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最終話・そしてシルヴィ達は再び旅に出る

 ――やっぱりルーシャはアデルキアの……?。


 その確信を持った瞬間、ルーシャと違って肉体の損傷が激しかったダイヤが目を覚ました。


「あれ……」


「ダイヤ!」


「うわっとととと。ちょ、どうしたのシルヴィ! シルヴィを助けたあとのこと分からないんだからまずは説明してよ!? というかその腕は何!?」


 本当に蘇り、嬉しさのあまり抱きつくシルヴィ。どことなく涙声になっていた。


 当たり前ではあるが、死んでからの記憶はダイヤには存在しない。そのため彼女が死んだことを言うべきなのか躊躇っていると、辺りを見回したダイヤは状況を何となく察して。


「……勝ったんだねシルヴィ。そして私を助けてくれた。そうでしょ」


「……うん」


「お疲れ様、よく頑張ったね」


 大雑把ではあるがシルヴィが勝ち、助けてくれたことに優しい笑みを浮かべシルヴィの頭を撫でる。


 だがそんなほっこりとした時間はすぐに終わり、改めて黒い腕のことを聞いてくる。


 隠す道理など一切無いため、それも含めどうやって勝ったのかを詳しく話した。


「なるほど気づいたら過去に行っていて、そこで瘴気を断ち切る剣を取ってきたと。そしてその際に魔王から呪いを……そして夜明けがタイムリミット……ってことはもうあまり時間が無いね……」


「うん」


「うん……って、自分の命があと少しで無くなるっていうのに凄く冷静だね!?」


「まぁ、仕方ないかなって……本当は魔王にちゃんと謝って、魔族が平和に暮らせる世界を作ろうって、ちゃんと言って共存できたらなって思ってたけど……フレアを助けられただけでも達成感が込み上げてね……はは……やっぱり私には魔族を救うことは出来ない。でも誰かを助けることはちゃんとできた。だからかな。死ぬってわかってても、いいかなって……」


 視線を下ろして今の気持ちを事細かに話す。あれほどまで魔族や魔王に執着していたのにも関わらず、いざ無理だと知れば諦めて、為せば成るの精神は消えていた。


 その様子に苛立ちを覚えたダイヤは目を覚ませと言わんばかりに思い切りシルヴィの頬を叩く。


「シルヴィはそんな簡単に夢を諦めるような人じゃないでしょ! なにさ、私たちを助けておいて自分はさっさと死ぬって馬鹿じゃないの!?」


 その言葉に感化されたのかルーシャも声を荒げ始める。


「そうです! シルヴィさんはずっと前を向いていて、やると決めたら絶対やる人です! なのに呪いをかけられて消沈とかありえないです! それにそういう時こそ私を、私たちを頼ってください! 呪いなんて今の私ならきっと何とかなりますから! ……だから、だから!一人にはしないでください……!」


 次第に寂しそうな声色になっていったルーシャがシルヴィの右手を握ると、腕から首元まであった黒いものが少しづつ小さくなっていき、やがて彼女の腕は本来の肌色を取り戻していた。


 だが呪いは完全に取れた訳では無い。ルーシャの魔力に反応して発動時間を大幅に遅らせただけだ。それでも、ルーシャのおかげでシルヴィは少なくともその日に命を絶つことはなくなった。


「あ、えっとその……とりあえずこんな感じで……私の力だとさすがに完全には消せなかったみたいで……その定期的に取り除きますね……」


「……ルーシャってまさか」


 ダイヤが確信をつきそうな言葉を言いそうになり、慌ててシルヴィが口を塞ぎ耳打ちでそのことを教えつつまだ確信がないからそのことは内緒にと言い、ダイヤは静かにうなづいた。


「にしてもまさか呪いまで回復できるなんて……ありがとうルーシャ」


 もう逃れられないとすら思わされる死の呪いに覚悟を決めていたが、緩和されまだ生きられる。夢を追うことができることに再び涙を流すシルヴィ。そしてルーシャが仮にアデルキアとの関わりがあるのならば必ず守ってみせると改めて決心し、涙を拭った。


 魔族だって意思があり、命がある。一方的に虐められていいわけがない。それが世界に定着し、魔族と人が共存できるまで。永遠に。


 *************


「完全復活! っと喜びたいところだけど、本当にごめんシルヴィ。あの力に溺れて貴女にひどいことを……でも助かったわ本当に。ありがとうシルヴィ!」


 フレアとの戦いが幕を閉じて早くも一ヶ月。人工魔王による体力の消耗、瘴気を断ち切る剣の魔力吸収による魔力切れにより、しばらく目を覚ますことがなかったフレアだったが、すっかりと体を動かせるようになり、彼女はシルヴィたちの元に訪れていた。


 彼女たちがいるのはシルヴィの地元であるアドリシアの一軒家。フレアが回復するまで地元で生活していた。


 ちなみにフレアを助ける際に過去から持ち出した瘴気を断ち切る剣はもうない。正確には過去に送り返したためだ。ただ人工とはいえ魔王の力を一度吸収した剣。かなりぼろが来ており長く使える状態ではないものだが、それでも過去のものはずっと現世に残すことはできないため打ち直しはせずに手放していた。


 もっともその剣が後に学生時代のシルヴィが使うこととなったということは流石の彼女にはわかりえないことだが。


「回復おめでとうフレア。でも正直私怒ってるんだからね。親友で魔王の力に操られていたとはいえ、仲間を一度は殺して、村の人たちも殺してるんだから」


「そ、それは……言い返す言葉がない……で、でもね。だからこそっていうか、その……罪滅ぼしのためにシルヴィたちに協力しようって思っていて、ダメ……?」


「うーん……まあ駄目じゃないけど……ルーシャとダイヤに聞いてみないと」


「わ、私はその大丈夫、です……今のフレアさんはその怖くないですから」


「じゃあ後はダイヤだけだね。まあ最近は鍛冶に張り切って夜まで帰ってこないけど」


「ならここで待たせてもらうわ」


 剣がなくなったことで滞在期間中にシルヴィの瘴気を断ち切る剣と同等のものを作り上げると張り切り、毎日のようにアドリシアの工房を借りてまで鍛冶に没頭しているダイヤ。故か今は彼女たちの元にはいなかった。


 そのためフレアがシルヴィたちの仲間になると正式に決まったのはその日の深夜になった。


 そして、それから一週間。無事にダイヤの仕事が終わり、新たな仲間と共に彼女たちはシルヴィの夢を追いかける形で再び旅に出るのだった。

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