! なにもありません! とりあえず幸せになってください!」


 ヘラっと笑う父。


「殴っていいですか、お父様」

「いいわよ、マルリース。お母様の扇子貸してあげる」


 母から扇子を受け取り、青筋立てて父に迫った。


「ごめんね! お父様が悪かったYO(よ)!」


 手を合わせてニコニコ顔で悪気なく謝る父。

 脱線がひどいな……。話を戻さねば。


「てか、そんなところで売られてた私が、なぜこの家の子になったんですか。孤児院に返さなかったんですか?」


「それがさあ。当時、私の所属してた王宮警備団が、そのオークションにガサ入れしてね。君を押収したわけだが」


 「押収」


 救助、とかもっと言い方あるんじゃないですかね?


「そう。調査の間ねえ、生き物の場合、誰かが面倒みることになってんだよ。犬や猫なら屯所で預かって交代で餌をやったりするんだが。なんせ赤ちゃんだろう。その時一番下っ端だった私が預かることになってね。連れ帰って面倒を見ていたら、情が移っちゃったよね」


「生き物」


 父は、昔、王宮にあるいくつかの警備団の1つに騎士として所属していた。


「ええ。ちょうどリオネルもお腹にいたし、赤ちゃんの予行演習だーって、軽い気持ちで預かってたのに、離れたくなくなっちゃった」


「軽い気持ちで」


「そうそう、だから……ねえ?」

「そうそう、だから、そのまま貰っちゃった!」


「なんと。引き取って頂いてありがとうございます……?」


「まあ! なんてこというのこのコは!! お礼なんて言われる筋合いないわ! こっちこそ来てくれてありがとう! マルリース!!」


 ぎゅっ!


 感極まった母に抱きしめられる。


 軽い気持ちで、とは言ってるが、この愛情は決して軽くないな、と感じる。


 この我が家の様子は、他者からしたらとんでもない様子に見えるかもしれない。

 けど私達にとっては、大事で温かなコミュニケーションなのだ。


 私も母にギュッと抱きついた。


「幸せになってくれって言われましたが、すでにこの状態が幸せでは?」

「確かに!! しかし、とうとう婚約が決まるまでお前は無事に成長してくれた。クレマン君もこんなに可愛いお前ならきっと幸せにしてくれるだろう!」


 そうだろうか?

 そこはすこし疑問を感じる。

 この家にいる以上に幸せになれることってあるのだろうか。


 疑問に思いつつも、結婚して嫁ぐという貴族娘に敷かれたルールは、私もこなすつもりであったので、コク……と頷いた。

 本音はこの家を出ていきたく無かったのだが、本当の娘じゃないと知り、こんなに愛されてる、とわかっていても――心の中は遠慮ができていた。


「ところで、オークションはどこで姉上を仕入れたの」


 そんな動揺する私に、先程から超不機嫌顔の弟がそう言った。


「仕入れたって言うな!?」


「ああ、それはね。ちょっと悲しいお話なんだ」


 ちょっと、お父様も『仕入れた』に突っ込んでくれませんかね!?



 ――警備団の調査によると、私は孤児院から誘拐された赤ん坊だったらしい。


 孤児院は、常にいかがわしい組織にチェックされているらしく、たまに神隠しのように子どもがいなくなる事があると言う。


 悲しいことに、人間を売るのは金になる。

 そして行き先のほとんどは、奴隷だったり、表沙汰にできない被験体がほとんどらしい。


 私の場合、額に宝石がついていたり、髪の色が珍しかった。

 そんな赤ん坊は有閑階級の見せびらかし用の奴隷として売れると思ったのだろう、とのこと。


 実際に私のような一風変わった容姿は、妖精とのあいの子、と言われていて相当なレアらしい。

 確証はないのだが、そうとしか説明がつかないからだ。


 伝説によると、妖精の伴侶つがいとして人間が選ばれた時、それに人間のほうも応じた場合に生まれるという。

 ちなみに耳は普通に人間の耳なので、エルフではないと思われる。


「うわ……危ないところを助けて頂き、ありがとうございます。お父様、お母様」


 養子であることを、伝えられて動揺はしたが、両親には感謝しかない。

 そう思っていたところに――。


「え。じゃあ姉上の婚約、白紙に戻してよ、父上」


 リオネルがクッキーを紅茶で流し込み、キッ! となって言った。


 んん?


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