カイジン師匠とゴムがいるセッテの町に戻ると、まず違和感があった。
それが何なのかはすぐにわかった。前見た時にはなかった大きな建物が町中にあったからだ。通りに面した正面にふたつの尖塔。教会のシンボルが刻まれた壁面……。
「教会……? 聖堂?」
周囲の崩れた建物の中にあって、非常に目立っていた。レヴィアタンの攻撃で、建築物にも損傷が少なくないが、ほぼ無傷で建っている。
「カイジン師匠!」
『うむ、ヴィゴよ。来たか』
ベスティア2号ボディのカイジン師匠は、瓦礫を足場に聖堂を眺めていた。近くにはゴムとその分身体が複数いて、同じく建物を見ている。
『その様子だと、レヴィアタンは倒したようだな』
「ちょっと予定と違いますが」
俺は苦笑しつつ、例の建物を見た。
「あれは何です?」
『見ての通り聖堂だ。どうやら結界で姿を隠していたらしい』
仁王立ちのカイジン師匠。アウラやシィラも、現れた聖堂を見やる。
「あー、言われてみれば、あの聖堂見たことあるわ。昔のことで忘れてたけど」
ドリアードの魔女も、前世ではここに来たことがあったらしい。ネムも目を細める。
「でっかーい」
「どうして見えるようになったんです?」
ルカが聞けば、カイジン師匠は言った。
『おそらく、レヴィアタンの攻撃が町に来た時に、結界がダメージを受けたせいだろう。あの威力だ。隠蔽の魔法など消し飛んでしまったのだろうよ』
「隠していたってことは、あそこにアンデッドを作り出したネクロマンサーとかがいる可能性も……」
俺が言えば、ヴィオも腕を組んだ。
「だろうね。隠している意味を考えると、まだいるんじゃないかな?」
『ネクロマンサーを仕留められれば、セッテの町を彼奴らの手から取り戻すこともできよう』
「じゃあ、行きましょうか」
アウラが促した。
「結界を直されたらまた面倒だし」
ということで、俺たちはセッテの町の聖堂へと近づいた。入り口をベスティアとゴムの分裂体に固めてもらう。
「セラータ」
「はい!」
「聖堂の屋根まで飛べるか?」
アラクネの跳躍力で行けるか確認してみる。セラータはすっと上を見上げて、俺に視線を戻した。
「行けます!」
「人を乗せては大丈夫か?」
「はい!」
「よし、イラを連れて屋上へ上がって、周囲の警戒を頼む。俺たちが中に入っている間に、敵と入れ違いになったりとか、また何か化け物が来たとか知らせてくれ」
「わかりました!」
返事が大変よろしいな。騎士とかメイドさんとか、とにかく仕えている人間に対してハキハキ答えている感じ。何か気分よくなるのは、元気よく返してくれるからかな。
イラを蜘蛛の部位に乗せて、セラータは大跳躍で聖堂の上へと上がっていった。
俺も聖堂の中に入る。
奥行きがあって、天井も高い。一部損壊があって、天井が崩れたか、瓦礫が落ちているところもある。
吹き抜けの天井、二階部分があって、その通路から下が見えるようになっている。上からクロスボウとか魔法で狙われるとやっかいだな。セラータはこっちで残しておいたほうがよかったか……?
マルモがガガンを上方へと構えている。彼女も上からを警戒しているのだ。俺は近くを浮いているリーリエを見た。
「ちょっと上を見てくれ」
「わかった。あーしに任せて!」
小妖精がひゅんと風のように飛んでいく。偵察にはうってつけだよな、彼女。危なくなったら定着の魔法で俺のところに飛んでこれるし。
カイジン師匠とシィラが先導し、聖堂の奥へと進む。適度に散開して、敵の攻撃魔法などでまとめてやられないように注意する。そろそろ日が傾いてきて、いま差し込む日差しで聖堂内はまぶしくなるが、それも直に夜となるだろう。
「……おっと」
シィラが魔法槍を構えた。
「どうやらお出迎えのようだぞ、ヴィゴ」
聖堂の奥。祭壇の周りに、ベスティア並の体格の騎士が立っていた。四人……それとも四体か? これもマシンドールだったりするのか?
最初は鎧飾りのようにも見えたが、城じゃないんだ。聖堂にそんな騎士像なんてあるわけない。
「ここのガーディアンか?」
長剣を手に大騎士が進んでくる。迎え撃つ!
先陣を切ったのはカイジン師匠だ。大騎士が振り上げた長剣は、するりと空を斬った。カイジン師匠の白騎士は、すでに敵騎士の後ろに抜けていた。
『体は大きくとも、動きが単調過ぎる!』
魔断刀によって、大騎士は一刀両断である。
「オラクル!」
俺も神聖剣を振るう。敵の間合いより遠くから、風の一撃がその頭を吹き飛ばした。しかし、まだ動く! やはり人間ではなく、マシンドールとかゴーレムの類いか!?
あるいはアンデッドかも。二回、三回とオラクルセイバーを振れば、光、雷の斬撃が繰り出され、腕や胴を両断した。
これ技になりそうだな。七つの聖剣を飛ばして切り裂く技はあるが、あれの派生パターンとして。
シィラも大騎士と撃破。残る1体は、カイジン師匠が仕留めていた。
中衛として備えていたアウラが口を開く。
「まさか、これで終わりじゃないわよね?」
結界で隠すという手間をかけた聖堂が、この程度で終わるはずがない。アンデッドを操っていたネクロマンサーなり、セッテの町を制圧していた奴がいると思ったのだが。
「だとしたら拍子抜けだね」
ヴィオが肩をすくめる。ディーが鼻をひくつかせた。
「でも、臭うんですよね……。こうアンデッド臭が」
「まだどこかに、敵がいるってこと?」
アウラが頭上を見上げた。
「リーリエ! 何か見つけた?」
「なーんも! 上にはなーんも居ないよー!」
小妖精がぶんぶんと首を振った。俺はディーへ視線をやる。
「臭いは全体から? それともどこかから?」
「祭壇のほうから」
白狼族の治癒術士は指さした。俺たちは奥である祭壇に近づく。特に変わった様子はないが……。シィラが注意した。
「ネム、気をつけろよ」
「フムフム、フーム――」
ペタペタと祭壇周りを触りながら、歩いたネムがふと立ち止まった。
「ヴィゴにぃー! たぶん、ここ地下に行けまーす!」
隠れ地下への階段を、ネムは発見した。