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第19話『放て! 炎の矢!!』

 大陸から遠く離れた絶海の孤島、リノイ。

 その中にある小さな村、ライナ。

 それは、豊かな自然に囲まれた緑溢れる美しき村だ。


 だが、それは今、ダークエルフ・レスタトの復讐の炎で染められている。


「人質を一人殺せ!」


 その鋭い言葉は、周りの空気を裂いてシェイルたちの元にも届いていた。


「あたしの……せいで……!」


 シェイルは拳を握り締める。

 その手に爪が食い込み、手の平にうっすらと血がにじんだ。


「我々の恐ろしさを、この者たちに思い知らせてやるのだ!」


 高らかに叫ぶその瞳は、炎の輝きを浴びて紅く輝いている。


「くっ!」


 シェイルは、とっさにその手をゴブリンへと突き出した。


「『炎の精霊サラマンダー……』」

「ちょ、ちょっと、シェイル!」


 響く精霊魔法の詠唱に、ナーイは慌てて腕を掴んで呪文を中断させる。


「あなた、魔法が使えるほど、精神の力は回復してないでしょ!」

「うん……。使ったら疲労で気絶すると思う。けど、他に手なんて……」

「ちょっと待ってて! 今、何か考えるから!」


 その間にも、ゴブリンはダナンに歩み寄り、手にした棍棒を天に向かって高々と振り上げた。


「あーっ、もうっ! こんなとき、誰かに精神力を分けてもらえたら!」


 頭を振って嘆くシェイル。


「精神力を……分ける……?」


 その言葉に、ナーイは弾けたように顔を上げた。


「シェイル、それよ! 私の精神力を使って!」

「えっ!? ど、どーやって!?」

「ユニコーンのことが載ってた『精神力がゼロでも魔法が使えていいのだろうか』に書いてあったのを思い出したの! 古代人は他人と意識を同調させることで、その人の精神力を借りて魔法を使うことができたんだって!」

「そんなことが……」


 自分を真っ直ぐに見つめるナーイに、シェイルは静かにうなずいた。


「やってみる!」


 ナーイの手を取ると瞳を閉じ、精神を集中させて、その波動を探ってゆく。

 溶けるように広がる暗闇の世界。


 だが、その中で確かに伝わるナーイの鼓動。

 感じ始める魂の息吹。


(この感覚……覚醒の儀式と同じ! ――これならいける!!)


 闇の中に、次第に光が広がってゆく。


 ダナンを助けたい!

 その想いは、二人の意識を一つにした。


「つかんだ! ナーイの波動!!」

「やって、シェイル!」

「『炎の精霊サラマンダー!! この者の精神の力を借りて、猛る炎の矢を放てっ!!!』」


 その瞬間、燃え盛る炎の中から〈炎の矢ファイア・ボルト〉が放たれる。

 それは、今まさに棍棒を振り下ろそうとしたゴブリンを直撃した。


「ギギャ――ッ!?」


 ダナンの目の前で、瞬時に炎に包まれるゴブリン。


(〈|炎の矢《ファイア・ボルト》〉……シェイルめ!)


 レオンは高台を見た。

 そこにはシェイルと、青い顔をしたナーイの姿があった。


「伏兵か!?」

「あれは、赤髪の娘!」


 レスタトたちがシェイルに目を向けた一瞬の隙、それをレオンは見逃さない。

 腰の剣を引き抜くと弾けるように跳び、そのままの勢いでなぎ払った。

 瞬時に、二体のゴブリンの首と胴体が生き別れとなる。

 断末魔の悲鳴を上げる間もなく、ゴブリンは倒れ動かなくなった。


「ワシも負けてられんの!」


 すかさず、長老も杖を振りかざす。


「『魔力マナよ! 光の矢となり敵を討て!!』」


 古代語の詠唱と共に杖の先に宿った光は、二本の輝く矢となって二体のゴブリンを貫いた。


「ふっ、ワシの〈光の矢エネルギー・ボルト〉も、まだまだ現役じゃの!」


 ニンマリと笑う長老の前で、ゴブリンたちは派手に倒れ動かなくなる。


「ぐぅっ! 古代魔法使いだったのか!」


 アバレールは叫んだ。


 古代魔法、それは古代の人々が神に憧れ、近付こうと編み出した力だ。

 精霊魔法とは違い、自らの魔力を力に変えて効果を現すことができる。

 古代魔法には様々な系統があり、その魔法も多種多様。

 一般的に魔法使い、魔術師、魔導師などと呼ばれるのは、この古代魔法使いのことである。


「うぐぐぐぐ……」


 一気に変わった戦局に、アバレールはうなり声を上げた。

 五体いたゴブリンのうち、前衛の四体はすでに戦闘不能となっている。

 人質につけていた残る一体も、シェイルの〈炎の矢ファイア・ボルト〉で炎に包まれていた。


「だが……まだ動けぬわけではあるまい?」


 レスタトは、炎に悶えるゴブリンに言う。


「炎に包まれて無様に死ぬくらいなら、闇の妖魔として誇り高く死ね!」


 その言葉に、ゴブリンはレスタトの顔を見た。


「どうした? それとも、俺にトドメを刺してもらいたいのか?」


 今、レスタトが口にしている言語はゴブリン語ではない。

 人々が一般的に使う、人間の言葉だ。

 普通なら、ゴブリンに意味が通じることはない。


 だが、レスタトの威圧感は、ゆうにその壁を越えていた。

 見開かれたゴブリンの両の目。

 そこには明らかに恐怖の色が浮かんでいる。


「ギ……」


 ゴブリンは短い音を発すると、再びダナンを見た。


「キシャァァァァッッッ!!!!」


 そして、目を血走らせ、雄叫びと共に飛びかかる。


「そうだ……それでいい」


 レスタトの顔が、ニヤリと歪んだ。


「ダナンさん!」


 レオンからゴブリンまでは距離がある。今から向かっても間に合わないだろう。

 そして、長老の古代魔法は、詠唱に多少時間がかかる。

 やはり間に合わない。


 レオンは、村長に目を向けた。


「ナイジェル、頼む!」

「もう準備してますよー」


 レオンの呼び掛けに答えるナイジェル村長。

 その手には、投擲用とうてきよう短剣ダガーが光っていた。


「ふっ!!」


 手首のしなりを活かして、ナイジェルは短剣を投げる。

 風を切って飛ぶ短剣は、今まさにダナンにつかみかかろうとしていたゴブリンの喉に深々と突き刺さった。


「グガッ!! ヒュルルルル……」


 空気が漏れる音と体液を撒き散らし、崩れ落ちるゴブリン。


「わっ! ナーイのお父さん、凄いっ!」


 一撃で勝負を決めたその技に、シェイルは目を丸くする。

 そして、それ以上の驚きを見せているのは……。


「あ、あ、あ、あのお方は、どちら様!?」


 ナイジェルの愛娘、ナーイであった……。


「腕は落ちていないようだな、ナイジェル」

「あまり冒険者……というか、盗賊の技は、娘に見せたくなかったんですけどね」


 肩を叩くレオンに、村長は「ふうっ」と、ため息をついた。


「ナーイのお父さんも冒険者だったの!?」


 高台の二人は、まじまじと村長を見た。

 のんびりとした風貌からは想像もできない。


「やってくれる……」


 目の前に転がる戦闘不能のゴブリンたちを前に、レスタトはギリリッと歯噛みする。

 その苛立いらだちは、アバレールに嫌というほど伝わってきた。

 五体のゴブリンは全滅し、人質たちは今、村長が縄を切り解放している。

 まさに、形勢逆転という状況だ。


(これは……帰ってからまた、八つ当たりの嵐か……)


 ここから無事に戻れたとしても、レスタトの怒りのけ口にされるのは目に見えている。

 アバレールは、恨みを込めた視線で高台を睨んだ。


「くそっ! こうなったのは、全てお前のせいだ!」


 ビシッ!

 と、指し示すその先に見える二つの影。

 シェイルとナーイだ。


「降りてこい、赤髪の娘! 部下たちの恨み、晴らしてやるぞ!」


 内心は部下の恨みより、自分の個人的な感情の方が強いことは言うまでもない。

 両手を振り上げて叫んでいるアバレールを、シェイルは真っ向から睨み返した。


「部下たちの恨みって、なによーっ!」

「て、テメェ……忘れたとは言わせねーぞ! お前が皆殺しにした、ゴブリンたちのことを!」

「皆殺し!?」


 ナーイは口を押さえた。

 その場にいる者の視線が一斉にシェイルに集まる。


「それは……どういうことだ?」


 レオンの問いに、アバレールはフンと鼻を鳴らした。


「お前の娘はな、勝手に俺たちの住処に入ってきて、ゴブリンたちを皆殺しにしてったんだよ!!」

「まさか!?」

「死にゆくゴブリンから全て聞いたんだ! 俺に恨みを託し息絶えるゴブリン、ああ……」

「か……勝手なこと言わないでっ!!」


 感傷に浸るアバレールに、シェイルは叫ぶ。


「人を勝手に、残虐非道な性格にしないでよ、バカッ!!」

「な、何だと!? テメェ……こっちに来やがれってんだ!」

「行ってやるから待ってなさいよっ!」


 言うが早いか、シェイルはアバレールに向かって真っ直ぐ駆け出した。


「えっ!? シェイル、そっちは道じゃ……」


 崖に向かって走るシェイルに、ナーイは驚きの声を上げる。


「はあっ!」


 しかし、シェイルはナーイの言葉を気にもせず、そのままの勢いで高台から飛び降りた。


「きゃ……」


 ナーイの口から悲鳴が漏れる。

 だが、約三メートル程の高さをものともせず、見事に着地を決めたシェイルは、着地の余韻よいんもそこそこに再びアバレールに向かって走り出すのだった。


「す、すご……」


 ナーイの口から感嘆のため息が漏れた。


「よ、よーし、私も!」


 感化されたナーイも、シェイルの後を追って走り出す。

 ……が、その足は高台の際の部分で急停止した。

 そっと目線を下ろすナーイ。

 足元の小石が、音を立てて転がり落ちる。


「う、うん……。やっぱり私は普通に降りよう……」


 そう言って、後ずさりするナーイであった。




 全力疾走のシェイルは、滑り込むようにレオンとアバレールの間に入る。


「来たか、極悪娘!」

「人を、変な呼び方しないでよっ!」


 激しく火花を散らしあう二人。

 赤外線視覚インフラビジョンで見たならば、二人の周りの温度はきっと上がって見えることだろう。


「勝手に人んちに押し入り、住人を皆殺しにして、それのどこが極悪じゃないと!?」

「変な言い方しないでっ! 元はと言えば、あなたのとこのゴブリンが子犬のルナルナをさらったからじゃないっ!!」


 ビシッと指を突き付けるシェイル。


「ぐっ……! だが、お前はゴブリンを皆殺しに……」

「ルナルナを食べようとしたからでしょっ!」


 シェイルは、ずいっと前に出る。

 その威圧感に、アバレールは一歩後退した。


「そ、それは……。そ、そう! ゴブリン共が勝手にやったことで……」

「ゴブリンたちが、勝手にやった?」


 やれやれとため息をつき、更に鋭い視線をアバレールに向ける。


「部下の失態は、上司である、あなたの責任でしょっ!!」

「う、うぐっ……」


 シェイルは腕を組むと、半身の姿勢でアバレールを見据えた。


「そんなことも、わからないなんて……。あなたって、最低ねっ!!」

「ぐはぁっ!!」


 その鋭い言葉は、アバレールの胸に深く突き刺さる。


「逆恨みで暴れてたの? やだ、本当に最低じゃない」

「最低だな!」

「最低じゃ」

「最低ですね」


 合流したナーイ、そしてレオン、長老、村長の口からも『最低』という言葉が飛び出した。

 その言葉は見えない刃となって、アバレールの心を切り刻む。

 どうやら、この戦いはシェイルの勝利のようだ。


「キ、キサマら、いい加減にしろよ――――――っっっ!!」


 心の痛みに耐えられなくなったアバレールは、天まで届くほどの大きな声でわめき散らした。


「小娘っ!! よほど死にたいようだな!!」


 怒りに狂った目で叫びながら、背中の大剣を支えている鞘の留め金を外す。

 大剣は自らの重みで滑り落ち、地面に突き刺さった。


「このまま引下がっちゃあ、闇の中に生きるものとして示しがつかねぇ! 覚悟しやがれっ!!」


 アバレールは大剣を地面から引き抜くと、切っ先をシェイルに向けて中段の構えを取った。

 その殺気に、シェイルの背中を冷たいものが伝う。


(コイツ……最低なヤツだけど、剣の腕はなかなか)


「へっ! さっきまでの威勢はどうしたんだァ?」


 そのとき、シェイルを守るようにレオンが二人の間に割って入った。


「シェイル、お前は下がっていなさい」


 レオンは長剣バスタード・ソードを構える。

 その刃が鋭い輝きを放つ。


「アン、何だァ? オヤジが相手だって言うのかァ?」


 おどけたように、肩をすくめるアバレール。


「俺は、誰が相手でも構わねぇ…………――――ぜっ!!」


 しかし、そのおどけた仕草は、レオンを油断させる為の作戦だった。

 アバレールは両手に力込めると、不意に大剣をなぎ払う。

 風を切る音。

 次いで鳴り響く高音。

 鋼と鋼がぶつかり合い、辺りに火花が撒き散らされる。


 たとえ受け止められても、その剣をへし折って圧倒的な力で叩き潰す。

 それが、アバレールの戦い方だ。

 相手は驚きと恐怖に目を見開いたまま絶命する、はずだった。


「な……!? バ、バカな……!」


 だが、焦りの色が浮かんだのは、アバレールの方であった。

 レオンを狙った一撃は、いとも容易く受け止められていたからだ。


「ほう……。力だけは大したものだな」


 重なり合う刃を見つめ、レオンは軽く言う。


「そ、そんなバカなっ!! この俺の一撃を!?」


 しかし、オーガのようなアバレールがいくら押し込んでも、レオンは身じろぎ一つしない。


「お父さん、凄い!」

「フッ……。これには、ちょっとしたコツがあってな。相手の一撃が最大の力を発揮する前に、その剣の軌道に合わせ、相手以上のスピードで……」

「う、うん?」

「……まあいい、後で教えてやる」


 首を傾げるシェイルに、レオンは苦笑いを浮かべた。


「うん! お父さん、そんな最低なヤツ、早くやっつけちゃってっ!」

「こ……このっ! 最低、最低言うんじゃねえっ!!」


 アバレールは声を張り上げると、剣を引いた。


「くらいやがれ!」


 大剣を上段に構え、それを一気に振り下ろす。

 渾身の一撃。

 しかし、それも難なく避けられ、剣は激しい地響きと共に地面へとめり込んだ。


「く、くそっ! ちょこまかと……」


 剣を引き抜こうとした瞬間、レオンはそれを上から踏みつける。


「ぬがっ!? て、てめえ!!」


 そして、そのまま剣の上を走り出した。


「なんだとっ!?」


 大剣を駆け上がるレオンの姿に、アバレールは驚愕の声を上げた。

 次の瞬間、視界は真っ暗になり、そして真っ赤に染まる。

 鼻に走る激しい痛みと熱さ。

 駆け上がったレオンの膝は、アバレールの顔面に深々とめり込んでいた。


「おご――――っっっ!!!」


 鼻血を撒き散らし、派手に吹き飛ぶアバレールを後目に、華麗に着地を決めるレオン。

 圧倒的な力の差にシェイルたちから歓声が巻き起こる。


(やっぱり、お父さんは凄いっ!!)


 シェイルは、目を輝かせて父の姿を見つめた。


「ぐ……むぐぐ……」


 しばしの間、倒れていたアバレールは、やがて地面に手を付き無理やりに立ち上がる。


「く……くそっ! くそっ! くそーっ!!」


 響く怒声。

 そのこめかみには、指でつまめそうなほど血管が浮き出ている。


「まだやるのか?」

「当たり前だ! ここまでされて引き下がれるかよ!!」

「もうよい! 下がれアバレール!!」


 そのとき、空気を裂くようなレスタトの声が響いた。


「い、いや、しかし……。このままじゃあ、俺も収まりが……!!」


 思わず口答えするアバレールに、レスタトは静かに言う。


「俺は……下がれと言ったのだぞ?」

「ひっ!!」


 その凍り付くような声と鋭い視線に、アバレールの口から悲鳴が漏れた。


「へ……へへへ……。わかりやした……」


 放たれる圧倒的な威圧感を前に、媚びた笑顔を浮かべ、すごすごと引き下がるアバレール。

 代わって、レスタトが前に出た。


「チッ! 最低の部下を持つと、こうも苛立たされるものか……」

「レ、レスタト様まで~」


 レスタトにまで『最低』と言われ、涙目になるアバレールであった。


「さて、部下が世話になったな。ここからは俺が相手をしよう!」


 静かに腰の細身剣レイピアを構えるレスタトを前に、レオンの顔から余裕が消えた。


「コイツ……強い!」


 緊張が走る。

 レスタトから放たれる威圧感に、レオンの息遣い荒くなる。


(くっ……俺は飲まれているのか!?)


「……どうした? かかって来んのか?」


 村を通り抜ける風は炎を揺らし、レスタトの銀の髪と褐色の肌を輝かせた。


「……ちっ!!」


 レオンは、深く息を吸い込んだ。


(守らなきゃいけないものがあるんだろ!)


 自分自身を激励し、雄叫びと共に連続の突きを繰り出す。

 刃はレスタトの頬をかすめ、褐色の肌から赤い血が流れ落ちた。


「さっすがお父さん! やっぱり強いっ!!」


 シェイルは、手を突き上げて歓喜する。


「ね、ねぇ、シェイル……」


 そのとき、ナーイが恐る恐る口を開いた。


「あのダークエルフ……笑ってない?」


 確かに、レスタトは氷のような冷笑を浮かべ、レオンの連続攻撃を受け続けている。

 逆に、一方的に攻めているはずのレオンの顔には焦りの色が見て取れた。

 自らの血に染まり、笑うレスタト。

 その悪夢のような光景は、辺りの空気を凍り付かせる。


「なるほど……剣の腕なら俺以上だ。ククク……だが、俺に勝つことはできん! 何故なら、俺には精霊魔法があるからだ!!」


 左腕をレオンへと突き出すレスタト。

 その体が、まばゆい光を放った。


「『切り刻め〈風の剣ウインド・ブレード〉!!!』」

「ぐはっ!!!」


 刹那、現れた無数の刃に斬り刻まれ、レオンは血しぶきを上げて吹き飛んでゆく。

 その体は数メートル離れた家壁に激突し、ようやく動きを止めた。


「いやーっ、お父さ――――ん!!!」


 崩れ落ちるレオンの姿に、シェイルは悲鳴を上げた。


「シェ……シェイル……逃げ……ろ……」


 途切れそうになる意識をつなぎ止め、レオンはなんとか言葉を口にする。


「ククク……ハーッハッハッハー!! さあ、トドメを刺してやるぞ!」

「こ……ここまでか……」


 冷酷な笑みを共に、ゆっくりと近付いてくるレスタトに、レオンは目を強くつぶった。

 その足音は、自分の命が尽きるまでの秒読みにも感じられる。


 だが、その足音が不意に止まった。

 自分との距離は、まだあるはずだ。


(……な……なにが……?)


「何の真似だ……小娘」

「ま……まさか!?」

「お父さんは、やらせないっ!!」


 霞む瞳に映るもの、それは両手を広げ立ちふさがるシェイルの後ろ姿であった。

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