インフェルノドラゴンの炎のブレスを思わす熱線が、魔王崇拝者の後衛を焼き尽くした。
燃えるというか、一瞬で燃え落ちた、というべきか。その一定範囲内にいたモノを焼き、溶かした。
後衛の魔術師が、一気に全滅したことで、前、中衛の崇拝者たちが振り返った。夜の闇を照らすような赤々とした炎と、熱気に気づかないはずがなかった。
彼らは、後ろにいたはずの味方がきれいさっぱり消えていることに驚いた。カラス仮面をしていても、動揺が伝わる。
しかし何があったか想像できなかったが、俺が敵だってことはわかったようだ。何人かのカラス仮面が剣や槍を手に向かってきた。
「ダイ様、超装甲盾」
『ん!』
収納庫から、邪甲獣の装甲でできた超分厚いラージシールドが出てくる。俺はそれを左手に保持。うーん、こっちもしっくりくるねぇ。行くぞ、おら!
俺はダッシュブーツで加速、滑るように移動する。突っ込んできた敵が、逆に怯む。重装甲の騎士らしからぬスピードに戸惑ったのか?
「遅い!」
まずひとり! すれ違いざまに一刀両断。次の奴に、シールドバッシュ! 果物が壁にぶつかって潰れるが如く、崇拝者が吹っ飛ぶ。
右足で地面を蹴り、魔竜剣で両断。そこらの量産品の剣じゃあ止められないぜ。何せ、触れたら6万4000トンだからな。
容易く折れる金属剣。そのまま胴を一突き! 矢が飛んでくる。超装甲盾でガード。あまりの強度に矢が刺さりもしない。そのまま盾を構えて突進。次を構えようとした射手らが、びびって逃げる。じゃあ、いいや、そのまま前に固まっている奴らに切り込む!
ひと薙ぎ。魔王崇拝者の体が真っ二つになる、あるいはスライムのように飛んでいく。右へ左へ振るうだけで、まるで草を強引に刈るように崇拝者たちの集団を切り裂く。
崇拝者は二分された。
集落を襲っている前衛と、後ろに現れた俺に対する残りの者たち。
『主様ーっ!』
白銀のドラゴンの到着。フライパスしたディバインドラゴンの姿に、カラス仮面たちは戦慄する。
『来たか、小娘!』
ダイ様、小娘はやめたげて。翼を羽ばたかせれば、それだけで風が巻き起こる。俺の隣にズゥンと着地するディバインドラゴン。その背中からセラータが飛んできた。
「ヴィゴ様!」
「こっちでよかったのか? 俺しかいないぜ?」
「貴方に捧げたこの身。お傍におります、どんな戦場でも!」
炎竜の槍を構えるアラクネ騎士。メイド衣装の上に甲冑って以外と、意外に騎士らしく見える不思議。
「格好いいよ、お前」
ディバインドラゴンが吼えた。
『ここでわらわもブレスをお見舞いしてくれようぞ!』
『ストーップ! 集落が近い! ここでブレスなぞ使うな!』
ダイ様が怒鳴った。さっき、魔竜剣でインフェルノブレスを使ったけど、あれよりさらに集落に近づいているもんな。
オラクルセイバーの変化した神聖竜のブレスがどんなものか俺は知らないけど、ダイ様が止めたということは、そういうことなんだろう。
「ダイ様、盾、戻すわ。――オラクル!」
超装甲盾を手放す。ドスンと地面に落ちた盾は、ダイ様の収納庫に消えた。そして白銀のドラゴンの姿もまた剣に変わり、俺の左手に収まった。
「切り込むぞ、セラータ!」
「はい、ヴィゴ様!」
――っと!? 踏み込もうとしたら、無数の矢が飛来した。矢? 十数本の光をまとった矢が、横合いから魔王崇拝者たちに降り注いで、バタバタとなぎ倒した。
何事かと見れば、弓を構えた黒髪ポニーテールの少女弓使いと、ドゥエーリ族の少女戦士たちがいた。
「ユーニか!」
ルカとシィラの妹の。彼女は、空に向かって矢を放つ。するとそれは光に包まれ、一本が十数本に分離した。矢の雨が、またしても十人近くの崇拝者を打ち倒す。
「やるなぁ……。ま、見てるだけってわけにもいかないが」
矢の出所であるユーニを排除しようと、敵が動いた。だが、そうはさせんよ――!
オラクルセイバーの聖剣乱舞。空を切る斬撃が刃となって飛び、崇拝者たちを切り刻む。そしてセラータも槍を振るえば、数個の火球が発生して敵へと飛翔、吹き飛ばした。
子供たちの捜索に出ていたドゥエーリ族の女たちが、次々に戻ってきて、戦いに加わる。鬼気迫る勢いでクレハさんとナサキさんが現れ、崇拝者たちを倒していく。
もはや崇拝者たちに勝ち目などなく、俺たちが来た時、100近くいた魔王崇拝者たちは、逃亡したわずか数名以外、全滅した。
・ ・ ・
「この度は、何とお礼を言えばいいのか」
クレハさんが深々と頭を下げれば、ナサキさんもそれに倣い、コスカさんが慌ててそれに真似た。
「子供たちを無傷で助けていただいた上に、集落まで守っていただき、ありがとうございました」
「いえ、大事にならなくてよかったです」
……ルーディとサシータは、ちょっとかすり傷程度の怪我はしていたんだけどね。
ディーが回復魔法を使って治したから無傷に見えるけれども。
「相手は、魔王崇拝者でした」
俺は、子供たちをさらった者たちの正体と、その連中が集落を襲おうとしていたことを知り、行動した経緯を説明した。
クレハさんとナサキさんが顔を見合わせた。
「魔王崇拝者どもが、この近くにアジトを持っていたとは……」
「いつからかしら……?」
「わからんな。我々も、あの辺りには普段近づかないようにしていたからな」
うーん、と腕を組みながら、ふたりして難しい顔をしている。その横でコスカさんだけ、わかっているのかわかっていないのかわからない顔をしている。
「何人か逃げたわね」
「こちらに仕掛けてきたのだ。しかも相手は魔王を復活させようとしている連中だろう? ここは完全に叩き潰すべきだと思う。またこちらに手を出してこないとも限らん」
「そうね……」
ナサキさんの言葉に、クレハさんは頷いた。
「私たちの子供に手を出したんだもの。……許せないわよね? ここにいないけど、男たちもきっと報復を叫んだと思う」
俺は背筋が冷えた。さすが戦闘民族のドゥエーリ。その圧倒的戦意の高さには性差などなかった。