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第2話『早くも物語終了です!?』

「……その姿、まさか花嫁か?」

「は、はひっ!?」


 目の前の銀狼さんは私をひと睨みしたあと、そう言葉を紡ぐ。


「え、えっと、初めまして。私、このたび銀狼さんの花嫁に選ばれました、コルネリアと申します……」

「やはり……また来たのか」


 その禍々しい姿に恐れおののきつつ、花嫁であることを伝えると……彼はうんざりした声を出した。


「いやその、また来たのかと言われましても……」

「む? 人間の娘よ、お前は我の言葉がわかるのか?」

「え? あー、はい。わかります。生まれつきの能力で……その、すみません」


 その見た目に圧倒され、思わず謝ってしまう。


「なら都合がいい。娘よ、我は人を食べんと村の者に伝えろ。お前も立ち去れ」


 立ち去れと言われましても、私は村を追い出された身。行くあてなどないのですが。

 そう考えながら、去っていく彼を見つめるも……その足取りが悪いことに気がついた。

 よく見ると、右の後ろ足から血が流れていた。


「あの、銀狼さん、その足はどうされたのですか?」

「……我も分からん。突然、音とともに痛みが走ったのだ。弓矢と思いきや、抜こうにも軸も羽根も見当たらぬ」


 銀狼さんは自らの後ろ足を見ながらそう言った。

 その言い方から察するに、どうやら猟銃による攻撃を受けたようだ。

 手入れや銃弾の確保が大変という理由で、村で銃を使う者はいません。となると、密猟者でしょうか。


「よろしければその傷、診ましょうか? 私、こう見えて獣医なのです」


 わずかに震える声で言って、手にしていたバスケットを開く。その中にはわずかな食料と一緒に、医療器具が入っていた。

 これは花嫁道具……というわけではないのだけど、持ち出しを許可された私物の一つだ。

 母の形見でもあるし、無事に森を抜けられた場合、獣医を続けるために必要不可欠なものでもある。


「治療……それは構わぬが、お前は我が怖くはないのか」

「めちゃくちゃ怖いですよ。ですが、怪我をしている動物を見ると、助けずにはいられないのです」


 そう説明しながら、銀狼さんにゆっくりと近づいていく。彼も私の意図を察したのか、地面に体を預けて横になってくれる。


「そ、それでは失礼します」


 一言断ってから、彼の右後ろ足上腕の傷を見てみると……それは明らかに銃創だった。

 銃による傷は見たことがありますが、貫通した様子もないし、体内に銃弾が残っている可能性が高い。まずはそれを取り出さないと。


「銃弾を摘出します。少し痛いですよ」

「ぐうっ……」


 傷口に躊躇なく器具を差し込むと、銀狼さんはうめき声をあげる。


「ちょっとくらい我慢してください。それでも森の王ですか」

「も、森の王でも、痛いものは痛いのだ」


 予想以上に情けない声に、私は拍子抜けしながら作業を続ける。


「残念ながら麻酔はないのです。もう少しですので……ありました! えい!」

「ぐおっ……」


 やがて見つけた鉛色の銃弾を力任せに取り出すと、彼は再び叫び声をあげた。

 銀狼さんの足の筋肉が硬いのか、銃弾は比較的浅い場所で見つけることができ、私は一安心だった。


  ◇


 ……それから止血処置をし、包帯を巻いて治療は完了。

 その頃になると銀狼さんも痛みが引いてきたのか、深いため息とともに脱力していた。


「おかげで助かった。礼を言う」

「いえいえ。私が勝手にしたことですから」


 相槌を打ちながら手早く道具を片付けると、私は立ち上がる。


「娘よ、村に戻るのか?」

「いえ。銀狼の花嫁になったということは、村から追い出されるということですから。帰る場所もないので、山を越えて別の街に行こうかと」

「……その身一つであの山を越えるというのか? さすがに無謀だろう」


 ゆっくりと体を起こした銀狼さんが、木々の間から見える山を見上げながら言った。


「無謀と言われましても、このまま森にいても野垂れ死ぬだけですので」

「この怪我が治れば、山の向こうまで送ってやれる。しばらく我とともに暮らさぬか?」

「はい!?」


 続いて彼の口から出た予想外の言葉に、私は耳を疑った。


「我はお前が気に入った。それこそ、夫婦めおとになろうではないか」

「め、めおと!?」


 銀狼さんの口から飛び出した予想外な単語に、これまた大きな声が出てしまう。


「そうだ。お前は村の習わしで、我の花嫁になるべくこの森へ来たのだろう?」

「そ、それはまぁ、そうですが……」


 思わず視線をそらし、私は口ごもる。

 ……怪我の治療をしただけで、この展開は予想していませんでした。彼、本気なのでしょうか。


「なら、良いではないか。何が問題なのだ」

「いやいや、問題ありまくりですよ。人と狼は夫婦にはなれません」

「……ふむ。つまり我が、人の姿になればいいというわけだな」

「は? なんですか?」


 思わず聞き返した直後、銀狼さんの巨体が淡い光に包まれた。

 やがてその光が収まると、そこには一人の男性が立っていた。


 ……生まれたままの姿で。


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