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第2話(後):人んちの前に制服JKが座り込んでいた!

 ◇◇◇


 「……で、だ。お前はなんで学校の制服なんか着てんだ? 新手の男性向けコスプレサービスでも始めたのか?」


 質問した直後、大きめのドラム缶バッグがオレの顔面にメショッとめりこんだ。

 今のはこうされても文句は言えない質問の類いだったので、特に腹は立たない。というか、それよりも先にテキパキと部屋の掃除をしている真理那が気になって仕方ないのだ。


 玄関前に座り込んでいた真理那を部屋に招いた直後、彼女は不愉快さとドン引き具合を微塵も隠そうとしないしかめっ面で室内をぐるっと一瞥した。

 端的に言って一人暮らしをしている大学生の部屋が綺麗に整っているなんていうのは幻想か、よほどのキレイ好きでなければありえないものだ。


 一家三人で暮らせそうなスペースがあるボロアパートの部屋は元々のボロさに拍車をかけて、中々の小汚さを演出している。


 取りこんでそのまま無造作に放置してあった洗濯物。

 雑に積んで今にも崩れそうな本や雑誌の山。

 テーブルの上には片づけないでそのままにしたペットボトルやインスタント食品の容器が残っている他、台所には黒いゴミ袋がパンパンなまま転がってる上に、小さなバケツ型ゴミ箱は丸まったティッシュでこんもりだ。


 結果、その惨状を目の当たりにした真理那の第一声は「お邪魔します」といった入室の挨拶ではなく「よくこんな部屋に普通に人を招き入れたわね、恥ずかしくないの?」という含みがたっぷりの、


『……きたなっ』


 という短くも的確な、身体の芯まで冷え冷えとする一言だった。


 言ったら言ったで、実家のある九州から東京まで移動してきた疲れがあったはずの真理那は、「コレはしないとダメね」と呟きながら掃除を始めたのである。


 ドスンバタンとゴミや汚れ物を一旦ひとまとめにして玄関辺りに寄せたあと、掃除機をマックスパワーでかけまくり、気になるところは雑巾で拭きまくる。ココが隣人のいないボロアパートでなければ大迷惑な掃除タイムは、迅速かつ確実にオレの見慣れた景色をピカピカにしていった。


「いやー助かるわ、明日になったら掃除しようと思ってたとこでなぁ。でも軽くで十分だからそんな真剣にやらなくてもいいんだぞー」

「私が我慢できないだけだから。それに……こうしてると楽しくなってくるものよ」


「掃除がか? 変わってるな」

「そうでもないわ。誰だって部屋が綺麗になるのは気持ちがいいし……それから、こういうのも発見できるものね?」


 手伝うと邪魔になるとわかっているオレが綺麗になったリビングで小さく座っていると、真理那が雑誌を顔の前に広げてみせてくる。

 まさしく、人様に見せられないアダルトなページが満載のお宝――エロ本だった。


「こういう本をその辺に出しっぱなしにするのはいかがなものかしら」

「そう言いながらエロ本をパラパラめくってんなよJK」


 従姉妹JKに性癖チェックされてるようでソワソワしちゃうぞ。


 内外問わずに真面目な態度で生活してるであろう真理那が、見慣れてるはずもないエロ本を興味津々でめくってる様子なんて見たら同級生に激震が走るのではなかろうか。


「うっわ……巨乳ばっかりね。あ、でもこっちはちっちゃいわ。え、なに、もしかしなくても節操なしなの? こっちは姉物だし、あっちは妹物だし、金髪ギャルもあるし、それに制服着てるのもひとつやふたつじゃ……」

「真理那よ。大きいとか小さいとかな、そんなに大事なことじゃねえんだわ」

「じゃあ何が大事なの?」

「そりゃお前、やっぱエロかわいさと感度――――」

「………………はぁ?」


 三桁字数に匹敵する侮蔑がこもった「はぁ?」だな、おい。


 いとこ同士のトークとしてはとても他人に聞かせられない類のものだが、オレと真理那に限ってはこんなの大したことじゃない。日常茶飯事は言い過ぎだが、よく発生する定番話の一部みたいなもんだ。


 この従姉妹のヒエラルキーではオレは下の方らしく、生意気な態度を取られたことは一度や二度では足りない。別段疎ましいものでもないため、好きにさせているオレもオレではあるかもだが。

 ……無自覚なだけで実は真理那の敬いゼロの態度が癖になってたりしてな。ハッハッハッハ。


「捨てるなら紐でしばって玄関口にまとめるわよ」

「少し惜しいから適当に避けといてくれ。目に入るのが嫌なら押入れにでも押し込んどくからさ」

「まあ、あなたの物だから好きにすればいいけど……次に私の視界に入ったら部屋から消えてるかもね」


 やれやれといった感じでエロ本の山を抱えようとする真理那だったが、不意にその身体が前方へとよろけた。

 原因は本の持ちすぎ+躓きのコンボ。


「おい!?」


 ビックリしたオレは反射的に支えに行ったのだが、この反射的行動が次のアクシデントを招いた。よろけた真理那はコケそうになったもののすぐに体勢を立て直しており、オレが慌てて伸ばした腕やら慌てて近づいた身体が真理那の背面に衝突してしまう。


「ちょ、ちょっと!?」

「げ」 


 ドーン! と勢いよくぶつかったオレは前のめりに倒れ、相手ごとまとめて床に倒れていく。受け身をとりつつそのままゴロゴロと転がるオレ。なんとか真理那がどこかにぶつからないようガッチリガードしたつもりだったが……。

 何の悪戯か。

 伝わってきたのはむにむにぽよよんとした明らかに男にはない柔らかいふわふわな感触だった。


「ひャあ!?」

「いっだあ!?」

「なんばしよっとねこんばかちん!!」


 悲鳴と同時に暴れた真理那のエルボーがオレのテンプルにゴキン! 

 目の前にチカチカと星が飛んだ。くっそ痛い。


「どさくさに紛れて人の体を好きにしようなんてこんケダモン! どうせなら男らしく正々堂々正面からかかってくる方がまだ可愛げがあるがね! いくら私があんたに対して許容範囲が人一倍デカいゆうても限度があるわ! (小声で)そ、そりゃあ家出してきた私には身体で返す事しかできないゆうても、もうちょっと手順と雰囲気ってものがあるじゃろ(ぶつぶつぶつ)」

「誤解すんじゃねえ! オレは襲いかかろうとしたんじゃなくて、コケそうなお前を助けようとしたんだよ! だが偶然とはいえパーソナルスペースを限界突破したのは謝るすまん!!」


 土下座せん勢いで頭を下げるオレ。

 これで少しは反省の意が伝わったかと思いきや、じと目の真理那はいまいち信用ならないといったご様子のままだった――。



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