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第40話・人工魔王

「ごめんて」


 研究所へと向かうために草原を歩く三人。


 今朝気持ちよく寝ていたところを、嫌いなもので無理やり起こされたダイヤは頬を膨らませたままシルヴィたちの前を歩いていた。雰囲気からして今朝のことを引きずっているようだ。


「絶対許さないから」


「うう……」


「あの、その二人とも落ち着いてください……喧嘩している場合じゃあないと、思います……」


 どっちもどっちではあるがこのままではシルヴィが可哀そうだと、ルーシャが弱々しい声で二人をなだめ慰める。ましてやこの後フレアのことを知るために研究所に行くのだ。喧嘩していては他人から情報など聞けない。


 しかしそれだけの理由で彼女たちを止めたわけではない。ダイヤからシルヴィとダイヤの昔のことを聞いているからこそ、またその時のように仲を悪くしてほしくないのだ。


 所詮は他人事ではあるが、一緒に旅をする以上ギスギスするのは見ている方も嫌なのだろう。それはシルヴィ達も同じ。ルーシャの言葉に足を止めて。


「確かに喧嘩している場合じゃないね。シルヴィは私のために動いてくれてるんだしごめん」


「私こそごめんだよ本当に……それじゃあ気を取り直していこうか。ありがとうねルーシャ」


 今の現状を考え、ルーシャに言われたことで起こっているのが馬鹿みたいになったのかダイヤはため息を吐いて、シルヴィとの仲を戻すことにした。だが相当ショックな出来事故に完全に許したわけではない。なにせ正確にはどうでもいいと思うことにしただけなのだから。



 それから七回ほど太陽が昇った昼。彼女たちは目的地にたどり着いていた。


 研究所というだけあり、建物はかなり立派だ。だが中々どうして


「……なんかここだけ別次元みたい」


「昔はもっと人がいた気がするけど……警備もないしどうなってるんだろ」


 まるで別世界に来たような雰囲気に圧倒されつつも彼女たちは前へ進み、建物の中へと入る。中はドワーフの建築技術による石作りで暫く使われていないのか汚れが目立ちひどく荒れている。獣に襲われていたような痕跡もある。


「これは一体」


 シルヴィが呟いた瞬間、建物内に声が響いた。


『これはこれは……シルヴィじゃないですか』


「この声はローラッド……さん!? これは一体どういう――」


『ああ、みなまで言わなくともわかりますよ。貴女の目的はフレアがどこにいるか……ですよね』


 どこから聞こえているかは彼女たちにはわからない。だがその声の主はシルヴィが知るローラッド――魔法学校を卒業する際にシルヴィを研究員に誘った人物である。だがシルヴィはその誘いを断り、代わりにフレアが誘われこの場所に連れてきた人物だ。つまりフレアがどこにいるのかを一番知っている人物である。


 その人物が再び声を出す。


『ええ、もちろん知ってますよ。なにせあれは


「……なにを言って」


『そういえば、前にフレアと接触していましたね。どうです? 私の実験の成果――人工魔王計画は! 魔王の残滓を人間に取り込ませて疑似的に魔王の力と魔族語に対する抵抗を得て人間の弱さを克服できる。そして人がこの世界を支配する! これが人工魔王計画!』


 正体が見えないローラッドが嫌な笑いと共にとんでもないことを叫ぶ。まさか親友を被験者にされているとは思っていなかったシルヴィは、その言葉を聞いた瞬間から拳に力が入り、周囲にも彼女に怒りが沸き上がっているのが伝わるほど。


 だが彼のやったことの異常さはダイヤにもルーシャにも伝わり、シルヴィの怒りが伝染したかのように歯を食いしばり殺気を放っていた。


 もしもローラッドがこの場にいたら間違いなく三人そろって息の根を止めにかかっているだろう。


「私の親友を……ゆるさない……人の命をなんだと思ってるの!」


『はっはっは! いいですねこっちまで殺気が伝わってきますよ! にしても人の命ですか。使えるモノは使わないと研究者として廃れますからね。それに貴女だって道具が利用できるなら利用するでしょう? っと話はここまでにしましょう。私も忙しいですからね。さあ、魔王フレア。ここを死守できれば貴女をさらに強くしてあげますよ』


 その言葉を最後にローラッドの声は聞こえなくなった。代わりに先ほどまで一切感じ取れなかった瘴気が建物内に充満する。


 その瘴気は以前スカカイラ村で戦った時に感じたことのあるもの。ごくりと生唾を飲み臨戦態勢を取る少女たちの前で、漂う瘴気が収束しどす黒い球体になるとそこから見知った姿が異様な気配を纏って現れた。


 「フレア……!」


 「……前に言ったよね。次会ったら遠慮しないって」

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