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第6話

 夜の静けさが広がるような時間帯。

 ビデオ通話もできる通話アプリの通知が俺のスマホに届く。

 透明なディスプレイに風音の顔が映し出され、彼女の優しい声が部屋に響いた。


『今日も一日お疲れ様、リク』


 茶色の髪と青い瞳が微笑む姿に自然と頬がゆるむ。


「ありがとう、風音。君のおかげで毎日が楽しいよ」


 俺と風音は日常の些細なことを話しながら、穏やかな時間を過ごしていた。

 突然、部屋のドアが開き、妹の陽夏が顔を覗かせた。


陸兄りくにい、ちょっといい?」


 俺は驚きながら振り向く。


「陽夏、今ちょっと……」

「すぐ終わるから!」


 陽夏は構わず部屋に入ってきた。


『……今の妹ちゃん?』

「あぁ、そうだ。ごめん、ちょっと待ってて」


 わかったと、風音は言って一旦通話を切った。

 陽夏の用事を済ませ、再びスマホに向かおうとすると、すぐに母さんの声が聞こえた。


「陽夏、ちょっと来なさい」

「何? お母さん」

「陸斗が大事な話をしている時に邪魔しちゃダメでしょ?」

「別に大したこと話してないし」


 母さんの注意にも関わらず、陽夏の態度は変わらなかった。

 俺は部屋から漏れ聞こえる会話に耳を傾けながら、再び風音と話す準備をした。

 だが、陽夏の反抗的な声が耳に残る。


「陽夏、ちゃんと反省しなさい」

「わかったよ、もう!」


 陽夏は投げやりな返事をし、そのまま自分の部屋に戻っていく。

 俺は心配そうにドアの方を見つめたが、再び風音に集中しようとした。


「ごめん、風音。今のは……」


 風音は優しく微笑んだ。


『大丈夫だよ、リク。家族のことだから気にしないで』


 彼女の言葉に救われながら、俺は再び通話に戻った。

 だが、心の片隅には陽夏のことが引っかかっていた。


 △▼△▼△▼


 そんな事があった日の週末の昼。親父が俺と陽夏をリビングに呼んだ。

 両親はいつになく真剣な表情で俺たちを見ている。

 腰掛ける位置を指定してきたということは、陽夏を説得するのだろうと勘づいた。


「今日は、少し大事な話をしたいんだ」


 親父の声が響く。陽夏は不満そうに声を上げる。


「急にどうしたの。それに陸兄が同席するってことは、陸兄が付き合ってる風音とかいう女の話?」


 あからさまに不機嫌な声音で話す。


「そうよ。風音さんについての話よ」と母さんが言う。

「だから何。アタシになんの関係があるの」

「風音さんは遺伝子操作によって生まれた特別な人なのよ。彼女はそのことで、これまで多くの偏見や差別を受けてきたの。

 彼女にとって、陸斗は心の拠り所なの。陸斗がいることで、風音さんは孤独から救われているのよ」

「……だから?」


 ぶすっとした表情を見せる陽夏。


「陽夏、君が彼女に対してもう少し理解を示してくれると、陸斗にとっても風音さんにとっても大きな助けになるんだ」


 親父が落ち着いた声で陽夏に言う。


「………。――それが陸兄のためってこと?」

「そうだ」


 お前が愛する兄のためだぞ、という意味を含ませた肯定なのだろうと俺は思った。

 陽夏のブラコン気質はもちろん両親は織り込み済みだ。

 陽夏はしばらく黙り込んでいたが、ため息を吐いた。


「わかったよ。でも、すぐに変われるかどうかはわからないから」

「それでいいのよ、陽夏」


 陽夏の言葉に母さんが微笑む。

 ひとまず、陽夏は納得してくれたようだから、多分大丈夫だろう。

 ……でも、俺は風音のことについて両親に話したっけ。

 そのことが気になった俺は、陽夏が自分の部屋に戻った後、両親に尋ねた。


「すまない、陸斗。母さんが風音さんの連絡先を聞いたことがあったろ?」と親父が答えてくれた。

「あ……そう言えば」


 数日前に、突然聞いてきたんだっけか。まあ、風音には了承を得ているから問題はないか。


「それで母さんは風音さんにデリケートな話だろうけど、話してくれるかって聞いたらしい」

「風音は話してくれたのか」

「ええ。陸斗や陽夏のためだって言ったら、話してくれたわ。私はただ黙って聞いてた。

 最後まで聞いてから大変だったでしょうねってそれだけしか言わなかったわ」


 なるほど。陽夏を説得するためなら、しょうがないことだな。

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