リベルタの家に、王国軍騎士であるカメリア・ロンキドが訪れた。カチッと正装で来ているところからして、遊びにきたわけではなく、王城の要件だと察する。
「シンセロ大臣閣下が、ヴィゴ殿をお呼びです」
「大臣閣下ですか」
ふむ、何だろう。……と思いつつ、アレの話かな……?
「東領で起きた魔族の軍勢の話ですか?」
例のラーメ侯爵領で、魔物が大発生したという件は王都にも伝わってきている。王国は討伐軍を編成していると聞く。
もしかしたら、俺たちにもお声が掛かったのかなって。
「私には分かりかねます」
カメリアさんは丁寧にそう返した。
「急な話で申し訳ありませんが、王城までご足労願えませんでしょうか?」
「わかりました」
近々、王都近くにあるダンジョンに行って、リベルタとしての経験値稼ぎをしようと思っていた。だから王都にいるうちに話を聞いておく。
できれば魔剣殿も、ということらしいのでダイ様を連れて行くが、そうなると自然と活動範囲の都合上、アウラも同行することになる。
「この時期に王城に呼び出しってことは、やっぱりラーメ侯爵領の話かしらね」
アウラも気になっていたらしい。急な呼び出しに付き合わされることになったが、文句は言わなかった。
「ダイ様も呼ばれたってのは、そういうことかもな」
魔剣様には古の魔王や魔族関係の話に詳しいからな。
ということで、カメリアさんについて、俺、ダイ様、アウラは王城へと向かった。
「……いるいる」
王城前には、出陣を控えた王国軍の騎士や兵が集まっていた。王都守護のセイム騎士団も出陣するようだ。
「これって、王都の守りが手薄になるんじゃないか……?」
「それだけ東領の騒動が大変だってことかもね」
アウラは物憂げに顔をしかめた。
「これ、本当にワタシたちへの召集あるかも」
近くを通りかかったら、何人かの兵士がこちらを見てきた。周囲より少々ボロい装備なのは、今回の出陣に集められた予備兵たちだろう。言ってみれば徴兵された、戦える男たちだ。
「ヴィゴ! ヴィゴ・コンタ・ディーノ!」
俺を呼ぶ声がした。見れば騎兵が一騎足早に寄ってきた。
いや、騎兵ではない。超絶イケメンの騎士団長、レオル・フォンテ殿だ。
「これは騎士団長殿」
「久しぶりだね、ヴィゴ君」
「ご無沙汰しております」
前回会った時は、セイム騎士団へ勧誘されたんだっけな。結局、お声掛けしてもらったのに、無視する格好になってしまった。
「君も参陣するのかね?」
「いえ……いや、どうでしょうね。今から大臣閣下からお話を聞くところです」
「そうか。今回も大層な敵がいるそうだよ」
レオル団長は、どんな時でもキリリとしていらっしゃる。
「今からでも加わってくれると頼もしいのだが……」
「レオル団長!」
別の若い声がした。黄金の鎧をまとう、若い男が同じく馬に乗ってやってきた。その鎧の色は聖騎士の中でも聖剣の使い手に許されているものだ。
そしてこれまた、顔立ちのよい若者だ。年の頃は、たぶん俺と同じくらいだろうが、やや中性的か。紫色の髪に、靑い目。こりゃさぞモテそうな顔をしている。
「マルテディ殿」
レオルが背筋を伸ばすと、マルテディと呼ばれた黄金鎧の騎士は、微笑を浮かべた。……くそ、イケメンめ。
「よしてください、レオル団長。僕のことはヴィオって呼んでください」
気さくな雰囲気だったが、レオルと話していた俺を馬上から見下ろす目は冷ややかだった。
「この者は?」
「ヴィゴ・コンタ・ディーノ殿。先の王都騒動で活躍した魔剣使いの英雄殿ですよ」
「へえ、この者が」
……なに、その路上の障害物を見るような目。この手の視線、覚えがあるぞ。かつて所属したパーティー『シャイン』で、イケメンルースを見ていた娘たちが、視界に入った俺を疎んじる時のそれだ。
「噂の魔剣使い君か。……思っていたよりチビだな」
馬上から見下ろしているから上からなんだろうけど、たぶん馬から降りたら、お前も俺とどっこいだと思うぜ?
「マルテディ殿……」
「ヴィオって呼んでくださいって言いましたよね、レオル団長」
少々脹れっ面になるヴィオ・マルテディ。
「この冴えない男が魔剣使いとは。……ご心配には及びませんよ、レオル団長。僕の聖剣スカーレットハートが、魔族だろうが魔王だろうが討ち取ってみせますよ」
笑い声を上げるヴィオ・マルテディ。意外と声が高いな、と思う。まるで子供みたいだ。
「申し訳ありませんが、マルテディ様、フォンテ団長」
カメリアさんが一礼しながら、間髪入れずに言った。
「シンセロ大臣閣下から、ヴィゴ殿をお待ちになっています故、ここは――」
「ああ」
「うん、行っていいよ」
煩わしいから、さっさと行けと言わんばかりのヴィオ・マルテディ。俺はレオルにだけ会釈して、ヴィオは無視した。
カメリアさんに続いて王城に入る。
「小生意気な娘だったのぅ」
「ほんと、一発、馬から蹴落としてやろうかと思ったわ」
ダイ様とアウラが言った。……え?
「小娘って誰のこと?」
「お主、気づかなかったのか?」
「あのヴィオ・マルテディって聖騎士よ。男装しているけど、あれは女ね」
アウラが断言した。俺は驚いたが、カメリアさんはもっと驚いていた。
「マルテディ殿は男でないのですか?」
「女だ」
「女ね」
ダイ様とアウラは、きっぱりと言い放った。
少々驚かされつつ、俺たちは王城を進み、シンセロ大臣のもとへ向かった。