秘密の抜け道を発見してしまった。それに気づいたネムの頭をシィラが撫でた。
「よく見つけたな」
「えへへ……」
身長差のせいか大人と子供のやりとりに見える。それにしても狭い通路だ。
「この奥は果たして何があるのかな?」
「こっちも宝物庫……はないか、さすがに」
アウラが顎に手を当てれば、ファウナが口を開いた。
「……どうでしょうか。こちらの宝物は、侵入者をここで止めるための囮。本物の宝物は、さらに奥に隠しているかもしれません」
「確かに。手前にお宝があれば、それより奥にあるなんて思わないわよね、普通」
「どうかな。お宝じゃなくて、ペルドル先生の秘密工房があるのかも」
俺は盾を構えて――あんま余裕ないな。それだけ狭いってことだが、逆にこの盾で全身を覆えるから、攻撃されても防げるな。
「どうするの、ヴィゴ? ダンジョンが続くなら、一度引き返す手もあるけど」
「俺もそう思ったけど……進もう」
「いいの? お師匠さんたち、外で待機しているけど」
「それはそうなんだけどさ」
カイジン師匠のことだから、ペルドル先生にお返しがしたいと思っているだろう。だけど――
「師匠のボディであるベスティアは、この通路通れないと思う」
「あ……」
アウラの表情が固まった。ベスティアとその2号機は背も高く、肩装甲など幅がある。ある程度柔軟性はあるが、その可動は人間のそれには及ばない。
頑張れば何とか通れるかもしれないが、通過するまでに恐ろしく時間がかかる上に、何かの弾みで引っ掛かったら、身動きとれなくなってしまうだろう。
「妖精の籠があればなあ」
「籠は、今イラさんでしたっけ?」
ルカが苦笑した。無い物ねだり。俺はスペースの都合上、ゆっくり前進する。
「ファウナの言う通り、宝物庫かもしれないし、とりあえず確認しよう」
あるいはただの行き止まりだったりしたら、一度戻ってからここに来るのも無駄足になってしまうしな。
狭い通路が真っ直ぐの通路を進む。
「シィラ、大丈夫か?」
「狭い……」
体が大きいと苦労するな。シィラでさえこうなのだから、ベスティアには無理だろう。
「おっと、部屋に出たぞ」
広い部屋に出た。待ち伏せはなし。ここはどこだ?
「ジメジメしてるー。それにくさーい」
リーリエが俺の肩に乗った。シィラも出てきた。
「地下室か?」
「迷宮の続きかも」
ネム、アウラ、ディー、ファウナ、ルカ、ゴムと順にやってくる。さあて、今はどこでしょうかっと。
「……邪な気配を感じます」
ファウナが言えば、アウラも構えた。
「団体さんのお付きね!」
わらわらと魔物が出てくる。スライムに、案山子のような人形、それと――
「あれはっ!」
シィラが視線を鋭くした。
寄生生物に全身を覆われた人間が複数、武器を手に現れたのだ。真っ赤に染まった目、血の気が失せた肌。寄生生物の足が、その人間の体に刺さっていてそれが鎧のようにさえ見えた。
俺はそれらを睨みながら、アウラに聞いた。
「あれ、サソリもどきを引き剥がしたら助けられると思う?」
「無理でしょうね。あんなに全身を貫かれていたら、全部取り除いても出血多量で死ぬわよ」
ディー、とアウラが振ると、白狼族の少年治癒術士は言った。
「ボクの治癒魔法では、たぶん回復が追いつかないと思います。そもそも、あの人たちからは死臭がします。もう、体は死んでいるかも」
アンデッドか……。死してなお、あの寄生生物に体を操られているってことだ。大人しく葬って、楽にしてやるのが礼儀か。
「解放してやろう……!」
寄生戦士が、スライムが、案山子人形が襲いかかってきた。
「まずはスライムから! ファイアランス!」
アウラが炎の槍魔法を複数同時発射して、スライムを炎上させる。突っ込んできた寄生戦士と案山子人形は、俺とシィラで防ぐ、切り裂く!
オラクルセイバーの一撃で両断。シィラが魔法槍で寄生戦士を貫くが――
「こいつっ!? 硬い!」
寄生戦士の剣に、シィラは下がって躱す。あの寄生生物の足、かなり頑丈なようで、鎧のようというのはあながち間違っていないかもしれない。
「シィラは案山子をやれ! 寄生生物は俺がやる!」
神聖剣を防ぐだけの防御力はない。位置を入れ替え、相手を変えて攻撃!
「なるほどっ!」
俺は、寄生戦士の手強さを実感する。こいつら、手や首が胴体から切り離されても動きやがる! そこらのゾンビよりたちが悪いな!
取り付いている寄生生物が目となり、体を動かしているのだ。だからその胸の真ん中にいる奴を止めないとな、止まらないよな!
対処方法がわかればこっちのもの――
『お主、油断するな!』
鞘に収まっている魔剣が勝手に抜けて宙を舞った。直後、俺の後ろに飛び、ガキンと金属音。見れば倒した寄生戦士の剣が浮遊して突っ込んできたようだった。
『こやつら、魔法生物だ!』
ダイ様が自分で動けるようになってなければ危なかった。迎撃された剣は、魔剣のパワーに対抗できない安物だったらしく、一撃でグズグズに潰れた。
「気をつけろ! 奴らの武器も攻撃してくるぞ」
倒した案山子人形らの武器も、主を失うと勝手に浮遊し、剣先からファイアボールやアイスブラストを放ち始めた。
「魔法まで使うの!?」
「ずっこい!」
「ネム、リーリエ、私の後ろに!」
ルカが魔法の盾から障壁を展開して、味方を守る。さすが王国の宝物庫にあった魔法防具。頼りになる!
なかなかトリッキーな手を使ってくる敵だが、手がバレればどうってことはない。
「丸太落とし!」
アウラが出現させた丸太の直撃を受けて、案山子人形が潰れたのが最後だった。俺たちは魔物どもを返り討ちにした。
とっ、俺の兜の上にリーリエが飛び込んだ。
「ヴィゴ! また何か来るっ!」
奥から、ずんぐりした何かが現れた……。何だ……? 何かやたら醜い、ブクフク巨体の大鬼――オーガが出てきた。