俺とアウラは、ヴィオ・マルテディに、ラーメ領の件と今後の王国の動きについて説明した。俺たちリベルタの方針も、仲間たちより一足先に伝えておく。
「――というわけで、時間稼ぎの間、敵を減らしつつ、あんたの望みどおり聖剣を回収する」
ダークバードを使えば、領主町やカパルビヨ城に近づくこともできるだろう。そう説明したら、ヴィオ・マルテディは目を点にした。
「……手伝って、くれるのかい?」
「そう言ったが?」
そんなに驚くことか? 俺のほうが驚いてしまうよ。
「その、僕は君に失礼なことを言った」
「もう謝っただろう? 気にしてないよ」
俺に関していえばよくあることだ。謝罪されたからには、もう流したさ。
「まあ、聖剣は早めに取り戻しておきたいってのは、俺も賛成だ。ラーメ領の敵を追い出すためにも、戦力は多いほうがいい」
「そうだね」
ヴィオは素直に頷いた。男装していて男の子っぽくあっても、案外女の子に見えるのは、表情が柔らかくなったせいかな。
「当面、あんたは、俺たちリベルタと行動を共にする、ということでいいか?」
「いいけど。……あんたじゃない。『ヴィオ』」
「ん?」
「名前」
「それは失礼。じゃあ、ヴィオ。よろしく。改めて自己紹介と行こう。俺はヴィゴ」
「うん……僕と名前、似ているね」
かもな。とりあえず、よろしく。
「とりあえず、敵地に乗り込むんだ装備がいるな」
俺はアウラを見やる。ドリアードの魔術師は微笑した。
「壊れていた鎧については、ゴムちゃんの素材で穴埋めしたから使えるはずよ」
サタンアーマー素材で補強って、強くなってしまうなそれ。
「手回しがいいな。防具はいいとして、武器か」
「予備あったでしょう? マルモが作った剣」
ああ、俺が神聖剣を手に入れる前に、予備の武器としてもらったやつな。
「それのコピーがあったから、あれでいいんじゃない」
「ノルドチッタで作ったやつか」
サタンアーマー素材ってどうやって使うのって、ダイ様に相談した時に、ゴムの分裂体を利用してコピーした剣があった。サタンアーマー素材のショートソード。
「喜べヴィオ。聖剣ではないが、それなりにいい武器をやる」
「いいの? 武器って高いけど」
「今から使える武器を買いにいった方が損だからな。気にするな」
たぶん、王都で買える武器より性能はいいはずだぜ。試しに作ったコピー品だし、使い手がいないんだから、むしろ使ったほうがいいだろう。
「本当、君たちって不思議だな」
ヴィオは微笑んだ。普通に女の子だ。男装だって忘れちまう……。
「え、何?」
「あー、可愛いな、と思って」
「なっ!?」
ヴィオが赤面した。
「な、いきなり何を言ってるんだ!? 口説いてるの!? 僕を口説いてる!?」
いや、そんなつもりは……参ったな。普段言われたことがなかったのか、ヴィオは照れまくっていた。
アウラ、そんなニヤニヤするなよなー!
・ ・ ・
話がひと段落したので、さっそくマルモのところに言って、ヴィオの装備を見てみようということになった。
それで天幕を出たら、何やら騒がしかった。おや、これは買い物に行っていた仲間たちが帰ってきたのかな?
それは見慣れない、奇妙な集団だった。
「え……!?」
俺もヴィオも、固まってしまう。アウラは怪訝な顔になった。
「アナタたち、その格好どうしたの?」
「!?」
メイドさんがいっぱいいた。
ルカとシィラ、イラ、ネム。あと合流したのかファウナもいて、全員が白と黒のメイド服を着ていた。ロングドレスタイプの由緒正しいエプロンドレス、頭の上にホワイトブリム……どこからどう見てもメイド衣装だった。
それをリベルタの女の子たちが着込んでいる。
「や、これはですね……」
ルカが視線を泳がせる。シィラなどは恥ずかしいのか、珍しく小さくなっている。ファウナはいつもの表情、ネムは彼女の好みに合わないタイプの服装なのに機嫌がよさそうだった。大好きなシィラとお揃いからかもしれない。
そしてニコニコシスターであるイラが、メイド服姿で前に出た。
「はい、これはアルマを元気づけようと思いまして、先ほど皆で買いにいきました」
皆で買いに行った? いや、それはまあいいとして――
「アルマを元気づけるのと、メイド服とどう関係が?」
あいつ、そういうのが趣味なの? メイド服フェチ?
「明るい格好をしたほうが、元気も出てくると思いまして」
イラは首を傾けつつ、いつもの柔らかな笑顔を崩さない。……と、そういえばルカ
とシィラの大柄コンビで気づかなかったが、後ろにもうひとりいるぞ……?
「……っ」
アルマだった。ルカ、シィラ姉妹の後ろに隠れようとしているが、アラクネである彼女は、下半身のボリュームのせいで大柄コンビと同じくらい背が高くなっているんだよな。
というか、ひょっとして、アルマもメイド服を着てる?
ルカがすっと退くと、メイド服を着たアルマの全身が見えた。
上半身は普通に人なので、これまたメイド服が似合っていた。そして下半身だが……あらこれは。
足は蜘蛛のそれだが、下半身である蜘蛛本体はロングスカートである程度隠れていた。後体の部分が盛り上がっているから、スカートの中に誰か入っているみたいな違和感があるけど。
「服装のせいかな……。メイドさんに見える」
足は誤魔化せないけど、上が普通に親しみやすい格好をしていると、案外化け物らしさが薄れるような。
「ほんとね。足に白のソックス履かせたら?」
アウラも魔女帽子のつばを撫でながら言った。なるほどね、それもいいかも。
「うん、その、似合っていると思う。……でも、何で皆メイド服なわけ?」
「アルマがひとりだと恥ずかしいというので――」
イラが言えば、アルマはルカの陰に隠れようとする。シィラがさっきから羞恥に震えているのだが……彼女の趣味ではないのかもしれない。だがアルマを元気づけようとするイラの発案に巻き込まれた、と。
そこへネムが爆弾をぶっ込んだ。
「ディー! 隠れてないで出てきてよー!」
「嫌ですぅー!!」
仮部屋の向こうから、ディーの悲鳴じみた拒絶が聞こえた。
「ヴィゴさんたちもいるじゃないですかー! ボクっ、この格好で出られないですよぅ!」
「……イラ。ディーにも着せたのか? メイド服」
「はい!」
はい、じゃないよ! なに『やってやったぜ』みたいな顔をしてるの? 彼、男の子でしょうに!