魔王崇拝者のアジトらしい洞窟内に、開けた空洞があって、そこに集会場があった。
奥にあるのは魔王だろうか? 化け物の王様のような大きな石像が置かれていた。
俺たちは洞窟通路から出ないように注意しつつ、周囲を確認する。
「結構、広いな……」
「この高さに一階層。もう一段下に一階層」
ラウネも覗き込む。
「横穴がいくつもあるわね。左右に4、5ずつ……。崇拝者たちの個室かしらね」
「これだけ見ると、人数が多そうだ」
もっとも、今見える範囲だと、数えるほどしかいないが。横穴の先がどうなっているかわからないが、ラウネの言う通り信者たちの部屋だったりしたら、それなりの人数がいるかもしれない。
「構うものか」
シィラが、すでに目が据わっていて、カバーンも頷いた。
「やりましょう!」
「待て。子供たちの安全が最優先だ」
魔王崇拝者の始末は、その後でもいい。それで、肝心のドゥエーリ族の子供たちだけど……。
「上か」
天井近くに吊り下げられた鉄檻がいくつにあって、その中に少女が二人……。どちらかがルーディで、どちらかがサシータだろうか?
「見つけたぞ、ヴィゴ。早く助けに行こう!」
逸るシィラである。もう少し待て。特に儀式とか始まっている様子もない。どう助け出すのが安全か、考える時間はある。
この通路を出ると左右に分かれて、奥のほうで下に降りる階段がある。その階段のすぐそばに、魔王像のある祭壇だ。吊されている檻を下に下ろすためには、下の集会場に行く必要がある。
「下に降りる階段まで、どちらを行っても横穴があるわ」
ラウネが眉をひそめた。
「少し手間だけど、横穴を確認したほうがいいんじゃないかしら? 敵がいるなら倒しておけば、もし手荒な脱出が必要になった時、退路の安全の確保にもなるし」
「手間だが、仕方ないな」
敵がいるのに素通りしたら、帰る時に妨害されるかもしれない。集会場に最低限しか人がいないところを見ると、他の者たちは出払っているか、部屋で休んでいると見るのが普通だろう。外はもう夜だし。
「セラータとイラは、ここで退路の確保。残りは右側の通路沿いに移動して、横穴の先を制圧。ただし横穴の規模がわからないから、通路が長そうなら放置。もし部屋だったなら、そこにいる敵を始末する……いいな?」
頷く仲間たち。ディーが小さく挙手した。
「左側の横穴はどうします? 確認しないんですか?」
「……リーリエ、悪いが左側の横穴を軽く偵察してくれないか。危なくなったら、俺のところに転移してこい。下の連中に気づかれないようにな」
「わかったわ」
フェアリーが通路を出た。左に行く小妖精。俺たちは右の通路だ。落下防止用の壁があるので、姿勢を低くすれば下にいる者たちからは見えない。
静かに移動。まず最初の横穴の前に到着。無視して前を通れば、階段までそんなに掛からないんだけど。カバーンが壁に張り付いて、横穴を覗き込む。
「アニキ、中に人の気配は感じられないっス。物音ひとつしない」
獣人の感覚で、中の様子を感じ取っているようだ。
「お留守ってことか。カバーン、シィラ、確認しろ」
ふたりは横穴に素早く入り込んだ。俺たちは周囲に気を配る。ふとディーが上を見ているので、俺もそちらに目をやると――檻の中の少女と目があった。
彼女たちは、俺たちが入ってきたのに気づいたのだ。下からは見えないが、上からは丸見えだったかもしれない。
「しー……」
俺は口元に指を当てて、静かに、とジェスチャーを送る。すぐ助けるから、少し待ってろ。
「ヴィゴ」
シィラとカバーンが戻ってきた。
「崇拝者の複数人部屋だった。誰もいなかった」
「この場合は、いないのはいいのか悪いのか」
アジトにいないっていうことは外にいるってことだろう? 洞窟を出たところで鉢合わせってのも嫌だぞ。
「次へ」
俺たちは、慎重に進み、隣の横穴も確認。やはりここも不在。次の横穴でとりあえず、二階の右の確認は終わる。
と、そこへリーリエが俺の肩の上に戻ってきた。
「ヴィゴ、左側の横穴見てきたよ。全部、誰もいなかった!」
「ご苦労さん」
となると、あとは一階横穴にいなければ、集会場にいる数人しかいないってことになる。それだけだったら、わっと攻めて終わらせることもできる。
「アニキ、ここも空っぽ」
カバーンが最後の二階左の横穴も無人だったことを報告した。よし、それなら――
「下が未確認だが、集会場にいる奴らの目があるから、こっそり1階の横穴を探るのは無理だ。というわけで、ここから一気に攻め立て、ふたりを救出する」
待ってました、という顔をするシィラ。ラウネは首を傾けた。
「いいの? 下には結構人がいるかも。たとえば食堂でお食事中とか」
「なら、余計に食っている間に済ませてしまおう」
俺が気にしているのは、留守の連中がアジトの外にいる場合だ。ここの規模からして、結構な人数がいるはずだが、そいつらがアジトに戻ってきたら、俺たちは退路を失ってしまう。
「リーリエ。イラとセラータに、下の連中の注意を引くように言ってくれ。そいつらがそっちを向いている間に、俺たちが飛び出して、始末する」
フェアリーが飛び去り、俺たちは音を立てないよう静かに石の階段を下る。集会場にいる崇拝者は6人、か。奥の3人が道具の整理。手前の3人は、吊るし檻を時々見上げているので、見張りだろう。
さて、イラたちは――と、セラータが二階部から下へ飛び降りた。着地の音に、近くにいた魔王崇拝者が振り返り――
「こんばんは」
炎竜の槍が崇拝者を貫いた。集会場周りにいた残り5人が、それに気づき、ある者はアッと声を上げた。
「行くぞ!」
俺たちは立ち上がり、階段を飛び降りると、残っている崇拝者たちへとそれぞれ走った。
「敵――」
言いかけた崇拝者が、ネムの放った矢で射貫かれる。さらにイラも長銃を使い、ひとりを射殺した。シィラとカバーンも、残る敵に突撃。
俺はというと、天井近くに吊されている檻の真下へダッシュブーツで移動。左手で神聖剣を取り、1階から檻をぶら下げている鎖の一本を光刃を飛ばして切断!
「あっ!?」
上から落ちてきた檻を、右手を挙げてキャッチ! 持てるスキルのおかげで、鉄の檻でも潰されずに済む。
持ち上げた檻を近くに置いて、もうひとつの檻の下へ行きつつ、鎖を切断。落下してきた檻も受け止める。これも床に置いたら救出完了――鍵? そんなもの壊す!
右手に魔竜剣を持って、ダイレクトアタック。今度こそ、救出!