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第190話、備えは必要


 俺たちリベルタはセッテの町から離れた場所に、仮拠点を設置した。


 以前、アウラとニニヤが作っていた野外用仮設建物を建てる。町が遠くに見えるが、万が一こちらに敵が攻めてきても、平原なので、数がいようとも一掃できる。……見張りは必要だけどな。


 全員が外にいる必要はなく、大半は妖精の籠内のセカンドホームで休養がとれる。


 ダイ様の飛ばしたダークバードの偵察によると、まだセッテの町にはアンデッドが徘徊しているという。


「だが我らが飛び込む前と比べると、倒した分だけ減っている印象だな」

「つまり、補充されてないってことか」

『アンデッドにするための死体がないのやもしれぬ』


 カイジン師匠が指摘した。スケルトンにしろゾンビにしろ、新たな犠牲者がいなければ増えることはない。


 アウラが口を開いた。


「敵に増援がなければ、このまま削りに徹していればいずれは――」

「町を奪回するのも可能だな」


 俺はカイジン師匠――ベスティア2号へと視線を向ける。白騎士甲冑は頷いた。


『町のアンデッドに組織だった動きは見られなかった』

「習性で襲ってくる感じだったわね」

『左様。しかしあれだけのアンデッドがいるのだ。どこかにそれを操る術者がいるはずだ』


 カイジン師匠の指摘に、アウラは視線を回した。


「よほど汚れた土地でなければ、住人や兵士があれだけの数アンデッド化するなんてあり得ない。ネクロマンサーがいるか、あるいはいたはずね」


 ネクロマンサー――死霊使い。死体をアンデッドにして操る魔術師だという。俺は首を振る。


「いるか、いたかも?」

「死体だけアンデッド化したら、別に留まる理由もないからね。作るだけ作って放置したかもって話よ」


 町のアンデッドたちの行動が単調過ぎて、指揮をするようなネクロマンサーなどの影が見えなかったのも、アウラにそう言わせた。


『ヴィゴ』

「なんです、師匠?」

『わしとベスティアで、町に乗り込みアンデッドどもを狩ってこよう。生身のお前たちと違い、わしらの体は疲れ知らずだ』


 カイジン師匠は胸を張った。


 マルモが見たところ、マシンドールはあれだけ動き回っても消耗している様子もなく、外装もサタンアーマー素材なのか無傷。確かに生身の人間とは比較にならないほど動き回り、戦い続けることができるだろう。さすが、古の技術……。


「了解です、師匠。ついでに、ゴムも連れていってもらっていいですか?」

『黒スライムをか?』

「敵を取り込んで、増殖します。以前、ノルドチッタをスタンピードが襲った時に――」


 俺は、カイジン師匠に、町に入り込んだゴブリン軍団をベスティアと共に食い散らかしたゴムの活躍を説明した。……増えたゴムの分裂体は、その後、俺たちリベルタメンバーの装備になりましたとさ。


『なるほど、そういうことならば、ぜひ手を貸してもらおう』


 カイジン師匠は同意した。ということで、俺は、ベスティアとゴムを呼んだ。


 ノルドチッタでやったように、セッテの町の敵を排除しろ。


『承知しました、我が主』

『わかったー』

「頼んだぞ。カイジン師匠の指示に従って行動しろ。何かあれば師匠に報告だ」


 では、師匠――俺が頷くと、カイジン師匠は町へ視線を飛ばした。


『ではゆくぞ! ベスティア、ゴム、ついてこい!』


 マシンドールと黒スライムは、セッテの町へと向かった。その背を見送り、アウラは言った。


「ネクロマンサーは出てくると思う?」

「いてくれれば楽なんだけどな。そうすれば、倒せばそれ以上増える可能性も減るし」


 それでなくてもアンデッドは面倒なんだよな。基本、アンデッドって逃げないし。


 人間だと、怪我したら戦線離脱するし、敵わないとなったら逃げる。だがアンデッドは手足を失おうが戦い続ける。恐怖して逃げるなんてしない。


「俺が気がかりなのは、セッテの町の敵を排除しても、それが一時的なものにならないかってことなんだ」


 討伐軍が来る前に、ラーメ領の魔物や敵を減らそうとは思ってはいるけど、倒しても倒してもすぐに元の数に戻られたら、面倒以外の何ものでもない。


「ダイ様の偵察じゃ、減ったみたいだけど」

「しばらく様子見は必要よね。でも、ワタシたちはここでいつまでも留まっているわけにもいかない」


 アウラは眉をひそめた。


「領主町の汚染精霊樹」

「あれも不安の種なんだよな」


 俺も認める。城の大きさに匹敵する巨大な木に成長した。あれが葉をつけるようなことになった時、何が起こるのか見当もつかない。邪甲獣の巣がくっついている説が濃厚だけど、もし大量の邪甲獣が出てくるなんてなったら、王国が滅びるぞ……。



  ・  ・  ・



 交代で休憩ということで、俺も妖精の籠の方へ移動した。


 すっかり家ができていて、ちょっとした豪華なログハウスのような感じだ。ファウナの召喚した下級精霊たちの助けを借りたとはいえ、中々のものができている。


「で、マルモ。お前は何をやっているんだ?」

「お帰りなさい、ヴィゴさん。爆弾を作っています」


 ドワーフ少女は何やら物騒なものを作っていた。


「爆弾?」

「ええ。セッテの町での戦いで敵が沢山出たじゃないですかー? そういうのをまとめて攻撃できる武器があると楽じゃないかなーって」


 ひょい、とマルモは金槌の友達のような形のそれを持った。


「これは手投げのタイプですね。……ネムからも頼まれていたんですよ。何かこう、ドカーンと強い武器がないかって」


 その結果が爆弾だと。確かにネムは非力なほうだし、短弓の速射ができるけど、ここ最近戦っていたものを思い出してみると、大した効果を与えられない相手ばかりだったような。


 ホルバ屋敷で、いろいろ魔法武器とか回収したけど、ネムにはしっくりくるものがなかったみたいだった。


「あとは、壁を壊す用の爆弾も作ってます。ドワーフはむしろこっちが専門なんですけどね。地下を掘り進める時に爆薬を使うんで」


 マルモも子供の頃から、そういう爆弾の構造や作り方を覚えて、趣味で作っていたらしい。


「ヴィゴさんがいれば魔剣で壁とかズドンですけど、いない時でも対処できる準備ってしておくべきだと思うんですよ」

「そりゃそうだ」


 これからラーメ領で戦うに辺り、何が起こるかなんてわかんないもんな。

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