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第18話『家族の時間です!?』後編

 そして、その日の午後。

 予定通り、ゴローさんに教えてもらった花畑へと足を運ぶ。


「わー、すごーい!」


 小川へ向かう獣道を少し逸れると、彼が言っていた通り、日当たりのいい場所があった。

 そこ一面に、無数の黄色い花が咲き誇っていた。


「……これはすごいですね。全部、リックの花じゃないですか」


 小走りに花畑へ飛び込んでいくティアナの背を見ながら、思わずため息が漏れる。

 これは私の家名であるヘンドリックの由来にもなっている花で、村の中ではめったに咲いていない。それが、こんなにたくさんあるなんて。


「コルお母さん、これで冠作れる?」

「冠……花の冠ですか? 作れるとは思いますが」


 リックの花の茎はシロツメクサに似ていて丈夫なので、編むのは可能だと思う。

 ただ、数が少ない花なので、私も実際に作ったことはなかった。


「じゃあ、手伝ってー」


 すでに何本かの花を手にしたティアナからせがまれ、私は花畑の中に座り込んで花の冠を作り始める。

 花冠を作るなんて、小さい頃に母とやって以来だった。

 まず、リックの花を二本束ねて芯を作り、茎が上にくるように巻きつける……。

 その工程を思い出しながら、ティアナと一緒に花の冠を作っていく。


「あ、折れちゃった……むずかしい」

「少し時間を置いたほうがいいかもしれませんね。そうしたら、折れなくなります」

「……楽しそうなのはいいことだが、この花、食べられはしないのだろう? 無意味ではないのか?」


 一方の銀狼さんはあまり興味がないのか、私とティアナが作業するのを隣に座って眺めていた。


「確かに食べられはしませんが、決して無意味ではありませんよ。これはいわゆる、家族の時間です」

「家族の?」

「そうです。家族の愛情を育むには、このような時間も必要なのです」


 かくいう私も、かつて母から教わったことをそのまま伝えているだけなのですが。


「というわけで、銀狼さんも一緒にやりましょう。こうして、こうです」

「こうか……? むう、千切れた」

「銀狼さん、力入れすぎー」

「本当ですよ。これだから男の人は」

「あ、案外難しいものだな……」


 ……そんなふうに四苦八苦しつつも、私たちは三人で力を合わせて、花の冠を完成させる。


「やったー! できたー!」


 ティアナはできあがったそれを、嬉しそうに頭上高くへと掲げた。


「花を編みこむだけで、立派な冠ができるものだな」

「はい、銀狼さん!」


 そしてその冠を、精一杯背伸びをして銀狼さんの頭へと載せた。


「……これを、我に? 自分で被ればいいのではないか?」


 少し驚いた顔でそう言った銀狼さんの言葉を、そのままティアナに伝える。


「森の主さんだから、王冠は必要だよー」


 すると満面の笑みを浮かべながら、ティアナは言った。

 そんな彼女の言葉に、私は胸の奥がとても温かくなった。

 ……彼女が知っているかはわかりませんが、リックの花の花言葉は『家族の絆』なのです。

 私たちはここで改めて家族になれたような、そんな気がした。


  ◇


 ……その後は暖かな午後の日差しを浴びながら、元の姿になった銀狼さんと三人で穏やかな時間を過ごす。


「銀狼さん、もふもふー」

「もふもふですねー」


 私とティアナは、左右から銀狼さんを挟むように抱きついている。


「コルネリアよ、これも先程言っていた、家族の時間なのか?」

「そうです。家族の時間に、もふもふは大事です」

「大事なの!」

「お前たち、似たもの同士だな。こうなると我は動けぬのだが」

「動かなくていいのです。父親は、家族との時間を大切にするものです」

「そんなものなのか?」

「そうです。動物の父親は育児に関わらない場合もありますが、人間は違います。妻や子どもは、命に変えても守るべきです」

「命に変えても……か。わかった。肝に銘じておこう」


 半分まどろみながら、そんな会話をする。

 風は心地よく、リックの花のかすかな香りが鼻孔をくすぐる。このまま眠ってしまいそうだった。


「……せ、先生さん! よかった! まだここにいてくれましたか!」


 その時、聞き知った野太い声がした。

 けれど、その声はどこか苦しそうだった。

 ただならぬ気配を感じて体を起こしてみると、そこには肩を血に染めたゴローさんが必死の形相で立っていた。



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