――数日後。
弟のリオネルは、知らせたらすぐに来てくれた。
「姉上、準備できた?」
「うん」
「姉上の家、購入した時に訪ねたきりだったから久しぶりだ。うん、雰囲気良い店だね」
「でしょう! 立地は悪いけどね!! 急に呼び出してごめんね」
「ううん。学院の方は単位も全部取り終わったし、僕の領地――シルヴァレイクもだいたい整ってきたし、大丈夫。これからはちょくちょく、様子を見に来るよ。」
「おお。おいでおいで」
リオネル=リシュパンは、私の1つ年下の弟で、リシュパン子爵家で幼い頃一緒に育った。
彼は既に騎士の資格を取得している。
その腕前は……一言でいうと、『やばい』。
騎士には『剣士』『剣才』『剣聖』とランクがあり、ほとんどの人は『剣士』止まりで、『剣才』になるのは特に優れた者だけだ。
そして、その上の『剣聖』に至る者は、ほぼ存在しないと言われている。
……弟はその『剣聖』に至ってしまったのだ。
「『剣才』止まりだと思ってたんだけど、学院のイベントで『剣聖』殿に真剣勝負を挑んだら、そこで
「ひえっ……」
『剣聖』とは、通常の人間の枠を超えた存在である。
この世界には魔法があり、通常の人々は身体に宿る魔力を使って魔法を発動させる。
しかし、『剣聖』はそれに加えて『
『剣聖』に関する書物によると、『
魔法と
……一体どうなってんの? 想像がつかない。
そして、『剣聖』に至ったものは、他者も『剣聖』に引き上げる義務がある。
法律って面倒くさいですね。
リオネルが先程言っていた学院のイベントがその一環で、学生騎士にそのチャンスを与えに、定期的に剣聖が学院へ呼ばれるのだ。
しかし、『
その試合で『
ちなみに、リオネルは風属性魔力持ちだ。
おまけに、彼の容姿は金髪に切れ長の青い瞳、端正で上品な顔つきをしている。もちろん背は高く、どんな女性も一度は憧れるであろう、まるで絵物語の王子様だ。
男性であっても、すれ違えば振り返る。一度見たら忘れられないほどの美貌ってやつである。
彼の髪は触るととても柔らかく、ずっと触っていたい質感だ。
昔は遠慮なく触ってた。よく拒否られなかったな。
――このように神様にギフトを盛りに盛られたのかと思うくらい、彼は、あらゆるものに恵まれている。
そんな彼にとって、私が潜るようなダンジョンなど、庭の散歩と変わらない。
おかげで私は今、安全安心なダンジョン潜り(無料)ができている。
なんという身内特典。
それでも、持つべき者の宿命で、厄介事は多いようである。
この間、実家に帰った時にお父様がぼやいていた。
「まーた、うちの息子を婿養子に寄越せって言われた!! しつこい! うちの跡取りだっつーの!! ああもう、なんだよ、この大量の釣書は!」
婚約の申込書だけでも、処理がとっても大変そうだった。
処理にあたって大変なのは、お父様だけども。
そりゃ、こんな隙のない御曹司ならば、例え跡取りだろうと、我が家門のぜひ婿に! というルール破りの方もいらっしゃるだろう。
なんせ、リオネルは、『剣聖』に至った栄誉から、領地と伯爵位も国王から贈られている。
自分の娘を嫁に出すか、無理矢理婿に取れば彼の領地が転がり込むのでは? と無茶を考える愚かな貴族もいるようだ。
そんな訳ないんだが。
しかし。
こんな大物に育つとわかっていたら、いくら私が養子だったとしても、私が実家を継ぎ、リオネルはどんどん出世すべきだったのでは? と思ってしまう。
私の方は、魔力はかなり多いのだが、属性魔法に目覚めることもなければ、スキル魔法を持っているわけでもない。
単純に、魔力だけ。
属性魔法やスキル魔法がなくても、魔力があればそれを利用してマジックアイテムを作成したりすることもできるし、戦闘するならば、自分にエンチャントをかけてブーストすることもできる。食うに困っても、魔石に魔力を込めるというバイトだってできるし。つまり。
私の名誉のために言っておくと、まったくの役立たずというわけでもないのだ。
また、かなり弱いが『魅了体質』がある。
パッシブスキルの『魅了』よりもかなり威力が弱いので社会問題にならなくて、放置してもよいものだ。
パッシブスキルの『魅了』であるなら、初対面からすれ違うあらゆる人が振り返って見ちゃったり、場合によっては、惹かれた人から理由のないプレゼントを貢がれたりして風紀を乱す。
しかし、『魅了体質』ならば。
初対面の人に容姿関係なく、『あ、なんかこの人印象いいな~』と、軽く良い感じに見えちゃう程度のもの。 なので社会的に問題ないらしい。
そんな私は半妖精で、養子。
それを知ったのは11歳の頃だ。
自分が養子だとそれまで疑ったことがなかった。
うちの家族は私以外が全員金髪で、私だけ
『私だけどうして、こんな髪色なの? 私にだけある、この額の宝石はなに?』と幼い頃はよく嘆いた。
けど、そのうち慣れて気にしなくなったよねっていう。
「医者によると特殊なホクロらしいよ!」
と父には最初そのように誤魔化されていたし、それを素直に信じ込んだ私だった。
前述したとおり、事実を知ったのは、11歳の頃で、婚約が決まった時だった。
その婚約は破談になりましたけどね。
簡単に破談の理由を説明すると、相手には幼い頃から愛を誓った相手がいて、それが発覚したからだ。
さらに妊娠してた。まったく、ひどい目に合いました。
それはともかく、父が言うには――。
「実はお前は、赤ん坊の時に闇オークションで売られていたんだよ。マルリース」
えっ。