開店して間もない時間帯に来たので、特に順番待ちをすることなく駐車場へと入れたのでぶはぁと盛大に息吐きだしながら真理那がヘルメットを脱ぐ。
「あっつい!!」
「ヘルメットの苦しさを知ったお前は、一歩ライダーに近づいたな」
「はいはい。それより……入口がいくつもあるわね。どこから入ればいいの? 早く中に入りましょう」
「真理那の家の周りには、まだ大きなショッピングモールは無いから物珍しいだろー。オレも初めて見た時はびっくりしたもんだ」
「生憎だけど、ウチの近所にもココより小さいけど同じようなのが出来たわよ。だから何もないと揶揄される田舎の称号は返上したわ」
「なに!? 知らなかった……。あ、入るのはすぐそこの入口でいいぞ」
わざわざ外から回って服屋のすぐ傍にある入口まで行く必要はないのだ。この猛暑なら尚更だ。現在人たるもの、冷房がガンガンに効いた屋内で気持ちよく楽してショッピングを楽しむべきなのである。
「ねえ、今更ではあるけど買うお金は――」
「気にすんな。家出祝いってことにしとくさ」
「どんなお祝いよ。出所祝いみたいに聞こえて複雑だわ……」
「なら誕生日プレゼントでもいいさ」
「誕生日はもうとっくに過ぎてるじゃない。……いいわ、返す方法は後でどうにかするから貸しにしておいてちょうだい」
「利息はトイチな。足りない分は身体で払う方式で」
「なら先に女の寝顔を盗み見た罰金を払ってもらわないとね……?」
なんて、互いに不穏な会話をしているように聞こえるかもしれないが、こんなのただの冗談だ。会話を楽しむためのスパイスみたいなもんである。
直接話すのもそれなりに久しぶりだが、やっぱりコイツとやり取りするのはなんとも愉快だ。そんじょそこらにいるヤツでは、こうも気持ちよく言葉のキャッチボールなんて成立しない。濃ゆい付き合いが成せる技だな。
「せっかくだもの。晴兎の懐が涼しくなるような高い服を選びましょうか」
「遠慮が無さすぎて惚れ惚れするぜ」
「あなたが買ってくれるんだから、少しはどんなのがいいかリクエストしてもいいのよ?」
「じゃあ、その小麦色の肌がちらちら拝めるエロカワイイのがいいな。いや待て、それよりも日焼跡がのぞくひらひらした服の方がいいか……? くっ、悩ましい!」
「永遠に悩んでなさい」
じと目でキモいものを見るような視線を味わいつつ、てくてくとショッピングモール内にIN。三階建ての建物は横に長く全体的に楕円を描くような形になっており、あっちにこっちに階段・エスカレーター・エレベーターが設置されている。
キョロキョロと初めてのお店をチェックしている真理那を放っておくと時間がかかりそうなので、引っ張るように目当ての女性服ショップへ向かった。目的地に到着すると、顔馴染みの目ざといおねぇ店員がオレに気づいて、営業スマイルを浮かべながら近づいてくる。
「ハァイ、晴兎。今日はアタシに会いに来たの?」
「悪いな、
後ろに控えていた真理那をずずいと前に出すと、
「ええ!? この子って、先日のタダメシパーティにいた子じゃない」
真理那が「あの時はおせわになりました」と礼儀正しく頭を下げる。
碧ちゃんはインパクト抜群なおねぇキャラのため、バッチリ覚えていたんだな。忘れる方が難しいだろうけど。
「さすがにどーなのよ晴兎。いくら若くて可愛い子が好きだからって制服姿の女の子を連れ歩くなんて変態犯罪者に間違えられるみたいな? きゃー、おまわりさーんっ的な」
「おいおい、警備員がすっとんでくるような冗談はやめてくれよ。確かに真理那は若くて可愛いが、別にそういうプレイ相手じゃないんだ」
「へぇ……? 晴兎はそういうプレイをするような相手がいるの? ふーん?」
「もうやだァ、じと目で名前を呼び合うなんて随分仲の良い意味深カップルぅ☆」
「下世話な詮索は止してくれ、真理那はオレの大事な従姉妹なんだ。イイ感じに似合う服が欲しがってるんで、碧ちゃんに見たててもらおうって思ったわけよ」
「ほほー、プレゼントって感じ? おっけい、それじゃあこっちに来てどんなのがいいか聞かせてちょうだぃ」
「わ、わかりました」
おねえ店員様がニコニコしながらおっかなびっくり気味の真理那を店の奥へと連れていく。
あとは二人に任せておけば話は早い。
近くの喫茶店で買ったコーヒーを飲みながら店前の休憩用ふかふかイスで待つことしばし。店の方から「晴兎~、ちょっときてー」と呼ぶ声がした方へと向かってみると。
「これ、どうかしら?」
試着室でイイ感じにチョイスされた服に身を包む真理那が、それとなくモデルっぽいポーズをとっていた。
全体的にボーイッシュな印象があるのは、そのTシャツ&ハーフパンツ姿が身軽なダンサーをイメージさせるからか。キャップを被ってるのもそれっぽい感じだ。
清楚で知的な雰囲気だった従姉妹。彼女がどういった思惑でこの恰好を選んだのかは、気になるところではある……が、まずはこう伝えたい。
「クールでかっこいいぞ。割と意外なチョイスではあるが」
「夏場だし、ヒラヒラした薄地の白いワンピースの方が良かったって?」
「ハッハッハ!」
それはそれで見てみたいぞ。
「着てみたいのがあるなら何着か選んでいいぞ。碧ちゃんも着せ替えしたくてうずうずしてるようだし」
「わかってるじゃなーい。こんな可愛い子がいるのに着飾らずにはいられないアパレル店員の
「晴兎がいいなら選ぶけど、ここの服はそんなに安いわけじゃないわよ?」
――お財布は大丈夫?
暗にそう尋ねてくる真理那に、オレは手をひらひらさせて応えた。
「お友達価格とツケでどうにかするさ」
「そんな馴染みの居酒屋対応に期待されても困るわぁ」
やれやれと苦笑する碧ちゃんがベシッとオレの肩にツッコミを入れる。
コントのような掛け合いは真理那にあまりウケなかったらしく、「ふーん」とドライな反応が返ってきた。
「ならいいわ。碧さん、何かオススメなのがあれば教えてもらえますか?」
「もっちのろん! リクエストがあったら言ってねー。あっまいふわふわ系からエロ可愛いのまで当店はまあまあ取り揃えてるし。あ、晴兎が好きそうなのもあ――」
「最後のは別にいいです」
オレを置いてけぼりにして女子力の上がりそうなトークが展開されていく。あまり顔には出ていないが真理那が楽しそうでなによりだ。
実家にいる時はあまりできない会話だろうからなぁ。
「……あの堅物叔母さんがJKトレンドの話しなんてするわけもないだろし」
だったらココで存分にすればいいさ。