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第41話・耳鳴りの正体

「……くっ!!」


 フレアが見下すような視線を向け遠慮しないと言った刹那、キィンと耳鳴りがシルヴィを襲い腹部に鈍痛が走る。魔王となった彼女と初めて戦った際は耳鳴りはなかったが同じ戦法。これを看破しなければシルヴィに勝ち目はない。


「【炎槍フレイムランス】! ……あれ」


「邪魔【エイスシュペーア】」


「あ……ぐっ!」


 シルヴィがその場に倒れた直後、ダイヤが右手をフレアに向かって突き出し炎魔法で応戦するべく魔法を唱えた。しかし炎を意味する赤色の魔法陣は出現したものの魔法は発動せず消滅した。


 魔法を無効にすることは事実可能である。だが、もし無効になっていたのならば魔法陣が出現することはない。故に魔法が放てなかったことに対して面食らった表情を浮かべたダイヤ。普段ではありえない光景に油断していた彼女はフレアの瘴気で生成された氷の槍で横っ腹を貫かれた。


「な……んで」


「ダイヤさん!」


 再びキィンと軽い耳鳴りが聞こえるとフレアの姿が消えダイヤに声をかけたルーシャが地面に叩きつけられる。鈍い音が響き、ゆっくりだがルーシャの頭部からとくとくと血が流れている。近くにいるダイヤの傷口からも血は溢れ直ぐに血だまりができていた。またルーシャに至ってはダイヤの名を言った後から反応がなく、翼は力がなくぺしゃっと潰れたように広がっている。


 そんなルーシャの頭を踏みつけたフレアはシルヴィに冷たい目を送るように俯瞰すると。


「……シルヴィ。早く助けないと、死ぬわよ」


「フレア、ぁぁあああ……っ!」


 腹部に感じる痛みに悶えていたシルヴィが腹を抱えて立ち上がり叫んでは腰に携えた剣を抜いてフレアに向かっていく。


 ダイヤが魔法を使えず瞬殺されていたのをシルヴィは見ていたが、ルーシャの命が危うくましてフレアが煽ったのも相まって身体能力強化の魔法を足にかける。魔法は無事に成功し彼女は一気に間合いを詰めて剣を横に薙いだ。一瞬魔法がしっかりと機能したことに唖然としていたが直ぐに我に戻り更に一撃、薙いだ剣を翻しフレアの肩から横っ腹へと切り裂くように振るう。


「っらぁ!」


 キィンと三回目の耳鳴りがなるとそこにいたフレアの姿はなくなった。それでも何かに掠った感覚は剣から拳に伝わっていた。


「さすがシルヴィね。でも今の私には……」


 シルヴィから離れた場所に現れたフレアの口が止まりふらつく。完全に避けたと思っていたのに腹部に傷を負わされ、血が流れていることに気づき言葉を失い、血が抜けたことで魔力が流れた感覚を覚えて足がすくんだのだ。


 一瞬の隙を逃さないシルヴィは追い打ちをかけるわけでもなく、その場に倒れるルーシャたちに回復魔法をかける。


 回復魔法は命のある生物に対して効果のある魔法。基本は全ての傷が治るわけではなくある程度の傷が治るだけの効力だがシルヴィが扱えば、ダイヤほどの重症でも直ぐに治ってしまう。しかし、ルーシャの傷は未だ血が流れている。それが意味していることは。


「……さっきの一撃で死ぬなんて脆いわね、その子。まあ邪魔者が消えたのはいいことね」


「…………【氷の檻アイシクル・ケージ】」


 フレアが得意としていた氷生成の魔法。本来はとてつもなく大きな氷で相手を拘束する魔法だが、シルヴィはそれを小さくしルーシャに使う。回復魔法が効かない、つまり死を迎えたルーシャの肉体の時間を止めるための魔法。なるべく腐敗させず、綺麗な状態で供養するべきだと魔族思いのシルヴィだからこその気持ちだろう。


 魔法を使った瞬間、ふと違和感を覚えたシルヴィ。氷魔法の効力が思った以上に強く出た違和感。ダイヤの炎魔法が消えたのを考えまさかと彼女は行動を始める。


「【氷塊の鉄槌クリスタル・ハンマー】!」


「……【氷塊エイスブロック鉄槌アイセンハンマー】っ!」


 お互い唱えたのは【氷塊の鉄槌】。本来鉄槌とはいうが大の字になった人ほどの大きさをもつ氷の円柱を生成し相手に向かって投げつける魔法だ。


 シルヴィが唱えたのは通常よりも弱く調整したもの、しかし実際に顕現したのは大岩ならば簡単に砕けるのではと思えるほどの大きさであり、フレアが作り出したものも同じでお互いの魔法が相殺されそれらは散り散りとなった。


 シルヴィの予想通りこの周りは氷の魔法が強く出るからくりがあるのだ。ゆえに氷魔法が強化された状態で行使できていたのだ。またそれを知ると今までのことを考察することができ、その一つとして炎の魔法が発動しなかったと考えられる。


 だがあの耳鳴りと瞬間移動の謎は未だに不明。と思えば氷魔法が強化されるからくりがあると気づいたのを皮切りに、その二つの疑問が固く結んだ紐をほどいたように解けた。


「……そうか、フレアは最初から時空魔法なんて使っていないんだ……!」


 そう呟くとまたもやキィンと耳鳴りが響く。その音にひるむ様子を見せなかったシルヴィはすぐさま後ろに飛んだ。


「……もう気づくなんて、あの時殺しておくべきだったわ」


 後ろに飛んだことでフレアの攻撃はシルヴィに当たることはなかった。それどころか完全にその瞬間をシルヴィは目の当たりにして、口角を上げた。


 フレアの瞬間移動トリックはかなり簡単なものであり、シルヴィが気づいた通り時空魔法は一切使っていない。使っていたのは氷だ。彼女たちがいる部屋の中には目には見えない氷の粒子が漂っており、それを一部分に凝縮させて攻撃を仕掛ける。そしてフレア自身その氷の粒子になることが可能であり、直線で移動し実態に戻っていただけなのだ。


「これなら……勝てる!」


「――なあんて、そんな甘くないわよ」

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