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第198話、隠されていた建物


 カイジン師匠とゴムがいるセッテの町に戻ると、まず違和感があった。


 それが何なのかはすぐにわかった。前見た時にはなかった大きな建物が町中にあったからだ。通りに面した正面にふたつの尖塔。教会のシンボルが刻まれた壁面……。


「教会……? 聖堂?」


 周囲の崩れた建物の中にあって、非常に目立っていた。レヴィアタンの攻撃で、建築物にも損傷が少なくないが、ほぼ無傷で建っている。


「カイジン師匠!」

『うむ、ヴィゴよ。来たか』


 ベスティア2号ボディのカイジン師匠は、瓦礫を足場に聖堂を眺めていた。近くにはゴムとその分身体が複数いて、同じく建物を見ている。


『その様子だと、レヴィアタンは倒したようだな』

「ちょっと予定と違いますが」


 俺は苦笑しつつ、例の建物を見た。


「あれは何です?」

『見ての通り聖堂だ。どうやら結界で姿を隠していたらしい』


 仁王立ちのカイジン師匠。アウラやシィラも、現れた聖堂を見やる。


「あー、言われてみれば、あの聖堂見たことあるわ。昔のことで忘れてたけど」


 ドリアードの魔女も、前世ではここに来たことがあったらしい。ネムも目を細める。


「でっかーい」

「どうして見えるようになったんです?」


 ルカが聞けば、カイジン師匠は言った。


『おそらく、レヴィアタンの攻撃が町に来た時に、結界がダメージを受けたせいだろう。あの威力だ。隠蔽の魔法など消し飛んでしまったのだろうよ』

「隠していたってことは、あそこにアンデッドを作り出したネクロマンサーとかがいる可能性も……」


 俺が言えば、ヴィオも腕を組んだ。


「だろうね。隠している意味を考えると、まだいるんじゃないかな?」

『ネクロマンサーを仕留められれば、セッテの町を彼奴らの手から取り戻すこともできよう』

「じゃあ、行きましょうか」


 アウラが促した。


「結界を直されたらまた面倒だし」


 ということで、俺たちはセッテの町の聖堂へと近づいた。入り口をベスティアとゴムの分裂体に固めてもらう。


「セラータ」

「はい!」

「聖堂の屋根まで飛べるか?」


 アラクネの跳躍力で行けるか確認してみる。セラータはすっと上を見上げて、俺に視線を戻した。


「行けます!」

「人を乗せては大丈夫か?」

「はい!」

「よし、イラを連れて屋上へ上がって、周囲の警戒を頼む。俺たちが中に入っている間に、敵と入れ違いになったりとか、また何か化け物が来たとか知らせてくれ」

「わかりました!」


 返事が大変よろしいな。騎士とかメイドさんとか、とにかく仕えている人間に対してハキハキ答えている感じ。何か気分よくなるのは、元気よく返してくれるからかな。


 イラを蜘蛛の部位に乗せて、セラータは大跳躍で聖堂の上へと上がっていった。


 俺も聖堂の中に入る。


 奥行きがあって、天井も高い。一部損壊があって、天井が崩れたか、瓦礫が落ちているところもある。


 吹き抜けの天井、二階部分があって、その通路から下が見えるようになっている。上からクロスボウとか魔法で狙われるとやっかいだな。セラータはこっちで残しておいたほうがよかったか……?


 マルモがガガンを上方へと構えている。彼女も上からを警戒しているのだ。俺は近くを浮いているリーリエを見た。


「ちょっと上を見てくれ」

「わかった。あーしに任せて!」


 小妖精がひゅんと風のように飛んでいく。偵察にはうってつけだよな、彼女。危なくなったら定着の魔法で俺のところに飛んでこれるし。


 カイジン師匠とシィラが先導し、聖堂の奥へと進む。適度に散開して、敵の攻撃魔法などでまとめてやられないように注意する。そろそろ日が傾いてきて、いま差し込む日差しで聖堂内はまぶしくなるが、それも直に夜となるだろう。


「……おっと」


 シィラが魔法槍を構えた。


「どうやらお出迎えのようだぞ、ヴィゴ」


 聖堂の奥。祭壇の周りに、ベスティア並の体格の騎士が立っていた。四人……それとも四体か? これもマシンドールだったりするのか?


 最初は鎧飾りのようにも見えたが、城じゃないんだ。聖堂にそんな騎士像なんてあるわけない。


「ここのガーディアンか?」


 長剣を手に大騎士が進んでくる。迎え撃つ!


 先陣を切ったのはカイジン師匠だ。大騎士が振り上げた長剣は、するりと空を斬った。カイジン師匠の白騎士は、すでに敵騎士の後ろに抜けていた。


『体は大きくとも、動きが単調過ぎる!』


 魔断刀によって、大騎士は一刀両断である。


「オラクル!」


 俺も神聖剣を振るう。敵の間合いより遠くから、風の一撃がその頭を吹き飛ばした。しかし、まだ動く! やはり人間ではなく、マシンドールとかゴーレムの類いか!?


 あるいはアンデッドかも。二回、三回とオラクルセイバーを振れば、光、雷の斬撃が繰り出され、腕や胴を両断した。


 これ技になりそうだな。七つの聖剣を飛ばして切り裂く技はあるが、あれの派生パターンとして。


 シィラも大騎士と撃破。残る1体は、カイジン師匠が仕留めていた。


 中衛として備えていたアウラが口を開く。


「まさか、これで終わりじゃないわよね?」


 結界で隠すという手間をかけた聖堂が、この程度で終わるはずがない。アンデッドを操っていたネクロマンサーなり、セッテの町を制圧していた奴がいると思ったのだが。


「だとしたら拍子抜けだね」


 ヴィオが肩をすくめる。ディーが鼻をひくつかせた。


「でも、臭うんですよね……。こうアンデッド臭が」

「まだどこかに、敵がいるってこと?」


 アウラが頭上を見上げた。


「リーリエ! 何か見つけた?」

「なーんも! 上にはなーんも居ないよー!」


 小妖精がぶんぶんと首を振った。俺はディーへ視線をやる。


「臭いは全体から? それともどこかから?」

「祭壇のほうから」


 白狼族の治癒術士は指さした。俺たちは奥である祭壇に近づく。特に変わった様子はないが……。シィラが注意した。


「ネム、気をつけろよ」

「フムフム、フーム――」


 ペタペタと祭壇周りを触りながら、歩いたネムがふと立ち止まった。


「ヴィゴにぃー! たぶん、ここ地下に行けまーす!」


 隠れ地下への階段を、ネムは発見した。

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