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第4話・本の虫の気持ち?

「――絶望だ。とか嘆いてたうえ、割と酷いこと言ったつもりなんだがよく話せる気になるな」


 あれから数日。昼食を終え忍は図書室にて小説を読んでいた。物語の中に入れば周りから聞こえる心の声をほぼ完全に遮断できるからだ。


 完全に遮断できると言えないのは、彼の横に座る梅花が原因である。彼女の内から響く透き通った声は良く通り彼の耳をつんざく。そのためなるべく距離を置いてはこうして本を読んでいるのだが、人の気も知らずに彼女は忍に話し掛けるのだ。


 それに忍が自身なりの苦手の定義を述べ、追い討ちをかけるように関わりたくないとはっきり言ったにも関わらずだ。そこまで嫌悪を抱かれては近寄りがたく話し掛けることなどしないものだが彼女は何も気にしていない様子だ。


「だって菊城くんいつも1人で寂しそうだし?」

 ――この私が君をぼっちから救ってみせよう! なんてキザなセリフは恥ずかしいから言えないけど!


「生憎、見ての通り俺は本の虫だ。1人の方が落ち着くからさっさとどっか行け」


「とか言って誰も構ってくれないから本読んでるだけでしょ〜?」

 ――その気持ち私には理解わかるぞ菊城くん!


 どこがだよ。と彼女の自慢げにものをいう心の声に反応した忍は言葉こそ出さなかったが、読んでいる本から彼女へと目線を動かし怒りが浮かぶほど睨みつける。


 彼は今までも絡まれたことは何度があり、その度にその睨みを送れば大抵は逃げていっていた。それを繰り返し今のぼっちに至るのだが、梅花に効果は無くにっと口角をあげる。


「ふふ、やっとこっち見た」

 ――このまえあんなこと言っておきながらちゃんと反応してくれるじゃん。


「本当にそういうダル絡みはうざいな。前も言ったけど関わらないでくれ」


「無理でーす。隣の席だから必ず接点あるし、何より関わるなと言われたら関わりたくなるんですー。逆を突いて絡んでって言っても絡むけどね。つまり菊城くんに拒否権はないのだよ!」

 ――苦手を克服してほしいし、何より隣の席だもん仲良くしたいじゃん!


 忍の言葉にむっと頬を膨らませる梅花。


 対して威嚇してもなお絡んでくる理由を聞き無性に苛立ちを覚える忍。これ以上彼女に言っても無駄だと知ってはいるが極力関わりたくない一心で三度絡むなと言い捨てる。


「……仲良くなりたいならこれ以上絡んでくるな」


「無理でーす。隣の席だから必ず接点あるし、絡むなと言われたら絡みたくなるんですー」

 ――何と言われようと絶対打ち解けるまで絡み続けてやるんだから!


 先ほどと似たようなことを頬を膨らませて言う。しかしもはや相手にするのも疲れたのか、忍は本へと視線を戻して彼女を無視を徹底する。本に集中していても彼女の声だけはしっかりと届き、読書には集中しきれていない。それでも相手にしなければ勝手に離れるだろうと内容が入ってこない読書を続ける。


 無視を徹底しすぎた結果、昼休みの時間の終了を知らせるチャイムが校内に響いたことに気づかず、ページを捲る。すると上から華奢な手が伸びグイっと小説本を彼の手から抜き取られる。


 ハっとそれを追いかけるように顔を上げると、先程よりもむすっとした表情を浮かべている梅花が。


「むー、ずーっと無視は流石に傷つくって! ていうか授業始まるよ!」

 ――絡まれたくないって言うのはわからないこともないけど、ちょっとは興味持てよぉ!


 実際に声に出していた言葉ですぐに時計を確認する忍。壁についている時計の針から確かに授業がそろそろ始まる時間であると理解すると、彼女が持つ本を元の場所に戻すべく強引に奪い取る。


「いたっ」

 ――今絶対指切れた……うーんやりすぎたかな、めっちゃご機嫌斜めじゃん……うわ、血出てる……どうしよ。


 本を取った瞬間、小さな悲鳴をあげ指を抑える梅花。抑えている指からゆっくりと鮮やかな赤い液体が流れ始めており、忍が取った本が彼女の指を傷つけたのは言うまでもない。


 絆創膏など携帯していない彼女はずきずきと痛み、血が流れる指を強めに抑え静かに焦る心を落ち着かせるため深く呼吸をして速足で図書室から出て行った。


 その様子に背筋を凍らせ、ぴたっと体が止まり今しがた自分がやったことを後悔する忍。謝ろうにも既に彼女の姿は目の前から消えており、罪悪感に襲われたまま本を戻して教室へと戻る。道中彼女がいるのではと思っていたが姿は一切なく、教室に戻っても隣の席は空いていた。


「あれ、空木はどこ行った?」


 授業が始まる直前、教壇に立った教師が、梅花がいないことに気づきクラス全体に問いかける。だが答えが出てくることは無くただ騒がしくなった。誰も知らないとなれば教師が思うのはひとつだ。


「空木がさぼるなんて珍しいこともあるもんだな」と教師が言った直後教室のドアが開かれた。その先には息をあげている梅花がいた。


「すみません! 保健室行ってました!」

 ――ギリギリセーーフ!


「保健室行ってたのか? 大丈夫か?」


「大丈夫……じゃないです! 手から大量出血したんで!」

 ――軽傷とはいえ授業直前だから保険の先生もびっくりしてたけど。


「そのくらいの大事だったらまずこっちに来ないだろ。まあ冗談を言うくらい元気ならいいが……だとしても廊下は走るな。ほら授業始まるから座って」


 梅花の冗談に呆れ顔を浮かべた教師に言われるがまま、梅花は自分の席へと戻った。


「そのごめんな」


「いいよいいよ。驚かせた私も悪いから」

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