集会場は制圧した。俺が檻を破壊したら、捕まっていた少女たちが、それぞれ出てきて、駆け寄ったシィラに抱きついた。
「シィラ姉ちゃん!」
「あぁ、無事だったか、ルーディ、サシータ! よかった」
わんわん泣く少女たち。やっぱ、魔王崇拝者なんて怖い連中に捕まってショックだったんだろうな。ドゥエーリ族の子供って聞いていたけど、なんか普通。
「怪我はしていないな?」
「……うん。ちょっと擦り傷とか」
「叩かれたくらい」
何てこった。そう思ったのは聞いていた俺だけじゃなかったようで、シィラはディーを呼ぶと、回復魔法を頼んだ。
俺はその間、辺りを見回す。集会場周りにいた崇拝者は全滅した。気になる横穴からは誰も出てこない。
それなりに音もしたんだけど、様子を見に来る様子がないのは、本当にお留守なのか。それならそれでいい。
「撤退しよう。ここからおさらばしようぜ!」
「アニキ、ここはこのままでいいんですか?」
カバーンが聞いてきた。彼の手甲には、殴り殺した崇拝者の血がついている。
「集落の近くに、こんなヤバイ奴らのアジトがあるのはよくないですよ。連中がいないうちに、使えないようにぶっ壊すべきっス!」
「……いや、今は脱出優先だ」
せっかく少女たちを保護したのに、ここでもたついているわけにはいかない。
「外に出ている連中が大勢で戻ってきたら、こちらは袋のねずみだ」
「あ、外――」
少女のうちのひとりが声を上げた。
「大変だよ、シィラ姉ちゃん! あの鳥のお面のヤツラ、集落を襲うつもりなんだ!」
「何だって!?」
シィラだけでなく、聞いていた全員が驚いた。
「本当なのか、ルーディ?」
「うん、ヤツラ話してた。もっと生贄がいるって! だから――」
ここの連中がお留守なのは、ドゥエーリ族の集落を襲うためだったわけだ。なんという行き違いよ。
「なら、さっさと集落へ戻るぞ。ここのことは、全て終わってからだ!」
俺たちは、元来た道を引き返す。今、ドゥエーリ族の集落は、ルーディとサシータの捜索で手薄。リベルタの残り組が警戒しているが、つまり、その仲間たちも危ないってことだ。
急ぐぞ、この野郎!
・ ・ ・
洞窟アジトを出て、森の中を俺たちは進む。捜索の段階では遠回りした格好なので、集落の方向まで最短距離で向かう。
地元民であるシィラとカバーンが先導するので、早い早い! というか――
「ちょ、あんたたち、速過ぎぃ!」
ラウネとイラ、ネムが若干遅れ気味だ。シィラとカバーンが飛ばしすぎというのもある。
あ、というか、もっと手っ取り早い方法あるじゃん。
「ダイ様、ダークバード!」
『ほいよ!』
魔剣が使い魔を召喚する。こいつに乗っていけば、森の中を走らなくてもいい! ラウネがゼェゼェと肩で息をした。
「あるなら、もっと早く、出しなさい、よ……!」
ディーに抱えられて、ダークバードの背に乗るラウネ。セラータが俺を見る。
「すみません、ヴィゴ様。私は闇鳥には乗れません」
アラクネである。乗るだけならともかく、飛行する際、大きな下半身のせいで、しがみつくことができない。かといって足の先で使い魔の背中を突き刺すわけにもいかず――
『ならば、わらわが乗せてやるわ』
神聖剣が俺の手から離れると、白銀に輝く鱗を持つドラゴンの姿に変化した。ドラゴンブラッドで竜化を得たオラクルの能力である。ドラゴンの巨体ならば、ダークバードよりも背中は広い。
『どの道、しがみつけないことには変わりないが、かわりにゆっくり飛んでやる。主様たちは先に行くがよい』
「場所はわかるか?」
『空から行けば、集落などそのうち見つかるわ」
「任せた」
今は急ぎたいから、それがベストだろう。俺はダイ様の操るダークバードに乗り、仲間たちと共に飛び上がった。
トントの森のすぐ上を、かすめるように飛ぶ。木の先端に引っかけないように、注意して飛んでほしい。
「……ん?」
水滴が顔についた。というか、雨が降ってる? そこそこ強い雨が降ってきた!
「ダイ様!」
「これくらいなら問題ない! 少しくらいならな」
空を飛ぶから早い。体が雨に濡れるのも構わず一直線。……と、雨が弱まった。通り雨?
「見えた!」
ダイ様の声に、俺は正面に向き直る。水気を含んだ森の匂いに交じり、何か焼けたような臭い。
ドゥエーリ族の集落は――入り口付近で戦闘になっていた。
空からでもカイジン師匠とベスティア、そしてルカの姿がよく見えた。戦っている相手はカラス仮面の集団――魔王崇拝者たちだ。
やっぱりこっちに来ていた。崇拝者たちの他に魔獣なども含まれているが、それらをリベルタのメンバーたちが迎撃している。
「ようし、俺たちもやるぞ!」
俺は、ダイ様に他のダークバードを集落へ下ろすように指示。助けたルーディとサシータを送り届けないとな。
「我らはどうするのだ、主よ?」
「俺たちは、敵の後ろに降りて大暴れと行こう! 挟み撃ちだ!」
「いいな、気に入った! 今ならあの神聖剣の小娘もおらん。我の独壇場だ!」
あ、そうか。いま俺の手元にあるのって魔竜剣だけか。……まあ、いいか。最初は魔剣一本だったもんな。
「行くぞ、主!」
「おう!」
ダークバードは急降下。ダイ様が魔竜剣に変化し、俺の手に。そして俺は使い魔から飛び降りて着地!
カラス仮面の崇拝者――その後ろのほうにいた連中が、一列に並び、集落のほうへ魔法を飛ばそうとしていた。
「そうはさせん!」
『ヴィゴ、新技をゆくぞ!』
新技――? お、おう、これか。頭の中にイメージが流れ込んできたわ。腕に魔力を流して、魔竜剣に注ぐ。その刃が熱を帯びるようにオレンジ色に発光!
「行くぞっ! インフェルノブレス――!」
地獄竜の業火が、剣先より迸った。