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最終話『日常が一番です!』

 密猟者たちを撃退してから数日後。銀狼さんの容態はすっかり安定した。

 ……まさか、6発もの銃弾が体内に残っているとは思いませんでしたが。

 それだけの銃撃を受けても命に別状がないというのは、まさに森の主としての……いえ、ここは家族への愛ということにしておきましょう。

 傷の影響もあって、今の銀狼さんは人の姿になれず、家に入れない。それでも、私とティアナはできるだけ一緒に過ごすようにしていた。


「お父さん、もふもふー」

「もふもふですねー」

「あまり抱きつかれると、傷口が開きそうで怖いのだが」

「治療をしたのは私ですよ? 傷口の場所は把握していますので、大丈夫なところを選んで抱きついています」

「それはそうかもしれないが、不安であることに変わりはない。我を愛でている時、お前たちは揃って夢中になるからな」


 彼はため息まじりに言って、その体毛に顔をうずめているティアナを見る。


「ひとつ、気になっていたのだが……お前たちは今の我と人の姿の我、どちらが好きなのだ」


 今の銀狼さんは筆談ができないので、私はそのままをティアナに伝えたあと、二人で顔を見合わせる。


「……かっこいいのもいいけど、もふもふも好き」

「そうですね。人の姿もいいですが、もふもふも捨てがたいです」

「お前たちの判断基準が、我にはよくわからん」


 少し考えてからそう伝えると、銀狼さんは呆れたような声を出した。


「でも、また一緒に勉強したいから、早く良くなってね」


 もう一度銀色の体毛の中に顔をうずめながら、ティアナは言った。

 ようやく戻ってきた家族の時間を噛みしめつつ、私は水筒の水を口に含む。


「そうだな。早く傷を治して、新婚旅行に行きたいものだ」

「えっふ、げほごほ」


 その言葉を聞いた私は、飲んでいた水を吹き出してしまった。


「……お父さん、なんて言ったの?」

「ティアナにはまだ早いです」

「結婚して最初に行く泊りがけの旅行は、新婚旅行というのだろう。あの本に書いていたぞ」


 あの本……とは、間違いなく『新婚生活大全』のことだろう。

 ティアナと一緒に勉強したおかげで、ある程度の文字が読めるようになったと聞いてはいましたが、いつの間にか読み進めていたようです。


「い、以前、一緒に山の向こうの街へ行きましたが」

「あれは買い出しだろう。夜には森に戻ったので、同じベッドで一夜を過ごしてはいない」

「待ってください。すでに私たちには娘がいます」

「一緒に行けば楽しいではないか。いや、その場合は家族旅行になるのか?」

「そ、そそそうです。それはもう、家族旅行です」

「ねー、お父さん、なんて言ってるの? さっきから、二人だけで会話してずるい」

「怪我が治ったら、一緒に家族旅行に行きましょうって」

「旅行? やったー。楽しみー」


 心底嬉しそうな笑みを浮かべて、ティアナは父に抱きつく。

 私も彼も、そんな娘の様子を愛おしい気持ちで見守っていた。


 ――銀狼の森での穏やかな日々は、これからも続いていく。




                          銀狼の花嫁・第一部・完

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