白獄死書ことハクは、魔術本であるが、人型になって、リベルタのメンバーと顔合わせをした。
ラウネだったり、カバーンだったりとメンバーが増えたところで、正体が魔術本という怪しい存在なハクだが、仲間たちと案外打ち解けるのは早かった。……ラウネというアウラ2号が同時に紹介され、驚きの半分が喰われたこともあるけど。
ニニヤがSランク魔術師になったことも驚きだったが、その要因となったのが、ハクがかなり影響していたことも、彼が受け入れられた一因でもあった。質問すると、助言で答えてくれるから、と。
「――で、ルカとシィラは?」
「オレの本の中で修行中」
ハクは右手に、黒い魔術本を出すと、ページをペラペラと見せる。……シィラとルカが、ドラゴンと戦っている。
「へぇ……俺やニニヤが入っていた時も、こんな風になっていたのか?」
「そうなるね」
ハクは机に、自分の分身でもある白獄死書を置いた。
「ニニヤがSランクになったことで、自分たちももっと強くなりたいって志願してきたんだよ」
「ルカとシィラは強いぜ?」
「キミやニニヤには敵わないよ」
ハクは淡々と返した。
「間近でキミたちの強さを見ていればね、そりゃ焦りもするさ。……これから向かうラーメ領だっけ? 戦いはなお厳しくなるのは、予想されているからね」
「……大丈夫なのか?」
その、本の中の修行で命を落としたりとかは――
「さすがにね。その辺りオレだって空気は読んでいるつもりだよ。でも、下手を打てば、大怪我するかもしれない。できるだけケアはするけど」
強くなりたい、と腕を磨くのを止めるわけにもいかない。強くなろうと努力するのは、皆やっていることだ。むしろ熱心だと彼女たちを褒めるところだろう。無理だけはしてほしくないけど。
「それで、彼女たちに用があったのかい、ヴィゴ?」
「用っていうか、ドゥエーリ族の集落の場所を俺は知らないから、道案内をお願いしようと思っていたんだ。……修行で忙しそうだけど」
「カバーンに頼みなよ。彼なら喜んで道案内してくれるよ」
「そうする」
彼女たちが駄目なら、カバーンに聞くつもりでいたし。俺はハクと別れると、カバーンを探し――カイジン師匠から格闘術の特訓を受けていた。
集落の案内を頼めば、ハクの言う通り、カバーンは案内を喜んで買って出た。
・ ・ ・
ダイ様のダークバードに乗り、俺たちは王都から南西方向へ飛び立った。
俺とダイ様で1羽。メントゥレとカバーンで1羽だ。何故、神官長殿が乗っているかと言えば、お空の旅をしたかったかららしい。
なおカバーンは高所はあまり得意ではないらしく、メントゥレに後ろから抱きついていた。
しばらく飛んで日が傾く頃、荒野の先に森が見えてきて、そのすぐそばに円形の集落が見えてきた。
木の柵に囲まれた集落。その建物はすべて天幕だった。
「へぇ……。ドゥエーリ族って、遊牧民みたいな移動民族なんだ」
建物が移動できるテントっていうのがね。そこでダイ様が口を開く。
「どうかな。天幕はそうだろうが、周りの柵を見る限り、ここしばらくは動いていないようだな」
「……かもな」
魔獣除けだろうが、結構高さがある。狼などでもジャンプして飛び越えるのは難しそう。しかし……。
「何か、集落の動きが活発なような……」
ボークスメルチ氏の話じゃ、今は男衆が討伐軍に参加しているため、ほとんど女子供ばかりだと聞いているが……。
「降りるぞ」
「集落から離れたところに降りてくれ。……敵だと思われて撃たれても困る」
何せ相手は、戦闘民族だ。迂闊に近づいたら、強弓でズドンの可能性もある。
「ドゥエーリ族は体格がいいからな。弓も長射程だろう」
「ルカでさえアレだからなァ」
ダイ様が愉快そうに笑った。そうだとも、女子供しかいないでも、そこらの雑兵より強いだろう。
ドゥエーリ族集落より離れた場所に、ダークバードはヒラリと降り立つ。もう1羽の闇鳥から、メントゥレとカバーンが降りる。
「大丈夫ですか、カバーン君?」
「膝がガクガクしてる……」
獣人少年は相当、緊張して乗っていたようだ。まだ震えているところ悪いがな、カバーンよ。
「ちょっと集落まで行って、俺たちがそちらを訪ねていいか聞いてこい。……そうそう、ルカとシィラも一緒に帰ってきたって言うのを忘れるな」
「わかりました、アニキ! では行きますっ!」
カバーンはタタタっ、と足早に駆けて行った。……さて、向こうと話がつく前に、ルカとシィラが、魔術本の中から戻っているといいが。
「大丈夫でしょうか?」
メントゥレが小首を傾げた。集落の話か?
「さあ、どうかな。何か騒ぎになっていないといいけど……」
集落のほうを改めて眺めた時、肩に気配を感じた。
「リーリエ」
「ヴィゴったら、反応はやーい!」
定着の魔法で、突然現れる小妖精さん。気配でわかるぞ。
「ついた?」
「ああ。カバーンに遣いを頼んだ。ルカとシィラを呼んできてもらっていいか? 本から戻ってきてるかは知らないが」
「はーい!」
出てきて早々に、妖精の籠のほうに引っ込んだ。
待つことしばし、カバーンが集落から出てきて走ってきた。そんな全力で走らなくてもいいんだぞー!
「アニキ!」
「どうした、そんなに慌てて」
お断りされたのか? 訝っているのをよそに、カバーンは答えた。
「集落にきてもいいが、いまちょっと取り込んでいるそうです」
「何かあったのか?」
「ちょっとした騒動が……。いえ、大したことかはわからないんですが」
子供がふたり、行方不明だそうで――