いざペルセランデへ! 俺たちリベルタは、冒険者ギルドで、輸送物である邪甲獣の装甲を受け取った後、王都カルムを出た。
まずは西にある台地を目指す。平原を移動するのだが――
『じゃーん! 馬型木ゴーレム!』
以前、アウラが作っていた木ゴーレムの木馬タイプが、俺たちの足となった。
ルカとシィラがそれぞれ騎兵よろしく馬ゴーレムに乗って周囲を警戒している。
俺を含めた残りメンバーは、馬ゴーレムが引く馬車――いや、地面から浮いている板っ切れなので馬車と呼んでいいかわからない代物に乗っている。
馬車もどきはふたつ。片方は俺、イラ、ディー。もう片方はアウラとニニヤとゴムが乗っていた。
「……ゴムが背もたれにちょうどよさそうだな」
それが率直な俺の感想。アウラとニニヤは黒スライムにもたれて、足を伸ばしている。
「ポヨポヨしてのんびりできそう」
「まあ」
イラが微笑んだ。何が「まあ」なんだ?
「じゃあ、ヴィゴ様もわたしにもたれます? それとも膝枕しましょうか?」
そのたっぷりあるお胸様を指さすイラ。そういうエッチぃサービスは……どうかと思います。鼻の下伸びそうで下腹部が苛立つ。男の子には刺激が強すぎませんかね、シスター?
それはともかくとして、この板の乗り心地は悪くない。馬車ってのは、地面の起伏で結構上下するものだけど、地面に車輪がついていないので、そういう振動がほとんどない。
すぃー、と浮いているのは少し奇妙な感覚だけど、乗っている分は楽でいい。……楽すぎて移動が退屈だけど。
前方に目を向ける。俺たちの右前にルカ。左前がシィラだ。戦闘民族であるドゥエーリ族は馬の扱いも上手いらしい。姿勢も含めて、いかにも乗り慣れているのが見てわかる。
ルカはグレートボウ、シィラは風属性の魔法槍を携えている。
魔獣や盗賊を警戒しつつ西へ移動。今のところは運がいいのか遭遇はない。
「盗賊どもも、東領のほうへ行ったのではないか?」
馬上からシィラが言った。
「西のこっちより、東への移動が活発だ。軍隊に商人もついていくし、逆に向こうから王都方面へ逃げてきた者たちもいるだろう。盗賊どもからしたら、こっちより獲物は選び放題だろうよ」
「かもな。……ところで、その馬の乗り心地はどう?」
「よくはないが、悪くもない」
シィラは首を傾げた。
「こいつは馬の形をしているがゴーレムだ。言うことに素直に応えるが、馬ではないからな。相棒感をまるで感じない」
一体感がないそうだ。
「生き物じゃないから扱いやすいとは思うけど」
「素人がとりあえず乗ってみる分にはな」
シィラは笑った。
「だが、こいつで慣れて馬に乗れると勘違いはして困るな。本物はもっと気ままで、乗り手を振り回してくるからな」
「馬が繊細な生き物だって話は聞くな」
あいつら臆病だから、不用心に後ろから近づくと蹴ってくるっていうし。
などと雑談で退屈を紛らわせつつ、視界に入っていた台地がどんどん大きくなっていく。
その時、ルカが短い口笛を吹いた。シィラが素早く槍の穂先を上げて、ルカのもとへと移動する。
今のは何か見つけたか、敵発見の合図だろうか。ルカはグレートボウを握り込む。
「赤髪、複数です」
平原の草地に紛れるように、赤いものがチラチラ動いている。アウラが浮遊板から飛び降りた。
「レッドパンサーね!」
四足の肉食獣だ。ネコ科だが大型で、この辺りでは人も襲う。基本パンサー種は単独行動だが、体毛の一部に赤い線の入ったレッドパンサーは、少数ながら集団で行動するとされる。
「気をつけて。こいつら一定距離まで近づくと、一気に加速してくるわよ!」
俺も板から降りて、魔剣を抜く。レッドパンサーは北側から近づいているようだ。そろりそろりと、しかしこちらがすでに気づいていることもわかってなお接近してくる。
超装甲盾を手に、俺は後衛組の前で壁となる。
「ルカ、あたしが連中を突っつく!」
そう言い残して、シィラが木ゴーレム馬を走らせた。ルカは矢を番える。槍を手にしたシィラが、敵のほうへと向かえば、姿勢を低くして迫っていたレッドパンサーらが一斉に草地から起き上がるように走り出した。
四頭!
だが、シィラの左手側にいて避けるように動いたレッドパンサーが、直後にルカの放った矢で脳天を打ち抜かれた。
よそ見注意!
残る三頭は、こちらへの突進を選択した。ニニヤが目を見開く。
「速い!」
「驚く暇があったら、魔法を撃つ!」
アウラが地面から植物の蔦を伸ばして、一頭の足を絡め取る。その間に二頭がグンと加速。うち一頭が俺に迫った。
確かに速い。盾と魔剣の間の隙間を突くようにあっという間に肉薄する。俺は超装甲盾で正面を閉じた。
べちっ、と音がした。レッドパンサーが超装甲盾に激突したのだ。城壁に頭から突っ込むようなものだ。予想どおり、レッドパンサーは盾の染みとなって果てた。こいつにぶつかっても死亡。なんという盾だ。
もう一頭は――ディーの投げたブーメランを回避したところ、ルカの矢で首を貫かれた。
残っているのは、アウラの補助魔法で足を取られた一頭だが、後ろから騎馬で戻ってきたシィラが槍でひと突きで仕留めた。
「呆気ないな」
「皆、いい腕しているからな」
何気にルカが二頭トドメ刺しているんだよな。戦闘民族であり、狩猟民族でもあるドゥエーリ族の弓術は大したものだ。
そういえば、シィラが先制して敵の注意を引いたところにルカの射撃とか、何気にこの姉妹、連携がうまい。
「解体するか」
「そうね」
シィラの言葉にルカも当然という感じで応じた。この辺りのわかっている感も姉妹だなぁ。
「あ、わたしも解体やります!」
イラが手を挙げた。今回何もしていないので、と彼女は言ったが、ヒーラーに出番がないのはいいことだと思う。
シィラはニヤリとした。
「シスターさんに、獣の解体できるのかい?」
「任せてください。得意です」
ニコニコと微笑みシスター全開のイラである。3人で一体ずつを手早く解体を行い、ダイ様の収納庫へ。残る一体は、ゴムが食べた。
再び移動を開始。午前中に出たのに、台地に着く頃には夕方になりつつあった。