日が傾き始めたこの時間。誰もいない校舎に差し込む夕日が、彼女の顔色を隠してしまう。
「私のことが……好き……?」
そうやって戸惑う彼女が今照れているのか、引いているのか分からない。
「うん……好き。付き合って、ほしいの」
驚いたように目を見開き、落ち着きがなく手を触っている。私の告白に照れているのか、引いているのか。顔色以外、仕草でも分からない。
「えっと……そ、そうなんだ……へえ」
彼女がその黒くて滑らかな髪の毛をせわしなく指で触っている。
私の告白に答える勇気を振り絞っているのか、それとも、私の告白を断る言葉を考えているのか。
彼女は優しいから、きっと私を傷つけないような言葉を考えているはず。
沈黙が苦しい。時間が経つにつれ、振られるんじゃないかと、太陽が沈むように気持ちも沈んでいく。
この気持ちを伝えたら胸の中が軽くなったのに、今はその空いた胸の中に不安と後悔が流れ込む。
「……ごめん。こんなこと言っちゃって。迷惑だよね……!」
今すぐこの場から逃げ出したい。でも、彼女を呼んだのは私だから、呼び出して勝手に逃げるなんてこと、私にはできないから。
だから私は彼女に振られるのを待つ。
そうやって覚悟を決めた私に届いた言葉は、想像とは正反対の言葉だった。
「迷惑じゃないよ。とっても嬉しい」
弾かれたように顔を上げた私の目に入ったのは、口を引き結んで目を彷徨わせる彼女も姿だった。
違う。一瞬期待してしまったけど、これは彼女の気遣いだったんだ。一瞬でも期待した私はバカだ。何度も経験しているはずなのに。
この後に続く言葉は「でも」だ。
昔からそうだった。私が好きになるのは女の子。みんな私が告白するとこう言うんだ。
――嬉しい。でも、女の子とは付き合えないかな。
「でも――」
ああ、終わったな。
なんで告白なんかしてしまうんだろう。告白せずに、自分の感情を押し殺していれば彼女との関係は壊れなかっただろうに。
「私なんかで、本当にいいの?」
「え……⁉」
「私も、あなたのことが好き……だから、凄く嬉しいんだけど、でも……つ、付き合って、今までの友達関係と少し変わって、距離感とか、その……恋人同士の距離感になって、色々変わって……あなたが引いたり、ガッカリさせるようなこと……もしかしたら傷つけてしまうかもしれない。それでも…いいの……?」
そうやって一生懸命に言葉を紡ぐ彼女の顔色は未だに分からない。だけど、その瞳は不安に揺れて、少し潤んでいた。
彼女も不安だったんだ。私の不安とはまた違った不安。だけどその不安は、私なら受け止めることができる。
「うん」
彼女がハッと息を呑む音が聞こえた。
「本当に?」
「うん。私の方こそ、その……いいの?」
自分から告白しておいてなにを言っているだと思ったけど、こういう経験が無いからどうしたらいいのかよく分からない。
「うん……うん!」
彼女は一歩、また一歩と私に近づいてくる。
そして、今までの友達の距離感より更に近い恋人の距離感に彼女がやって来る。
夕日のような彼女の顔はやがて、太陽が沈むように見えなくなった。