手の内を暴かれ焦る様子浮かべるかと思えば、あの耳鳴りが連続して聞こえる。
「うぐっ……!」
「確かに私は時空魔法は使ってない。魔族語で使えるものだって制限されている。でもだから何? それだけで貴女に負けるほど弱くないわよ」
耳鳴りが聞こえて直ぐに氷塊が襲ってくると知っているため再び飛んだ少女は連続で出された氷塊に直ぐに対処できず、壁際まで吹き飛ばされる。かなりの衝撃があり胸部の痛みから肋骨が折れているのがなんとなくわかる。それでも少女は立ち上がり、剣を握る。痛みで体が震えている様子だが再び形勢逆転してしまいこれからどうやってフレアを助けるかを考えながら牙を向いた。
瘴気を断ち切る剣があればまだ助けられることはできるだろう。しかし以前フレアの中にいる魔人エイスと戦った際に折れてしまい、なおかつ打ち直しも未だできていないためその剣で助けることは現状不可能。
とはいえこのまま何もしなければ一方的にやられてしまう。またフレアは遠慮しないと言っており、逃げることなどできず背中を向ければ命はない。
「や……ぁあ!」
まさか連続で氷塊が襲ってくるとは思っていなかったシルヴィだが、氷塊が出てくる仕組み、瞬間は少しずつ理解しつつあり体に走る痛みをよそに、フレアに向かって走りながらピンポイントで剣を振るっていた。実は彼女の狙った場所はきらきらとしたダイヤモンドダストが凝縮しており、そこから氷塊が生まれている。それらが完全に凝縮した際に耳鳴りのような音がなっているため、音が鳴る直前にそのダイヤモンドダストを散らすように切り裂くことで無効にできるとふんでいたのだ。
その考察は見事的中。なんとか降りかかる攻撃を最小限に抑えることができている様子だが、それらを阻止することで精いっぱいでフレアに攻撃する暇が全くない。それどころかダイヤモンドダストの凝縮するタイミングが次第に早くなり、進行は止まり全てを防ぐこともできなくなってきていた。
そんな時。
「シルヴィ!」
この世の終わりのような形相を浮かべ焦るダイヤが叫び、シルヴィを突き飛ばした。
回復魔法をかけたとはいえ傷は深いまま。しばらくは動けない傷のはずだったのだが、シルヴィの近くまで走ってきた。だが彼女の視線はシルヴィにではなくフレアを見ていた。シルヴィもフレアを視界に捉えていたが突き飛ばされるまでダイヤが焦るほどの変化には気づかずにいた。
吹き飛ばされた直後、直ぐに顔を上げると大きな氷の槍がダイヤの身体を深く突き刺していた。氷槍で塞がれているとはいえそこからは絶え間なく鮮やかな赤い液体が流れており、ほんのわずかな時間で氷槍と地面を花弁を開いた赤花のように血で染め上げた。
僅かな悲鳴を上げてその場に倒れたダイヤはまだ少し意識が残っていた。だが、こふっと血を吐きつつ空気が抜けるような呼吸をしており、目の焦点はあっていない。
わずかに彼女の震える腕が動き、逃げてと言わんばかりにシルヴィへと延びる。しかしシルヴィにその手は、思いは届くことがなく力尽き、伸ばした手は大地に落ちた。
「……あの傷で庇いに来るなんて、いい仲間ね」
「ぁ……ぁぁぁぁああああああああああああ!」
急いで近づいて彼女の手を取るが、ほのかに暖かい手には力がなくするりとシルヴィの手から抜け落ちる。息もなく光が失われた瞳を見ればダイヤもまた息を引き取ったというのは一目瞭然だ。
――また、助けられなかった。
何度も、何度も何度も。守りたいものを守れない悔しさがシルヴィの胸を締め、涙がぽろぽろと零れ落ちる。助けられなかったことは何度も経験していたが、今までにないほどの消失感に堪えられなくなったのだ。
もしもフレアの攻撃に気づいていたら、もしもここにフレアがいると知っていたら、もしも瘴気を断ち切る剣があれば。と。ルーシャとダイヤを亡くした悲しみから目を背けるようにありえもしないもしものことばかりを考えてしまい、自分を責める。
それでも時は止まらない。ただ泣き叫び悲しむだけの人形になったシルヴィに痺れを切らしたフレアがボソッと呟いた。
「……そろそろ時間が惜しいわね。シルヴィ。
その冷たい言葉と共にダイヤを貫いたのと同じ氷槍を生成し、ダイヤの近くで泣き叫ぶシルヴィに向かってそれを放った。
刹那、シルヴィの姿がその場から忽然と消えた。