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時代の重鎮《六》

 霊斬の問いに、千砂が即答した。

「お前もどうだ?」

 霊斬は徳利を持ち出して、それを千砂に見せつける。

「一杯、いただこうかね」

 千砂が苦笑して居住まいを正す。

「そう、硬くなるなよ」

 霊斬が苦笑し、盃を二つ置く。それぞれに酒を注ぐと、徳利を置く。

 盃を手に取った二人は、軽く持ち上げると、酒を呑み始めた。

 入っていた酒を呑みほした霊斬とは対照的に、千砂は一口飲んで、盃から唇を離した。

「手首の状態はどうだい?」

 千砂が尋ねる。

「だいぶいい」

「四柳さんの言いつけを守っているんだね」

「守るしかないだろ」

 霊斬は苦笑する。

「いつもだったら突っぱねそうなのに」

 千砂は笑いながら言う。

「今回は止血にかなりかかったんだぞ。無茶して死んだらなんにもならない」

「ようやく、あんたの危機感が働いたってところかね」

 千砂は苦笑する。

「まあな」

 霊斬もつられて苦笑する。

「元也のその後だけどね」

「調べたのか」

「気が向いただけさ」

 千砂は苦笑する。

 酒を呑みながら、霊斬が尋ねた。

「どうだったんだ?」

「元也は医者にいったきり。しばらくは戻れないそうだよ」

「依頼人の思惑通りに、ことが運んだわけか」

 霊斬は酒を呑む手を止めて、ぼそっと吐き捨てた。

「まだ依頼人、きていないだろ」

「ああ」

 霊斬はうなずく。

「調べておいて損はなかったようで、よかったよ」

 千砂が笑う。

「それにしても、依頼人、くるのが遅くないか?」

「確かに。こなければどうしようもないけどね」

 二人は顔を見合わせて、苦笑する。

「暇だろうけれど、無茶するんじゃないよ」

 いつの間にか、盃を空にした千砂が言う。

「いつの間に……おう」

 霊斬がそう返すと、千砂は足早に店を出ていった。



 それから七日後の夕方、依頼人が店を訪ねてきた。

「お待ちしておりました」

 霊斬は店の戸を開け、依頼人であることを確認し、頭を下げる。

 依頼人を招き入れ、奥の部屋へと案内する。

 奥の部屋で正座をして向き合うと、依頼人が口を開いた。

「くるのが遅くなり、申しわけありません。騒ぎが落ち着いてからと思っていたら、予想以上の時がかかりました」

「いえ、美津元也ですが、肉体的、精神的苦痛を味わわせておきました。しばらくは医者にいったきりとのことです」

「それは、ようございました」

 依頼人が笑みを見せる。

 霊斬は苦笑する。

「これは、お礼の気持ちです」

 依頼人は言いながら、小判十両を差し出した。

「ありがとうございます」

 霊斬はそう言い、小判十両を受け取り、袖に仕舞った。

「またのお越しをお待ちしております」

 霊斬は頭を下げた。

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