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23. 姫は後輩ちゃんと『共に』決意する

23. 姫は後輩ちゃんと『共に』決意する




 サムネも無事に完成し、いよいよ配信前日になった。サムネは『姫宮ましろ』のTwitterで重大発表!と絵はぼかして公開し、たくさんの反応を頂いている。


 今日は事務所で最終の打ち合わせがあるので、桃姉さんと鈴町さんと共に向かうことにした。実は今日は社長と会うことになっている。事務所初のユニット『ましのん』にどれだけ期待値が高いのかを実感させられるな。


 鈴町さんはいつも以上に借りてきた猫みたいに大人しくなっていた。事務所に着くと、桃姉さんと別れて会議室に向かう。扉を開けるとそこには既に事務所の代表取締役である星乃社長がいた。相変わらずお綺麗だ。


「おはよう。弟くん。鈴町さん。」


「おはようございます」


「おおお……おはよ……ござい……ます」


「そんなに緊張しないでいいわよ。楽にしなさい」


 そう言われても……鈴町さんにはハードルが高すぎるだろうな。オレたちは席についてまずは軽く挨拶を交わした。鈴町さんはいつもより緊張していて顔が強張っている。オレがフォローしないと……今は『姫宮ましろ』だけど、一応『双葉かのん』のマネージャーでもあるわけだし。


「いよいよ明日ね。プレッシャーをかけるわけじゃないけど、このユニット発表は会社の未来を大きく左右することになるわ」


「はい」


「は……はぃ……」


「数あるカップリングの中から、あなたたちを選んだのは実は私なのよ。だからあなたたちの意思を知りたいわ」


 そう言って社長はオレたちのことをジッと見つめていた。そして社長はオレたちに語り始めた。


「私たちVtuberはただの配信をやってお金を稼いでいるわけではないの。確かに企業に所属しているVtuberは企業の利益のために活動するのが仕事かもしれないわ。でもね第一に自分が楽しむ。そしてファンの人たちを喜ばせるために活動していく必要があるの。その覚悟はある?」


 それはオレも鈴町さんもわかっていることだ。でも改めて言われると……なんというか胸にグッとくるものがあるな。すると社長の表情が少し緩んだように見えた。


 デビューした時、正直オレはあまり乗り気ではなかった。でも鈴町さんを見ていて思ったんだ。オレはこの子と共にトップVtuberになりたいと。いやなってみせると。


 だから……


「オレは……このFmすたーらいぶ……いやVtuberのトップに立ってみせます。そう思わせてくれたのは1人のオレのファン……そのファンのためにもオレは『姫宮ましろ』のことを誇りに思っています」


「私も……『双葉かのん』として精一杯頑張りたい……と思います……ましろん先輩と一緒に……」


 オレと鈴町さんの言葉を聞いて、社長は笑顔を浮かべていた。


「ふふっ。そう……あなたたちを選んで良かったわ。期待してるわよ。頑張りなさい。事務所としてもバックアップは惜しまないから安心してちょうだい。あとはあなたたちがどこまでいけるか見せてもらうわよ」


 社長は優しく微笑んでいた。その笑みはどこか嬉しそうな感じにも見えた。会議室を後にして、桃姉さんを事務所の入り口で待っていると1人の少女に話しかけられる。


「ごきげんよう」


 その少女は薄桃色の髪で制服を着ている。身長は低いけど、良く見たら有名なお嬢様高等学校の制服だった。ということは高校生か?すると彼女は鈴町さんの目の前まで近寄ってきた。


「お久しぶりです。えっと……双葉かのんさん?」


「あ。えっ……あっ……」


 すごく挙動不審な鈴町さん。知り合いなのか? 鈴町さんは助けを求めるようにオレの方を見てくるが、さすがにこれはどうしようもない。だがそこに救世主が現れた。桃姉さんだ。桃姉さんもこちらに気付いたようで駆け足で向かってきた。


「あら。こんにちはソフィアちゃん」


「桃さんごきげんよう」


「あっ紹介するわね。この子はFmすたーらいぶ3期生の葉桐ソフィアちゃん。この男の人は私の弟で……かのんちゃんのマネージャーの神崎颯太よ」


 やっぱり3期生か。鈴町さんは未だにオドオドしている。まさかこんなところで会うとは思ってなかったから仕方ないな。というより言ってほしいんだが鈴町さん……


「ふーん……マネージャーさん……ねぇ……」


「どうも。神崎颯太です。よろしく。ソフィアちゃん」


 オレは手を差し出すと、その手をじっと見つめながら握ってくれた。なんだか不思議と違和感を感じたが、きっと初対面だからだろうな。

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