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参考文献とその使用説明

別に読まなくても生きていけます。

こういった資料ネタお好きな方や、理屈がお好きな方へ。


●史書

 ①春秋左氏伝

 孔子が書いたと言われる春秋経に左丘明が伝をつけたとされる史書です。設立は春秋時代のあと、戦国時代です。先秦時代であることは変わりません。

 春秋経は春秋時代の名前の元になった本であり、左氏伝、公羊伝、穀梁伝という三つの伝があります。それぞれ、孔子の短すぎる春秋経に各国史や注釈をつけてくれている本で、左氏伝はドラマ性歴史的な部分で最も一般化している本です。

 今回、史書にあるような『事件』とほぼ関わりないのですが、登場人物は史書を元にキャラクター化しています。名のないモブと昇天ガールズ以外は出典があります。夏に出てきた皐と冬に出てきた斉人も左伝準拠です。

 各人物の年齢を想定するためにも必須でした。生まれた時期が分からない彼らの登場年や、親や祖父の活躍時期からあやふやながらも決め打ちしてます。

 また、それなりに怪異などの出典でもありました。四凶の初出は左伝文公十八年で、政治的な説明の中に例え引用で出てきたもの。

 士匄が饕餮にマウントとれたのは、左伝でだらだら四凶のプロフィールが記載されてたためです。

 趙武の士会強火ファンエピソードもあります。士会の立派すぎるプライベートを外交の場で語り、楚や斉にも伝わりました。誰が……趙武に教えたのか。内容としては士匄より士燮のような気がします。趙武の政治志向は士燮と親和性が高く、影響を受けているのではと最近思い始めました。

 だいたいの時代の流れ、趙武の来歴の他、各人物の行く末を確認する以外はそこまで使ってません。あまり細かく入れ込むと、怪異譚の非日常性が失われるため、国家的な逸話は無視しました。

 地味に文言に使われている箇所もございます。

 左伝は約400年を一冊に凝縮した本です。もし、この時代に耽溺したい! という方がおられたらお薦め致します。翻訳は、物語として読むなら平凡社版、地図や系図、年表も見てみたいなら筑摩書房版です。手に入りやすいのは岩波文庫版ですが、完全に歴史書にふりきり、文章がクソすぎてお薦めできません。学者の文章って人に読ませる気がないよね、の見本のような本だと思いました。事実確認には便利。それぞれ誤訳がありますが、きっと気にならないと思います。

 また、漢文と書き下し文のみを読まれるなら、国会図書館デジタルコレクションにて、漢文叢書シリーズ(塚本哲三 編 有朋堂書店 出版)もおすすめです。

 中国哲學書電子化計劃は書き下し文が無いので私は国会図書館を利用してました。


 ②国語

 春秋時代の各国逸話を国ごとにおさめた本です。晋の逸話は『国語晋語』となります。

 趙武の成人式が記載されているありがたい本です。当時の公族大夫(もしくは卿の子)が成人時に卿に挨拶をして訓誡をもらっていた、という習慣を垣間見えます。

 国語全文があるのは新釈漢文体系版のみです。

 また、趙武の士会強火担エピソードが有名です。

 この士会強火担褒め讃えエピソードは『死んだ人が生き返って連れ帰るなら誰が良い?』と趙武が聞き、部下の出した人物を全否定したあと『士会に決まっているじゃないですか!』とモラハラ強要するものです。とても好きなのですが、ひっでえwwwwて草どころかターフ生えて府中東京競馬場って感じです。趙武は何を求めていたのか。

 士匄の性格を表すエピソードも多く、韓無忌の諡号も国語にあります。

 文言に使いませんでしたが、サブタイトルで2度ほどセリフを使ってます。

 この国語は他の国のエピソードもとてもおもしろく、逸話集として読めます。春秋左氏伝より少しプライベートな内容が多い気がします。

 国語の成立はやはり戦国期のようで、左伝と同じ作者が書いたと言われてます。

 新釈漢文体系はかなり原文、書き下し文、翻訳、注釈、説話などが入っておりかなり本格的なシリーズですので、いきなり読むと目が泳ぐかもしれません。しかし、書いていることはおもしろく、時々ツッコミどころ満載なので、漢字の奔流がいっそ楽しい方ならお薦めです。


 ③史記 世家

 一般的に有名な司馬遷の史記です。

 趙武の父が族滅され、程嬰に匿われたこと、成人式の日に程嬰が自殺したことは史記のみにあります。内容はあまりに演劇のようであり、これが本当にあったとは、個人的に受け入れられません。唐突に出てくる『屠岸賈』の描写は漢代以降に好まれる『佞臣』の類型すぎます。

 しかし、左伝でいつのまにか趙朔が故人になっていることや、屠岸賈はいなくても屠氏は存在しており、何かしら近いことがあったのでしょう。そのあたり、作品にしたいと思ってます。

 どちらにせよ、史記による春秋時代の描写はある程度でしか参考にできません。

 司馬遷は紀元前100年前後に史記を書いています。私の取り扱い時期は紀元前630年から590年くらいです。ざっと500年後です。私たちが中世戦国時代の歴史書を書くようなものです。

 ただ、司馬遷は各地をフィールドワークして逸話を収集し、始皇帝の焚書やその後の紛争を生き残った書を参考にして、緻密で名文な史記を書いたと思います、すごいです、執念です、屈辱的な宮刑を受けても自決を選ばず史記を取った司馬遷の執念すごいです。筑摩文庫版。


 ④山海経

 これを史書としていいか、人によって分かれますが、今回、当時の地誌として扱ったので、史書とします。平凡社ライブラリーで『山海経 中国古代の神話世界』となるべくキャッチーにしようという努力のタイトルになってます。

 北山の神、狍鴞と鉤吾の山、犰狳はこの本が出典です。

 記載していることも距離も何もかもがデタラメの迷信めいた本とされています。しかし、伺い知れるルールも垣間見えます。

 山経は中原からみた異界ですが、しかし彼らの文明圏であると思われます。人づてにこと、そして渡り歩く巫女や巫覡の言葉だったのではないか、というものです。

 海経は彼らの文明圏の外、いわば『外国の蛮人たちの姿』です。山と海の描写を見ていると成立の違いを感じます。それがまとめられて山海経となったのではないでしょうか。

 今回、使うに当たって北山の山々それぞれ特産物と川の方向、距離を書き出しました。摩訶不思議な動物たちは無視して、です。面白いことに、川はたいがい西へ流れてました。北山には太行の名前もあり、太行山脈と無関係ではないでしょう。また、黄河の河曲の東に位置していたと考えれば、晋の領域北部にあったのではないかと、推測しました。距離はもうありえない長さになります。特産物にニラやニンニクが見受けられ、この中華を代表する香味野菜はこの時期、野生のものを採取していたのではないでしょうか。この書き出しはほとんど作品に使われてませんが、立体的な理解につながった気がします。


●演出補助

 ①書経

 いわゆる、虞書、夏書、商書、周書、をひとつの書物にしたものです。公族大夫のお勉強に活躍しておりますね。春の初手書経に関してはマジ申し訳ないと思い、なんども文章を削るか簡略化することを考えたのですが、彼らの世界観と日常を消すことできず垂れ流してます。

 また、文言に使うこともあればサブタイトルにも使いました。左伝より活躍しましたし、調べている方も楽しかったです。

 これらは思想書ではなく、左伝より古い時代の記録書というていです。本当にこんなことを記録していたかはわかりませんが、現代人からすれば一種の国家物語として読めるので、古代の息吹を感じたい方は手に取るのもよいかもです。

 使ったのは筑摩書房版。


 ②詩経国風

 春秋時代の詩集です。これも各国ごとになっており、『衛風』『唐風』(晋のこと)のように分かれております。国ごとに特色も違い、秦はやはりちょっと素朴ですね。晋は色っぽさないです。軍事国家はこれだから。春秋左氏伝内でも引用されて会話に使われております。その時、皆、自国以外の詩も平気で使うんですね。あの時代の貴族、各国の詩を全部覚えているんだぜ……やべえ。

 作品内では時折口に出してますが、なんといってもサブタイトルで大活躍しています。秋はすべて詩経から恋愛詩をメインに使いました。ザッピングだけで死にかけました。

 使ったのは筑摩書房版です。


 ③漢語林

 高校生のときに必須で買ったやつ。お前がいないと俺は生きていけない。暇なときに適当にページ開くだけで幸せにしてくれる。あと、父の仇〜完結記念に自分へのご褒美で漢辞海も買いましたので2つを比較しながら漢字などの意味合いが作品に関わる時に使ってました。

 欒黶の諱、黶は見慣れない文字ですが、ほくろの意味です。どこか目立ったところにほくろがあったのでしょう。こういう名付けの仕方は左伝にも見受けられます。

 が。

 匄は欲する乞う、から転じて乞食の意味もあります。ナンダコレ!? 古代の諱のつけかたルールは現代人にはわからないのであまり考えないようにしてます。


 ④中国古典名言事典

 春秋時代から近世にいたるまで、とにかく古典の明言を集めた辞典、講談社学術文庫。基本的には『あ~いい言い回し無いかな! ちょっと教えてよ!』という時に使っているのですが、今回は字引です。サブタイトル字引でした


●参考資料

 ①諸子百家の事典(江連 隆)大修館書店

 春秋戦国時代の華、諸子百家を一つに集めて調べることのできる事典で、諸子百家総合本としては抜きん出ています。

 今作では、八卦、五行、陰陽の考え方や発想などを大変参考にしました、功労賞です。諸子百家が花開いたのは戦国期なので思想そのものや言葉のほとんどは使えないのですが、春秋時代からある発想を噛み砕くため、なにより私が、苦手とする印象学に慣れるため、大変お世話になりました。

 本そのものは、諸子百家入門書の最上級でありながら、各思想を俯瞰的に比較できるすぐれものです。

 私の愛読書でもあります。論語、孟子、荀子、墨子、荘子、韓非子、孫子、孫臏兵法くらいしか持ってないので、他の思想をざっと確認したい時に便利だし、百家だけでなく各諸子の説明もありますし、なにより面白い楽しい面白い。中国史は諸子百家が入口なのですがこういった『道案内本』は本当に貴重です。


 ②中国社会風俗史(尚秉和/秋田成明訳)東洋文庫

 相変わらずの功労賞。礼の作法、食事の作法、人が死んだ時の作法、とにかく困ったときはコレ! でした。登場人物は小説の中で生きているわけですから、生活があります。なるべくプライベートは書かないようにしておりましたが、どうしても生活というもの、その時の作法を書かないといけません。わからなくてもそれっぽく書かないといけません!! そのような時にこれ。そのものじゃなくても近いものを参考にする、そのものもある! お酒の飲み方などもこちらでしたよ。


 ③貝塚茂樹著作集

 東洋学、古代中国や通史含めた研究家、貝塚教授の著作集のうち『中国の古代国家』と『中国古代の伝承』(中国の神話)と『中国古代の精神』を使用。

 この作品を作る前に著作集にある中国の神話が文庫になったので、使いやすいこちらも利用。人懐こい山神、人に冷厳な天。通常の著作集でも贄の考え方など、祭祀的な考え方を様々に参考にいたしました。

 私がこの時代に興味を持って初めて読んだ一般向け専門書が貝塚教授の『中国文明の歴史2春秋戦国』だったため、刷り込み雛のように参考にしています。貝塚教授のファンだから著作集全十巻を買いました。死んだ後は図書館に寄贈するよう遺言書作らなあかんなあ。

 ちなみに貝塚教授は京大教授でしたが、父親の小川琢治も京大教授です。貝塚教授のお兄さんは東大教授で、すぐ下の弟二人は京大教授。そのうち一人はノーベル物理学賞をとった湯川秀樹です。やべえ一族っす。


 ③中国古代の生活史(林巳奈夫)吉川弘文館

 主に墓、家などを書くときに参考にしました。が、他にもめっちゃあるんです、発掘品を元に天下の林先生が丁寧に説明してくれている良書。うっかり読みふけらないようにするため、調べること以外は読み返さないようにしました。あとあんまり参考にしてしまうと小説内で一部だけ浮き上がるように詳細な情報になりかねないな、という。


 ④金文の世界(白川静)東洋文庫

 漢字に祭祀の意味があるというアプローチで有名な白川静の金文にある文字を延々説明した本。

 冬の道祖への祀りを参考にしました。こういった、祭祀系ではトップで、当時の民俗学的な発想の足しにしてます。ただ、私は先に貝塚発想に触れてしまっており、補佐的に使いました。

 漢字が好きな人は読むのがいい。言葉は力があり、文字はその源です。そんな思いが強くなります。物体だけではなく行動や味、心の動きまでひとつの文字にしていった民族はなかなかいないのではないでしょうか。


 ⑤中国の神獣・悪鬼たち: 山海経の世界(伊藤清司)東方選書

 山海経の資料といえばこれです。山海経がどのような位置で、異界の動物たちはなんだったのか、というものを学術的でありながら一般人向けに記載されてます。

 どの動物を出してどの厄災にするか、複数出すか。冬の章を考えていたときにだいぶ読み込みました。

 日本で流布している山海経は前述の平凡社ライブラリーですが、翻訳だけを書いているので、この本はなんなんだ!? という混乱するあなたにオススメ。

 龍や麒麟など、人にとって都合の良い飼い慣らされた瑞獣以前を楽しめる入門書です。


 ⑥科研シンポジウム「古代中国の祥瑞文化と図像」

 このタイミングでシンポジウムあ゙り゙がどゔ〜〜濁音感謝声。

 2023年12月17日、朝日杯フューチュリティステークスと同日に開催されたシンポジウムです。競馬場にWiFiあって良かったな!!

 この講座では、五行と麒麟、梟、井戸、白鐸の四点でした。特に墓と関連した梟と、井戸(日常であり異界への穴)は資料としても考え方としても、大変助かりました。冬の章の助けになりました。

 今年は国際シンポジウムらしいです。ネットでの視聴ですし、日程はまだわかりませんが丸一日お時間あればぜひに。瑞祥文化を特化して研究しているというのも、なかなか素晴らしいです。なぜなら、日常に最も近い非日常です。


 ⑦中国人の宗教(マルセル・グラネ/栗本一男訳)東洋文庫

 欧州中国研究といえばフランス。と思ってる。東アジア圏の洗礼を浴びていない研究家なので、儒学思想などの臭みがなく、新鮮な発見もあります。この時代の精神的なイメージや、住居や貴族の参考にしました。天地の考え方、祖霊の位置なども補佐的に参考にしてます。ただ、東アジア圏の方ではないので、近世にある宗教と古代の別のものが何故か繋がっていたりしていて、惜しい! とはなります。これは感覚なのでしかたなし。


 ⑧バッタの大発生の謎と生態(田中誠二 他)北隆館 

 蝗害について調べるため、延々読みました。蝗害は日照りとセットでして、日照りで草の群生地が減り、常は単体で生きてるバッタが群生となった時に、変化してしまうものです。色味などが変わり、体に毒性も帯びてしまうそうで。

 山海経には日照りの動物もいて、これも出そうかと話を考えましたが、蝗害、狂った道祖神ときて日照りとくると季節も合わずとっ散らかってしまうのでやめました。

 実際の蝗害の様子も動画がありますので、参考にしました。いまだ、例えばアフリカには蝗害もあれば住血吸虫症もあります。古代の猛威はまだ世界中で現役です。


 ⑨ギリシア宗教発展の五段階(ギルバート・マレー著 藤田健治翻訳)岩波文庫 

 ヘルメスが原始宗教時代では道祖神であり、その無機質な境界神の権能や性格を詳細に述べているため、その部分を参考にしました。東アジア古代の道祖神そのものについての言及が少なかったのと、本質的な役割は同じものだと思われたため、当たらずとも遠からずだとは思います。

 原始的なギリシア宗教からホメロスによる擬人化を経て私たちも知るギリシア神話になる過程などを述べた本を翻訳した………極めて難解な本。昔の人が書いているので、神々の名がギリシア発音直輸入であり、例えばゼウスはヅェゥスである。また、学者の直訳なので何が言いたいのかわからないことしばしば。日本語として通じない。私も読了できてません。


 ⑩竹書紀年(中国哲學書電子化計劃)

 春秋戦国時代、魏の史書と言われる本で、逸書です。断片的に他の本への写しがあるため、一部が残っています。

 晋の市の真ん中で兎が踊っていた、青い虹が出たなどが記録されており、こういった『現代では与太だけど当時にとっては真面目な事実』を史書の人物と絡めて書きたいと思ったきっかけでした。


 士匄の文言で大活躍の易経は、六十四卦のサイトを大量に参考にしました。印象学のプロフェッショナルの説明が一番必要だったのですが、本だと『読者への占い』が多いため、データベースとしてサイトを頼りました。新釈漢文大系の易経だと、読み物として面白いですが、字引として活用に時間がかかると判断しました。普通に読みたいですね。


 他にも細々ありますが、代表的なものを。バッタの本はさすがに買いましたが、他の本は手持ちです。過去の自分の道楽に生かされている。

 お付き合いありがとうございました。


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