『ヴィゴー、いるか?』
塀の向こう、おそらく女湯だろう方からシィラの声がした。そしてすぐルカの声がした。
『やめなさい、シィラ。男湯さんのほうに、他に男性いたらどうするの?』
ははー、お姉ちゃんというよりお袋だな。俺は温泉に浸かる……。あつぅー。
『向こうからも男の大声が聞こえているから、呼びかけるくらい問題ないだろ?』
シィラがルカに文句を返すが、ルカの小言が続いているようだ。……お姉ちゃん、ほんとおかんだわ。
「こっちは、俺らだけだからいいぞー」
『ほらみろ』
『え、でも男の人の声しますよ?』
塀の向こうから聞こえる声。
「隣の裸湯のほうのドワーフさんたちだろ。ここはいないよ」
「あっ、つっ!」
ディーが入ろうとして、足を引っ込めた。どうやら思っていたより湯の温度が高かったようだ。
「足から、ゆっくり入りな」
「ふはぁい……」
情けない声を出しながら、淵に座り、ゆっくり足先にかけ湯しながら入るディー。
少々熱い湯だが、まあ、全身に体にいい何かが染みこんでいるようで気分は悪くない。少しニオイがするけど。
「ディー、お前、ニオイは大丈夫か?」
「ニオイますけど、温泉ってこんなものじゃないんですか?」
「なに結構、温泉入ったことある人?」
試しにふって見れば、ディーは首を横に振った。
「過去に2回か3回くらいですね」
「俺は1回だな」
王都の公衆浴場なら、結構通ったけど。
『ヴィゴ様ー、いますかー?』
塀の向こうから、イラの声がした。
「おう、いるぞー。そっちはー?」
『みんな、いますよー』
『覗いちゃダメよ、ヴィゴ』
アウラの声がした。誰が覗くかい。
「無理無理。俺たちの湯の間には塀があるんだ」
ドンとそびえる石の壁は3メートルくらいはある。表面が真っ直ぐツルツルに加工されているので、何かにひっかけて登るのは無理だし、当然覗き穴もない。
……というか、アウラってお湯大丈夫だったっけ?
『あたしは見られても平気だぞ』
『シィラぁ?』
『わたしも、見るくらいならいいですよー』
『イラまで、何を言ってるの』
ルカも突っ込んでいるが、イラは仮にもシスターさんの言葉とは思えんぜ。この3人は見事なお胸様をお持ちだからな。連想させるようなことを言わないでくれよぅ。
「ヴィゴさん?」
ディーも、不思議そうな目で見ないでくれ。
『それにしても、でっかいわねぇ』
何が?――アウラの発言さえ、意味深だぜ。
『で、アナタたち姉妹はどっちが大きいの?』
……何言ってるの?
『久しぶりに比べるか? ルカ』
『えぇ……。まあ、いいけど』
何を比べるんだ……? ま、ま、まさかお胸様――
『前の時はルカのほうが少し高かったっけ』
『……あまり高いとか言わないで』
背比べらしい。なーんだ。もう、聞いてる俺の下腹部が早とちりするところだった――
『ちなみにいま、二人の美人姉妹が隣の湯との境界の壁の前で裸で立ってまーす』
アウラが誰に聞かせるでもなく解説した。……え? その壁の向こうで?
『どうだ?』
『うーん、微妙にルカのほうが高い、かも』
『そうかー』
『うう……』
何でルカさんは、そんな悲しそうな声出してるの。背が高いコンプレックスってやつだろうけど、高い方が負けた感出しているって珍しいよな。普通は背が高いぜ、やったーってなるのにさ。
『で、ルカとシィラは、どっちが大きいの?』
『ちょっ、アウラさん!?』
ルカのかなり慌てた声がした。おいおい、見えないところで何やってんだよ!
『張りがあって凄い』
『それならあたしも負けてないぞ』
『ひゃっ、やめてくださいぃ』
何かけしからんことしてないか。声が艶やか過ぎて、健全な男の子にはよくないぜこれは。……ほらみろ、ディーが赤面して目を逸らしてるじゃないか。
『どっちが大きい?』
『どうだ、アウラ?』
『アナタのも大概ねぇ……』
だから、何やってんだよアウラ!
「まあ、我から見たら、どっちも同じだがな」
「わっ、ダイ様!?」
どっから、というか何で塀の上からこっち見下ろしてるの? 魔剣も女湯にいたの? ディーが慌てて全身湯船に浸かったが、水着着ているから隠すことないだろうに。
『ダイ様、ダメですって』
ルカが下からダイ様を注意するが、当の魔剣様はどこ吹く風だ。
「ちなみに、ルカもシィラも92だ。どこが、とは言わんが」
どこがとは言わないけど、前後の流れから俺は察したぞ!
『同じ? まったく?』
「同じだぞ、シィラ」
『なら、身長とのバランスを考えれば、アタシの方が大きいということに――』
『シィラ、やめなさーい!』
ルカがめっちゃ赤面しているのは容易に想像がつくなー。直接見えなくても、想像の目では、見える! 見えるぞ!
「身長とのバランスで言ったら、一番はイラだろ」
ダイ様、更にぶっこむ! 身長では一般女性の平均、よりちょい高めではあるイラだが、ルカ、シィラ姉妹と比べると低く、しかしお胸様のボリュームはタメを張っているから……まあ、そうなるよね。
『なんかネエさんたち、すっごく楽しそうだねぇ。アタシも混ぜておくれよ』
誰ー!? 知らない女の子の声がした。