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半妖精の錬金術師ですが、どうやら弟が運命のツガイのようです。
ぷり
異世界恋愛ロマファン
2024年08月23日
公開日
240,809文字
完結
マルリースは妖精とのハーフ。ひょんなことから子爵家に引き取られ、愛情深く育てられた彼女だったが婚約破棄に遭い、行き遅れとなってしまう。そこで平民として王都の片隅に錬金術店を構えるが、店は閑古鳥が鳴くばかり。そんな中、常連客である娼館マダムからの何気ない話をきっかけに、夜のおともグッズを開発することに。
一方、彼女を幼い頃から慕う弟であり剣聖のリオネル。彼女に「弟にしか見えない」と振られた過去があるものの、再起し彼女との婚約を目指す。恋愛に疎かったマルリースだが、ある日妖精として成人を迎えたことで――弟リオネルが、自分の運命のツガイだと気づく――。

・残酷な表現が含まれていますので、ご注意ください。
・第一話は明るい雰囲気に見えますが、ギャグではありません。
・この作品は、私が独自に設定したファンタジー世界を舞台としています。そのため、世間一般のファンタジー設定とは異なる場合がありますので、ご了承ください。
・なろう小説さんにも投稿しています。

01 どうも、売れない錬金術師です。ひらめきました。

「うう、また在庫が増えちゃった……」


 せっかく作った敏感肌用薬草クリーム。


 その在庫の山を見て、私はため息をついた。

 敏感肌で困っている、というお客さんの要望に応じて作った品だったが、約束の期日を一週間過ぎても取りに来ない。


 ◆


 私は城下街の片隅で暮らす錬金術師。

 といっても、学院を卒業して商売を初めてまだ半年過ぎのぺーぺーなんですけど。


 名前はマルリース=ポプラ。


 白緑びゃくろく色の髪に、赤い瞳の18歳。生まれつきひたいに赤く小さな宝石が有り、普段はサークレットで隠しております。

 妖精とのハーフじゃないかと家族は言う。


 そんな私は半年前まで子爵家の養子だった。


 昨年、学院を卒業したあとは、実家から独立し平民となりました。


 嫁ぐ予定もあったのだけれど、結婚目前に相手責任による婚約破棄に合い、行き遅れになっちゃったのよね。

 年齢的にもう良い縁談が望めなかった。


 幸い、学院で錬金術師の資格を取得していたので、親から資金をもらってこの店をやってます。



 そうしてここに店を構えたものの……買った後で気がついたのだが、立地が悪かった。


 この街には腕の良い錬金術師が多く、そんな彼らはもっと王城近くの大通りに店を構える。

 錬金術師に頼み事をする客なんて、まず大通りへ行くに決まってるからだ。


 ここはそんな大通りからは、すこし遠い場所にある、ご近所様御用達ごようたしって感じの小さな商店街だ。

 錬金術の店を構えるには向いていない。


「良い品物ができた自信あるのに……。きっと、他の錬金術師に頼んだのね……。それならキャンセルしてくれたらいいのに」


 私は薬草クリームのフタをぱかっと開けて自分の手に塗り込んだ。

 すっとなじんで、滑らか。そしてベトベトしない。

 絶対に良い商品だと思う。


 店のカウンターにテスター品として並べてみたり、来てくれるお客さんに営業してみようと思うけれど、売り切れるかなぁ。

 そもそも、店の立地が悪いせいで、なかなかお客がこない。


 家から独立する時に、親に相談もせず、ポーンとこの土地と家を買ってしまったのよね。


 私自身は錬金術の腕は悪くないと思う。

 けれど、商売方面には向いていなかった。


 アイテムを作ることばっか、考えてた。


 あとあとの事を考えず、この中古のレンガ作りの可愛い家を見て気に入ってしまい、即決してしまった。

 それに安かったし……。


 元はパン屋さんだったそうで、カウンターと陳列棚も備え付きだった。


 カウンターの奥には2階の住居スペースへの階段と、広い作業部屋に、パンをこねていただろう広い作業台。おまけに、大きなかまもあった。


 さらに、庭には小さい井戸に、焼却炉。

 不動産屋の手入れが良く、青々とした芝生が敷き詰められている。


 白い丸テーブルと椅子でも置けば、絵本の世界のようなティータイムができそう、と思ってテンションが上がった。


「失敗したなぁ……」


 この家のことは気に入っている。


 しかし、売上がプラスにならず、家を出る時に親からいただいた資金がジリジリ削れていく。


 資金を大幅に失ってでも、大通りに引っ越すべきか――いやしかし、それで失敗したら……と、思うと踏み切れない。


 キャンセルされた薬草クリームの在庫を眺めて、その決して安くはない作成費用を頭に思い浮かべた。


「痛い……財布が……」


 ぐすん、作るのにかかった費用かえせー。

 冒険者ギルドに薬草採取の依頼をかけるお金だってバカにならないんだから!


 それにしても今月も赤字……。


 このままでは、お店を閉じて、どこかに再就職するしかなくなる……。


 錬金術師の勉強して資格も取ったのに?

 なんて世知辛いの!


 工房でため息をついていると、お店のドアが開いたことを知らせるベルがなった。


「はーい、いらっしゃーい。あ、グレンダさん」

「こんにちは、マルリース」


 店へ移動すると、ブルーブラックの髪に紺色の瞳、唇の横にホクロがある色っぽい雰囲気のマダム(推定身長195センチ)が立っていた。


 娼館経営しているマダム・グレンダさんだ。

 グレンダさんはとても背が高いのでいつも首が痛くなるほど見上げる。


「いつものあるかしら?」

「あ、はいはい。そろそろいらっしゃるかと思って作っておきました!」


 グレンダさんは、うちが一番安いからと、娼館の子たちに支給するデリケートな部分への軟膏を定期的に買ってくださる。


 私が品物を包んで、準備している間、グレンダさんが雑談を始めた。


「はあ、困ったわぁ」

「どうしたのです?」

「とある貴族から閨教育に使える子を頼まれたのよ」

「へえー。娼館ってそんな仕事がくるんですね」


「平民の子は金を掴ませたら後腐れなくていいのよ。たまに子供ができたことで貴族の家に乗り込んでっちゃう子もいるけれども、まあ、そんな事をすれば命が危ないから、めったにないけど」


「ふーむ。でもそれで何がお困りなんです?」


「結構注文がうるさいのよ。最初にこのどうです? って連れて行ったら顔が気に入らないからチェンジ、その次は胸が小さいからチェンジって。あとついでに処女おとめも用意しろって」


「あー。閨教育する年齡の青年なら、普段は磨き上げられた美しい令嬢ばかり見ているから、そんじょそこらの平民女子だと見劣りしてその気になれないのかもしれませんね」


「ところであなた処女おとめ?」


「はいはい、そういう仕事は引き受けてませんようー。これでも実家は子爵家ですよ!」


「あら、没落貴族令嬢とか人気あるのよ? 残念。あなたなら絶対、需要あるのにぃ」


「うちの実家を勝手に没落貴族にしないで!?」


「没落してようとしてまいと実際はどうでもいいのよ。そう言っとけば売れるからそう言うだけで~。ノリよ、ノリ」


「はい!! 包み終わりましたよ! それと、これオマケです。いつものクリームより、さらにランクの高い、敏感肌薬草クリームです!」


「あらまあ、いいの? 嬉しいけれど、これテスターって感じの量でもないわよね?」


「特注品でしたが、すっぽかされましたー」


「まあ、ひどい。気に入ったら私が買い取ってあげるわ」


「あなたは神か」


「まあまあ。娼館の元締めを神にたたえるとか、神殿に怒られるわよー。ほほほ」


 そんな雑談をして、マダムは帰っていった。

 新商品のクリーム、気に入ってもらえたらいいなぁ。そして買って。


 そのあと私はキッチンの揺り椅子でユラユラしながらお茶を飲んだ。

 どうせお客は来ないし、ぼーっとする。


「娼館も難儀なオーダーが来るのね。大変そう」


 紅茶一口、クッキーぽりぽり。


 そして、学生時代に学校の階段下で男子がたむろって閨教育の話を思い出してジト目になった。

 だいたい、下品なことをしゃべってた。


 彼らの初めて実技はやはり熟練の淑女らしいが、家門によっては、その後で初めての子を雇うらしい。

 ご結婚相手の令嬢は初めてでいらっしゃることだろうし、実際を知っておけ、ということらしい。


 まあ、確かに……。


 ご令嬢相手に、肝心なタイミングで、『違いますぅ~そっちじゃありません~(謎)』などと言わせるわけにも言わないだろう。


 肝心なタイミングで場所を間違えるなど、紳士としてリード出来ないと言っているようなもの。

 テンションだだ下がり、その後の結婚生活に支障をきたしかねない。


「閨教育かぁ。だいたい生娘用意しろ、とかどれだけ横暴なのよ……。乙女の一生に一度を売れってんでしょ? ふざけてるわよねぇ……まあ、良いお金にはなるだろうけれども……。練習なら、そこらへんの縫いぐるみでも抱いてろっての……」


 ……ん?


 お?? なんか閃いたぞ。


 リアルな人形を作って……良い感じのパーツを取り付けて交換可能にしていつも清潔に練習に挑めるアイテム……。


 生身の人間よりかはテンション下がるかもしれないが、悪くないアイデアなのではないだろうか?

 それがうまくいけば人助けになるし、マダム・グレンダの憂鬱ゆううつを解消してあげられるかもしれない!


 私は紅茶のカップをテーブルにおいて、手をぽん! とした。


「ヨシ!」


「きゅぃ!?」


 近くで寝ていた、ペットのリージョがびっくりして跳ねた。


 この子は、私が赤ん坊のころからずっと傍にいて離れない。


 可愛いのだが、はっきり言って謎の生き物である。

 ひょっとしたら妖精かもしれない。


 リージョは、ふわふわの黄色い毛で全身が包まれている丸い生き物で、頭のてっぺんにウサギのような耳が生えている。

 目は黒く、つぶらである。

 全体につるっとした感じのフォルムなのだけど、よく見ると、ちみっと小さい手足があるのがわかる。


 ノミのようにぴょんぴょん跳ねて移動する。


「ああ、ごめん。びっくりした?」

「……フッ」


 リージョはため息のように息をはくと、また眠ったようだった。


 リージョは、とくになにか有能なことができるわけではなく、実質ペットである。

 可愛いから許す。


「さてと」


 私はさっそく頭の中に浮かんだ構想を、ノートに描き始めた。


「良い。これはひそかな人気になるのでは!」


 私って天才じゃない!?


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