――――――――――――――――
「そんなことが……で、でもその話からして結構気まづくない……ですか?」
「あはは……まぁ最初は気まづかったよ」
シルヴィの昔話を聞きながらも海上を飛んでいた二人。昔話といっても全てでは無いが、シルヴィとダイヤは昔仲が悪いというのが知れた。
そして仲違いして、ダイヤが去ってからしばらくしての再会。となれば普通は気まづいに決まっている。だが気まづかったのは最初だけだという。曰く、船に乗っていた時には既にシルヴィのことはわかっていたようで、表には出さないように。そして自分がダイヤであるとは隠して接触したのだという。
懐かしさからというのもあるが、本当にシルヴィがシルヴィであるのか。そして本人だとするならば昔と変わらず、独り善がりなのか。それだけを知りたかったのだ。
結果としてはそうではなくなったと判断し、今に至る。
「まぁ、私が抜けてから何があったのかは知らないし、あの頃のことをあまり思い出したくは無いからいいんだけどね。ただ少し話して彼女は変わったなって。あんなことがあってもなお私の事を仲間だと思ってくれてたんだし」
話しているうちに対岸が見えてくる。シルヴィの魔法のおかげかここまで来るのに何ひとつとして問題が起きないで済み、緊張感が少し抜けていた。
だが、ルーシャに限ってはもう一往復しなければならない。大丈夫と大口を叩いていたが、案の定体力があまり残っていない。
「やっぱり辛そうじゃん。全く自分の体力くらい自覚しておきなよ」
「うう……でも頑張り、ます」
陸にダイヤを置いてふらつきながらもシルヴィの元へと戻る。それから暫く息切れを起こし今にも墜落しそうなほどふらつき目を回しながらも、ダイヤの元にシルヴィを連れてきた。
「だから最初から無理だって言ってたのに……でもまあ渡れたから良しとするか。ただ少し休憩しようか……もう太陽も沈んでくるし」
「うう、すみません……私の体力がないばかりに」
「まあ最初から期待はしてなかったけど」
歩くのもやっとのルーシャを担ぎ、なるべく目立たない場所で土魔法の簡易な家を出現させその中で体を休ませることにした。ただ魔族は眠らない。そのためか真っ先に眠りについたのは嫌な過去を思い出しながら伝えたダイヤだった。
「あ、あの……ダイヤさんから昔のこと聞いたんですが、その、仲が悪かったんですか……?」
「あー……まあね。あの頃の私はみんなとすれ違ってばかりだったし……私は無駄な争いはしたくないの。人が死ぬことを人は悲しむように、魔族が死ぬことを悲しむ魔族もいる。だから私は争いを止めて魔族との仲を深めたいんだ。魔王を説得して和解したいってのもそういう理由なんだ。ってか昔のこと話したのかあ……だいぶ昔と違うでしょ私。驚いた?」
「まあ……凄く魔族に執着してるのかなとは」
「旅をする中で魔族を助けなきゃって必死になってたからね……師匠とも約束してたし」
「師匠?」
「魔族の師匠。その師匠がいたから魔族語とか瘴気の耐性がついたんだ」
眠気が襲ってくるまでシルヴィの過去の話で盛り上がる。結構な時間話し込んだシルヴィは過去を包み隠さずに語った。その内容はダイヤの話しよりも詳しくかつ、ダイヤが抜けたのち周りに合わせて瀕死の魔族を見捨てたり、魔族を逃がす際も見極めたりと彼女なりに成長と我慢を繰り返していたようだ。
そして気づけばシルヴィは夢の世界へと意識を傾け、いつしか朝日が昇った。
「あ、おはよう、ございます……」
「おはようルーシャ……相変わらずよく起きてられるよね」
「眠くならないので……」
「まるで機械とか魔法生物みたいだね」
「ま、魔族も魔法生物のうちだと思うのですが……?」
真っ先に起きたのは後に寝たはずのシルヴィ。ダイヤは隣でまだ眠りについていた。普段は朝早くに起きる彼女だが、彼女はドワーフ種。本来土に囲まれて生きている種族故に土に囲まれたこの場所がとても快適で体内時間が狂うほどに過ごしやすいのだ。
気持ちよく寝ているところ申し訳ないがこのままではいつまでたっても目的地に向かえない。そこでシルヴィはダイヤの身体を揺さぶる。しかし起きる気配はない。ならばと水魔法で作った水球を彼女に思い切りぶつけた。
攻撃用とは違いぶつかった瞬間に弾けて周囲に水を撒き散らす。もちろん術者であるシルヴィ、そしてルーシャはシルヴィが魔法で生成した障壁により水に濡れることはなかった。
一方ダイヤは水が苦手なドワーフ種。全身に水を被ったことで悲鳴をあげながら飛び起きて土小屋の隅で固まり、シルヴィを威嚇するウルフ種のように鋭い目で睨み唸っていた。