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第92話、見えません


『ヴィゴー、いるか?』


 塀の向こう、おそらく女湯だろう方からシィラの声がした。そしてすぐルカの声がした。


『やめなさい、シィラ。男湯さんのほうに、他に男性いたらどうするの?』


 ははー、お姉ちゃんというよりお袋だな。俺は温泉に浸かる……。あつぅー。


『向こうからも男の大声が聞こえているから、呼びかけるくらい問題ないだろ?』


 シィラがルカに文句を返すが、ルカの小言が続いているようだ。……お姉ちゃん、ほんとおかんだわ。


「こっちは、俺らだけだからいいぞー」

『ほらみろ』

『え、でも男の人の声しますよ?』


 塀の向こうから聞こえる声。


「隣の裸湯のほうのドワーフさんたちだろ。ここはいないよ」

「あっ、つっ!」


 ディーが入ろうとして、足を引っ込めた。どうやら思っていたより湯の温度が高かったようだ。


「足から、ゆっくり入りな」

「ふはぁい……」


 情けない声を出しながら、淵に座り、ゆっくり足先にかけ湯しながら入るディー。


 少々熱い湯だが、まあ、全身に体にいい何かが染みこんでいるようで気分は悪くない。少しニオイがするけど。


「ディー、お前、ニオイは大丈夫か?」

「ニオイますけど、温泉ってこんなものじゃないんですか?」

「なに結構、温泉入ったことある人?」


 試しにふって見れば、ディーは首を横に振った。


「過去に2回か3回くらいですね」

「俺は1回だな」


 王都の公衆浴場なら、結構通ったけど。


『ヴィゴ様ー、いますかー?』


 塀の向こうから、イラの声がした。


「おう、いるぞー。そっちはー?」

『みんな、いますよー』

『覗いちゃダメよ、ヴィゴ』


 アウラの声がした。誰が覗くかい。


「無理無理。俺たちの湯の間には塀があるんだ」


 ドンとそびえる石の壁は3メートルくらいはある。表面が真っ直ぐツルツルに加工されているので、何かにひっかけて登るのは無理だし、当然覗き穴もない。

 ……というか、アウラってお湯大丈夫だったっけ?


『あたしは見られても平気だぞ』

『シィラぁ?』

『わたしも、見るくらいならいいですよー』

『イラまで、何を言ってるの』


 ルカも突っ込んでいるが、イラは仮にもシスターさんの言葉とは思えんぜ。この3人は見事なお胸様をお持ちだからな。連想させるようなことを言わないでくれよぅ。


「ヴィゴさん?」


 ディーも、不思議そうな目で見ないでくれ。


『それにしても、でっかいわねぇ』


 何が?――アウラの発言さえ、意味深だぜ。


『で、アナタたち姉妹はどっちが大きいの?』


 ……何言ってるの?


『久しぶりに比べるか? ルカ』

『えぇ……。まあ、いいけど』


 何を比べるんだ……? ま、ま、まさかお胸様――


『前の時はルカのほうが少し高かったっけ』

『……あまり高いとか言わないで』


 背比べらしい。なーんだ。もう、聞いてる俺の下腹部が早とちりするところだった――


『ちなみにいま、二人の美人姉妹が隣の湯との境界の壁の前で裸で立ってまーす』


 アウラが誰に聞かせるでもなく解説した。……え? その壁の向こうで?


『どうだ?』

『うーん、微妙にルカのほうが高い、かも』

『そうかー』

『うう……』


 何でルカさんは、そんな悲しそうな声出してるの。背が高いコンプレックスってやつだろうけど、高い方が負けた感出しているって珍しいよな。普通は背が高いぜ、やったーってなるのにさ。


『で、ルカとシィラは、どっちが大きいの?』

『ちょっ、アウラさん!?』


 ルカのかなり慌てた声がした。おいおい、見えないところで何やってんだよ!


『張りがあって凄い』

『それならあたしも負けてないぞ』

『ひゃっ、やめてくださいぃ』


 何かけしからんことしてないか。声が艶やか過ぎて、健全な男の子にはよくないぜこれは。……ほらみろ、ディーが赤面して目を逸らしてるじゃないか。


『どっちが大きい?』

『どうだ、アウラ?』

『アナタのも大概ねぇ……』


 だから、何やってんだよアウラ!


「まあ、我から見たら、どっちも同じだがな」

「わっ、ダイ様!?」


 どっから、というか何で塀の上からこっち見下ろしてるの? 魔剣も女湯にいたの? ディーが慌てて全身湯船に浸かったが、水着着ているから隠すことないだろうに。


『ダイ様、ダメですって』


 ルカが下からダイ様を注意するが、当の魔剣様はどこ吹く風だ。


「ちなみに、ルカもシィラも92だ。どこが、とは言わんが」


 どこがとは言わないけど、前後の流れから俺は察したぞ!


『同じ? まったく?』

「同じだぞ、シィラ」

『なら、身長とのバランスを考えれば、アタシの方が大きいということに――』

『シィラ、やめなさーい!』


 ルカがめっちゃ赤面しているのは容易に想像がつくなー。直接見えなくても、想像の目では、見える! 見えるぞ!


「身長とのバランスで言ったら、一番はイラだろ」


 ダイ様、更にぶっこむ! 身長では一般女性の平均、よりちょい高めではあるイラだが、ルカ、シィラ姉妹と比べると低く、しかしお胸様のボリュームはタメを張っているから……まあ、そうなるよね。


『なんかネエさんたち、すっごく楽しそうだねぇ。アタシも混ぜておくれよ』


 誰ー!? 知らない女の子の声がした。

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