「やめて。私、その陽キャとか陰キャとか区別するの嫌いだから。そんなのどうでもいいし、私もあんたも好きなように生きてるだけじゃん。そこの何が違うの?」
俺の考えを真っ向から否定してきた大塚の顔からは、嫌という表情が伝わってくる。
俺が抱いていた彼女に対するイメージも、学校とでは大いに違っていた。
「……悪かった。飯が冷めちまう前に食べようぜ」
「……私も、ごめん」
少々しんみりとした空気のまま、晩御飯を二人で同時に食べ始めた。
大塚ありさは、神に愛されているかのように整った顔立ちと抜群のスタイルを持ち、校内で知らない人はいない有名人だ。
勝手に陽キャだとかカーストといったことに関して気にしているものだと思っていたのだが、全くそんなことはないようだ。
「ん……この生姜焼き、おいしい」
「そりゃ良かった」
自分の作った料理を目の前で学年一の美人が食べているこの光景を、他に見たことあるやつはいるのだろうか。
もしかしたら彼氏の安藤でさえまだ見たことないんじゃなかろうか
「ねぇ、ねぇ榎本さ」
「あっ、ごめん聞いてなかった。なに?」
雑念が飛び交っていたせいで大塚が呼びかけているのに気が付かなかった。
「あんたさ、なんで私を家に入れてくれたの?」
「いやだから放って置けないからって──」
「それは聞いたけどさ、少しは考えなかったのかなって思ったの。その、私に彼氏がいることとか、他にも色々……」
「あぁ、なんだお前、自覚してたのかよ。てっきり無自覚で俺の家に入って来たのかと思って驚いたよ」
俺だけが色々と心配している中、大塚は何も気にしていなくて無自覚だったらどうしよう、なんてめっちゃ考えていた。
「それにさ、大雨の中あんなところにいた理由だって、どうせ安藤とのことなんだろ?」
「……っ、そうだけど…………って、なんで私が安藤と付き合ってること知ってんの?」
「……え?」
「えっ…………もしかして、結構周りに広まってた?」
「そりゃもう……知らない奴はいないくらいには。てっきり知られていることを知っているのかとばかり思っていたんだけど……」
そう思って考えていると、ふと大塚の反応に納得のいく原因の候補が浮かんできた。
よくよく思い出すと、大塚本人が公言している素振りもなければ、クラスの違う大塚と安藤が一緒にいるところもあまり見たことがない。
安藤はサッカー部エース、大塚の方は風の噂によるとどの部活動にも所属していない。
平日の放課後は毎日部活に勤しんでいる安藤と何もない大塚が一緒になれるのは、せいぜい土日のどこかと言ったところだろうか。
「安藤が周りに言いふらしていただけか」
「……たぶん、そうだと思う。はぁぁ〜……なんて事してんのほんとに」
箸を置いて頭を悩ましている大塚。
その様子を眺めながら生姜焼き、ご飯の順に口に運び、全ての見込み終わってから彼女に慎重に問いかける。
「なぁ、もし言えたらでいいんだけど、っていうか言える範囲でいいんだけど……なんで大雨の中公園にいたんだ?」
もしかしたら触れてはいけない内容なのかもしれない。
それでも気になってしまう。
天を仰ぎ雨に打たれていた大塚のあの時の表情は、視界が悪く見えなかった。
ただの喧嘩なのか、それとももっと重大な何か。
「家に入れてもらってお風呂入れさせてもらって、おまけにご飯まで食べさせてもらっているのに、私があそこにいた訳を話さないわけにもいかないか」
今の大塚の表情は清々しくさっぱりとしている。
大雨の中で感じたどんよりとした雰囲気は感じられない。
「榎本の言ったことは当たりで、私
「はぁ………?なんだ、そんなことだったのか。無駄に心配して損した」
「そんなことでもないんじゃない?学年一の美人を家に上がらせて内心嬉しくないの?」
「………ふざけんなよ、まじで」
生姜焼きを口に頬張り、急いでご飯を口に入れた。
「あんたの家、両親とかは今はいないの?」
大塚が生姜焼きを適量サイズ口に運びながら聞いてきた。
「今っていうか、しばらく居ないんだよ。そこら辺はまぁ、親の事情っていうやつだ」
「じゃあ今は一人暮らし?」
「そうだな」
「ふぅん………」
それからゆっくりと口にご飯を運んでいった。
俺が食べ終わってから少しして、大塚も食べ切り食器を台所へと運んでいく。
「洗い物は私がやるよ。ご馳走になったわけだし」
「いいよ、別に。俺が勝手にお前に飯を食べさせたんだから」
「……分かった」
聞き分けよく引き下がってくれた。
「じゃあ今度は私があんたにご馳走してあげる。それでチャラってことで」
「……大塚お前、料理できるのか?」
完全な偏見になってしまうが、家事全般できなそうなイメージだ。
「私も一人暮らしだから、毎日自分でご飯作ってるの。イメージと違くて悪かったわね」