「ゴ、ゴローさん、その傷はどうしたのですか!?」
「オ、オイラにもよくわかんないんですわ。森の中で栗を集めていたら、突然人間から黒っぽい筒を向けられて……気がついたら、肩から血が」
膝をつきながら、ゴローさんが教えてくれる。
その話から察するに、彼は銃で撃たれたらしい。この傷でよく、ここまで逃げ帰ってきたものだ。
「わ、私は家に医療器具を取りに戻ります。銀狼さんとティアナは、小川で水を汲んできてください!」
呆気にとられている二人にそう指示を出すと、私は家に向かって駆け出した。
それから道具を手に花畑へと戻ると、すぐさま治療を開始する。
幸いなことに、銃弾はゴローさんの肩を貫通しているようで、銃弾摘出の必要はなかった。
けれど、酷い怪我であることに変わりはない。速やかに止血処理を行い、包帯を巻く。
「ゴローさんや、大丈夫かい?」
「いったい何があったんだ?」
一連の処置が終わる頃になると、噂を聞きつけたのか、森の動物たちが集まってくる。
「コルネリアよ。ゴローはまさか、以前の我と同じ武器で攻撃されたのではないか?」
騒ぎが大きくなっていくのを見て、銀狼さんが険しい表情で私に尋ねる。
「考えたくはないですが……おそらく、そうでしょう」
「武器……ってことは、あの村の連中ですかい?」
多少痛みが引いたのか、ゴローさんが体を起こして村のある方角を見る。
「い、いえいえ。猟期は終わっていますし、そもそも、手入れや銃弾の確保が大変な銃を使う人は村にはいません。もっぱら、弓矢です」
あらぬ誤解を与えそうだったので、私は慌ててそう説明する。彼らは納得してくれた。
「コルお母さん、じゅう……って何?」
その時、ティアナが私の服を引っ張りながら聞いてきた。
「銃というのは、火薬の力で弾を飛ばして攻撃する武器です。私も本でしか見たことがないのですが、このように構えて使うもののようです」
そう口にしながら、私はその辺に落ちていた木の枝を持ち上げ、それっぽく構えて見せる。
「ああっ、それですわ! オイラを狙っていたのは!」
そんな私の恰好を見たゴローさんが、驚きの声を上げた。
加えて発射時に大きな音がすることを伝えると、ますます納得していた。やはり、彼を攻撃した武器は銃で間違いなさそうだった。
「しかし、あの村の者でないとすると、誰がゴローを襲ったのだ?」
「おそらく、密猟者でしょう」
この森は周囲を山に囲まれているが、外から人がやって来ないことはない。
現に銀狼さんは一度襲われているし、銀狼の森……なんて呼ばれているものだから、腕試しにやってくる密猟者がいるかもしれない。
「じゃあ、俺たちもいつゴローのように攻撃されるかわかんないってことか?」
「そ、そんなの嫌だよ。せっかく猟期を耐え凌いだってのにさ」
集まっていた動物たちが口々に言い、周囲に不安が広がっていく。
「お前たち、落ち着け」
その時、本来の姿に戻った銀狼さんが、よく通る声で言った。
するとそれまでの騒ぎが嘘のように、その場が静まり返る。
「その密猟者どもは、我がなんとかする。お前たちは安全が確保できるまで、再び森の中に隠れるがいい」
有無を言わさぬ、凛とした声で彼は続けた。
その迫力に気圧されたのか、動物たちはそれぞれ顔を見合わせたあと、森の中へと戻っていった。
「……それで、銀狼さんは本当にその密猟者たちを探しに行くのですか?」
やがて誰もいなくなった頃を見計らって、私はそう尋ねる。
「当然だ。ここは我の森。村の者ならともかく、よそ者に好き放題させてなるものか」
すると彼は、普段とは全く違った目つきでそう言い放った。
住処である森を荒らされ、怒っているようだ。
「銀狼さん、お気持ちはわかりますが、銃は危険です」
「我は一度その武器を見ている。弾は早いが、一直線にしか飛んで来なかった。次は当たらぬ」
「確かに、銀狼さんの動きなら銃弾を避けることも可能かもしれませんが……密猟者は一人とは限りません。むしろ、複数人いると考えるべきです」
「それならば、全員倒すまでだ」
彼が苛立ちを隠さずにそう口にした時、森のどこからか銃声が聞こえた。
「やはり、この音がそうなのだな。お前たちは小屋に隠れているといい。あそこは我の力で守られていて、安全だ」
そう言い残すと、銀狼さんは目にも留まらぬ速さで森の中へ消えていった。
私とティアナは、そんな彼の背をただ見つめることしかできなかった。