「アタシはマルモっていいます。よろしく!」
そうご紹介してくれたのは、ドワーフのお嬢さん。
温泉から出た後、俺は、女湯でリベルタメンバーに絡んできた女性と会った。
マルモという茶色の髪をポニーテールにまとめたドワーフは、パーティーの最年少であるニニヤよりさらに背が低く、見ようによってはお子様に見える。しかし喋り方はしっかりしているので、間違っても人間の感覚で年齢は推し量れないと思う。
「ネエさんたちから聞きました! あなたがヴィゴさんですね。魔剣士の噂は聞いてます」
「どうも……」
ずいぶんとフレンドリーな人である。容姿のせいで、10代になったばかりの女の子のように見えるが。
なお、俺が来るまで、ルカにゴムを紹介されて、戯れていたらしい。珍しいんだろうけどな、黒スライム。
「ペルセランデは初めてだそうで。ネエさんたちにはよければ案内するって約束したのですが、ヴィゴさんもどうですか!?」
元気な娘である。ちら、と俺は、そのネエさんたちへ視線をやれば、アウラが腰に手を当てた。
「武具屋も案内してくれるって。アナタも、せっかくだから予備の剣をドワーフ製にしたら?」
「そうするか」
魔剣があるから予備武器は機会があったら、と後回しにしてきた結果、そのままになっていたもんな。これをその機会と捉えよう。
武器や防具の質の高さといったらドワーフ製品と言われているから、箔がつくかもな。
宿で一休みした後、俺たちリベルタは、ペルセランデ観光と洒落込んだ。
地下空洞に築かれた集落は、景観に関しては微妙ではあるが、壁にいくつも開いている民家のドアや窓など、独特の空間を形作っていた。道はちゃんと整えられていて、外周に沿ってスロープがあるなど、荷車や荷物の移動を考えられた作りになっているようだった。
来た時から聞こえていたが、ハンマーが金属を叩く音が頻繁に聞こえる。
「ここが、ペルセランデ最大の武具店『マルテロ&イスクード』です!」
マルモの案内で、ハンマーと盾の紋章の看板がある岩の建物に入る。
ほう……。壁一面に、武器や防具が飾られている。武装したドワーフの戦士のほか、ペルセランデを訪れた旅人らしい人間の姿もある。店の店員らしいドワーフが、店の商品を自慢している。
「お嬢、ようこそ」
「こんにちは、ブロンゾさん」
マルモが店員ドワーフと挨拶している。お嬢……?
思わず首を傾げる俺だが、マルモは俺たちのことを、ブロンゾさんとやらに説明している。
「あの邪甲獣殺しのご一行サマで。それはそれは、ようこそマルテロ&イスクードへ!」
ということで、各々、店の商品を見て回る。イラやディーは盾に興味があるようで、そちらに。アウラはニニヤにくっついて、杖を見に行く。魔法使いコンビらしい。
俺はマルモに連れられて剣探し。ルカとシィラもついてきた。
一応、人間用の装備もあるが、半分以上はドワーフ用なので、剣などは短めなものが多かった。大型ナイフくらいで剣と言われると、さすがのサイズ感である。
ドワーフの店だけあって、ハンマーや棍棒、斧が多い印象だ。
「どうですか? ヴィゴさん!」
マルモが聞いてくる。うーん、そうね……。
「どれもよさそうで、目移りしちゃうよね」
魔法金属製の武器とかもいいし、ドワーフが鍛えた武器も無骨ながら悪くない。ただ、俺にはダイ様――魔剣があるから、基本サブなんだよな。
「じゃあ、アタシが適当に見繕ってきますよ! 待っててください」
そう言い残すと、マルモはブロンゾと顔を合わせて、店の奥へと入っていった。……マルモって、この店の関係者なのかな?
ルカとシィラを見れば、彼女たちも熱心に武器を見ているが、いまいちな顔をしている。二人はそれぞれ魔法武器を持っているし、それと比べたら市販のものは、というところだろうか。
「お待たせしました! ヴィゴさん!」
マルモが戻ってきた。ブロンゾが台座を押してきて、その上に3本、ショートソードが並んでいる。サイズ的に見て、人間用だろう。
一本は、炎をかたどった飾りがついた魔法金属剣のようだった。剣の刃が赤く、素人目にも火属性の魔法金属だろうと見当がついた。
一本は、太く、見るからに切ることに特化した黒い剣。磨きあげられたその剣は堅そうで、これまた強そう。
最後の一本は、見たところ、オーソドックスな剣だった。特に飾りがあるわけではなく、見た目は地味だ。白い剣身は……何だろう、ちょっと普通の金属とは違うような。
「ちなみに、この3種類をお勧めする理由とか聞いても?」
「ヴィゴさんがどういう傾向の剣をお求めになっているのか、と思いまして」
ふーん。いわゆる魔法属性のある剣がいいか、斬撃特化か、汎用性か、ということかな? 俺もそこまで詳しいわけじゃないが、個人の戦闘スタイルで、使い勝手も変わってくるからな。
何やら意味深にニヤニヤしているブロンゾ。やたらと真剣な目のマルモ。ざっと3本の剣を見比べ、俺は、一番シンプルなヤツを選んだ。
「これかな。俺としたら――」
「あああぁ……」
「しゃあ!」
ブロンゾとマルモで正反対の反応が返ってきた。崩れ落ちるようにガックリするブロンゾに、何故かウキウキのマルモ。……俺がどれを選ぶか賭けでもしていたのか?
「フフン、さすがヴィゴさん。いい目をしているっ!」
「そんな……。ファイアブレイズも黒斬剣も、うちの自信の品なのに……」
勝手に盛り上がったり下がったり。俺は、予備剣が欲しかっただけなんだが。
「ちなみに、それ、暗いところで淡く光るくらいしか特殊効果ないですが、何故それを……?」
恨めしそうにブロンゾが聞いてきた。え、暗がりで光るの、この剣?
「いや、予備武器だが、使い勝手がよくて長持ちしそうなのを選んだんだけど」
「さすがヴィゴさん! わかってらっしゃる!」
マルモが声を弾ませた。
「その剣はアタシが独自製法で作り出した新金属を使って作ったものです!」
「これ、マルモが作ったの?」
「はいっ!」
力強くマルモが頷いた。武器を作れる職人だったのか。王都だとこの手の仕事って男ばかりだけど、ドワーフは男女関係ないんだな。
「これ、幾ら? 買うけど」
「買ってくれるんですか!?」
マルモが驚いた。え、商品の候補として持ってきたんじゃないの? 驚かれる意味がわからん。
ブロンゾは口を尖らせた。
「それはうちの商品じゃないんで、お嬢が好きにしてください」
……え? ここの商品じゃない?
「はい、ブロンゾさんが仰る通り、それ実はここの商品じゃないんです」
マルモが申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。
「でも、ヴィゴさんが選んでくださったので、それはお譲りいたします」