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第85話、もうひとりの聖剣の使い手


 リベルタの家に、王国軍騎士であるカメリア・ロンキドが訪れた。カチッと正装で来ているところからして、遊びにきたわけではなく、王城の要件だと察する。


「シンセロ大臣閣下が、ヴィゴ殿をお呼びです」

「大臣閣下ですか」


 ふむ、何だろう。……と思いつつ、アレの話かな……?


「東領で起きた魔族の軍勢の話ですか?」


 例のラーメ侯爵領で、魔物が大発生したという件は王都にも伝わってきている。王国は討伐軍を編成していると聞く。


 もしかしたら、俺たちにもお声が掛かったのかなって。


「私には分かりかねます」


 カメリアさんは丁寧にそう返した。


「急な話で申し訳ありませんが、王城までご足労願えませんでしょうか?」

「わかりました」


 近々、王都近くにあるダンジョンに行って、リベルタとしての経験値稼ぎをしようと思っていた。だから王都にいるうちに話を聞いておく。


 できれば魔剣殿も、ということらしいのでダイ様を連れて行くが、そうなると自然と活動範囲の都合上、アウラも同行することになる。


「この時期に王城に呼び出しってことは、やっぱりラーメ侯爵領の話かしらね」


 アウラも気になっていたらしい。急な呼び出しに付き合わされることになったが、文句は言わなかった。


「ダイ様も呼ばれたってのは、そういうことかもな」


 魔剣様には古の魔王や魔族関係の話に詳しいからな。


 ということで、カメリアさんについて、俺、ダイ様、アウラは王城へと向かった。


「……いるいる」


 王城前には、出陣を控えた王国軍の騎士や兵が集まっていた。王都守護のセイム騎士団も出陣するようだ。


「これって、王都の守りが手薄になるんじゃないか……?」

「それだけ東領の騒動が大変だってことかもね」


 アウラは物憂げに顔をしかめた。


「これ、本当にワタシたちへの召集あるかも」


 近くを通りかかったら、何人かの兵士がこちらを見てきた。周囲より少々ボロい装備なのは、今回の出陣に集められた予備兵たちだろう。言ってみれば徴兵された、戦える男たちだ。


「ヴィゴ! ヴィゴ・コンタ・ディーノ!」


 俺を呼ぶ声がした。見れば騎兵が一騎足早に寄ってきた。


 いや、騎兵ではない。超絶イケメンの騎士団長、レオル・フォンテ殿だ。


「これは騎士団長殿」

「久しぶりだね、ヴィゴ君」

「ご無沙汰しております」


 前回会った時は、セイム騎士団へ勧誘されたんだっけな。結局、お声掛けしてもらったのに、無視する格好になってしまった。


「君も参陣するのかね?」

「いえ……いや、どうでしょうね。今から大臣閣下からお話を聞くところです」

「そうか。今回も大層な敵がいるそうだよ」


 レオル団長は、どんな時でもキリリとしていらっしゃる。


「今からでも加わってくれると頼もしいのだが……」

「レオル団長!」


 別の若い声がした。黄金の鎧をまとう、若い男が同じく馬に乗ってやってきた。その鎧の色は聖騎士の中でも聖剣の使い手に許されているものだ。


 そしてこれまた、顔立ちのよい若者だ。年の頃は、たぶん俺と同じくらいだろうが、やや中性的か。紫色の髪に、靑い目。こりゃさぞモテそうな顔をしている。


「マルテディ殿」


 レオルが背筋を伸ばすと、マルテディと呼ばれた黄金鎧の騎士は、微笑を浮かべた。……くそ、イケメンめ。


「よしてください、レオル団長。僕のことはヴィオって呼んでください」


 気さくな雰囲気だったが、レオルと話していた俺を馬上から見下ろす目は冷ややかだった。


「この者は?」

「ヴィゴ・コンタ・ディーノ殿。先の王都騒動で活躍した魔剣使いの英雄殿ですよ」

「へえ、この者が」


 ……なに、その路上の障害物を見るような目。この手の視線、覚えがあるぞ。かつて所属したパーティー『シャイン』で、イケメンルースを見ていた娘たちが、視界に入った俺を疎んじる時のそれだ。


「噂の魔剣使い君か。……思っていたよりチビだな」


 馬上から見下ろしているから上からなんだろうけど、たぶん馬から降りたら、お前も俺とどっこいだと思うぜ?


「マルテディ殿……」

「ヴィオって呼んでくださいって言いましたよね、レオル団長」


 少々脹れっ面になるヴィオ・マルテディ。


「この冴えない男が魔剣使いとは。……ご心配には及びませんよ、レオル団長。僕の聖剣スカーレットハートが、魔族だろうが魔王だろうが討ち取ってみせますよ」


 笑い声を上げるヴィオ・マルテディ。意外と声が高いな、と思う。まるで子供みたいだ。


「申し訳ありませんが、マルテディ様、フォンテ団長」


 カメリアさんが一礼しながら、間髪入れずに言った。


「シンセロ大臣閣下から、ヴィゴ殿をお待ちになっています故、ここは――」

「ああ」

「うん、行っていいよ」


 煩わしいから、さっさと行けと言わんばかりのヴィオ・マルテディ。俺はレオルにだけ会釈して、ヴィオは無視した。


 カメリアさんに続いて王城に入る。


「小生意気な娘だったのぅ」

「ほんと、一発、馬から蹴落としてやろうかと思ったわ」


 ダイ様とアウラが言った。……え?


「小娘って誰のこと?」

「お主、気づかなかったのか?」

「あのヴィオ・マルテディって聖騎士よ。男装しているけど、あれは女ね」


 アウラが断言した。俺は驚いたが、カメリアさんはもっと驚いていた。


「マルテディ殿は男でないのですか?」

「女だ」

「女ね」


 ダイ様とアウラは、きっぱりと言い放った。


 少々驚かされつつ、俺たちは王城を進み、シンセロ大臣のもとへ向かった。

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