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4. 姫は『火種』を消すようです

4. 姫は『火種』を消すようです



 あれから一週間がたった。オレはいつものように雑談配信をしたりと忙しい日々を過ごしていた。ただひとつ変わったことは……『双葉かのん』の配信を観るようになったことだ。そして今日は、桃姉さんと家で打ち合わせをしていた。


「それじゃあ、このスケジュールでいくわね」


「ああ」


「それにしても、こんなに雑談配信ばかりでいいの?他のライバーさんは配信企画やったり、イベントしたりしてるのに」


「別に問題ないだろ。元々、雑談メインの配信でここまでやってきてるんだし。オレはオレのやり方でゆるくやっていくよ」


 Vtuberの収益は大きく分けて2つある。


 1つは企業案件による広告収入。これはVtuberのチャンネル登録者数に応じて支払われる。もう1つが投げ銭によって得られる収益だ。


 そのためにどうするかというのがオレたちライバーに求められていることだ。


 チャンネル登録者を増やすために配信時間を長くしてる人もいるし、積極的なコラボをしている人もいる。あとはオレのような決まった時間にきちんと配信をする人もいる。つまり視聴者のニーズに合った戦略が必要だし、得意な配信内容も人それぞれだ。


 オレの場合は、その時々の話題に合わせた話をしているのがメインだ。たまにゲームをして、雑談しながらリスナーと交流を図る。そんな感じだ。だから、特に問題はないし、これが一番自分に合っていると思っている。


「あのさ颯太。大事な話があるんだけど」


「大事な話?」


「……また最近公式アカウントに『姫宮ましろ』の「中身が何人もいる」とか「中身が男なのでは」とか変な噂が一人歩きしているみたいなの」


「まぁその話題は昔からあるけどな」


「でも今回は人気も立場も違う。『姫宮ましろ』はうちの事務所でもトップクラスのVtuberだし、会社としてはここで火消ししないとまずいって話になっててさ……」


 確かにそれは困ったものだ。炎上する前に何とかしないとな……つまり、オレが男じゃないと思わせればいいと言うことだよな。


 そんな時、『双葉かのん』こと鈴町彩芽さんが頭に浮かんできた。彼女ならオレの正体を知っているし、『姫宮ましろ』のことを推してくれている。これは賭けだがこれしかないよな。


「桃姉さん。3期生の『双葉かのん』とオフコラボするのはどう思う?」


「え?」


『オフコラボ』とは、その名の通りVtuber同士が実際に会いに行き、コラボ配信することを指し、大体お泊まりが定番化されている。オレは男だから今までは絶対にやらなかったが、こうなったら仕方ない。


「彼女……いや鈴町彩芽さんはオレの正体を知っているだろ?それに彼女は3期生の中でもチャンネル登録者が伸び悩んでそうだし、『姫宮ましろ』とコラボすることで登録者を増やせると思う。悪い話じゃないだろ?この家なら桃姉さんもいるから安心だろうし。どうかな?」


「確かにそうね。『姫宮ましろ』のコラボってだけでも珍しいし、ましてやオフコラボなんて初めてだから尚更……私は賛成よ。でも、あんたがそういうこと言い出すの珍しいね。何かあったの?」


「ちょっとな。自分の中で色々とな」


「ふーん。まぁいいけど。なら颯太に任せるから」


「おう」


 オレこと『姫宮ましろ』のことを推してくれているからという理由もある。


「というか……桃姉さんもあの子を何とかしたいんじゃないのか?あの時、オレの正体なんて適当に誤魔化せただろ?」


「あら?バレた?あんたが言った通り彼女は……このままならVtuberとして生き残っていくには、厳しいのかもしれない。『個性』が上手く表現出来てないわ。秘めてるものはあるんだけどね」


「まぁ……言いたいことは分かる」


「……それに。もう1人、私としては頑張って欲しいFmすたーらいぶのエースがいるのよね?」


 そう微笑みながら言う桃姉さん。オレは別に……このままでもいいんだけどな。深く関わって面倒なことになるのも嫌だし。そもそも『姫宮ましろ』だってオレは……


 そんなことを考えるが、今は『双葉かのん』こと鈴町彩芽さんのことだよな。でも彼女は何となく放って置けないし、何とかしてあげたいという気がしたのだ。


 そして彼女には普通に連絡をしても会話にならなそうだから、ひとつサプライズをしようと思う。彼女は『双葉かのん』の時なら、リスナーもいるから喋れるはず。それをすることでオレも彼女も登録者が増えるかもしれない。オレは『双葉かのん』の配信スケジュールを確認する。


「ふむ。今日は午後11時から雑談配信か……結構夜型なんだな。でもちょうどいいな」


 時間は22時50分。オレはパソコンの前で待機していた。そしてこれからやることを楽しみにしているオレがそこにはいた。

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